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打ち上げ

 文化祭兼体育祭の打ち上げ会場である焼肉屋に到着。まあ、打ち上げといってもいつものメンバーだから普段の食事と変わらないけどね。



「ああ、透か」

「真秀。相変わらず早いね」

「まあな。予約したの俺だから、遅れたら困るだろ」

「真面目だねー」



 だるそうに壁に寄りかかっている真秀。眠そうに欠伸している。……え、なんか今日の服気合い入れてない? 気のせいかな。ネックレスとか付けてるけど……真秀ってそんなタイプだったっけ?



「じっと見てどうした?」

「え、いや……ネックレス、珍しくない?」

「ああ……これ、この間凛堂先輩がくれたんだよ」

「なんで?」

「誕プレ」



 凛堂さん、誕生日プレゼントまで渡すとか本当いい先輩だなぁ。でも、なんで今更? 真秀の誕生日って五月だったはずだ。今はもう九月も半ば。かなり季節が違う。



「誕生日……真秀、五月だよね?」

「そうだな。凛堂先輩のことだから気を使ったんだろ」

「いや、気使いすぎじゃない?」

「俺もそう思う。でも突き返すのも悪いだろ」

「いやそうだけど……」



 どういう流れで渡されたのか知らないけど、真秀もびっくりしただろうな。そもそも真秀って自分のこと教えないから誕生日とか詳しく言わないのに凛堂さんには言ったんだ。珍しい。



「お、もう二人とも揃ってたのか!!」

「やっほ〜、おまたせ〜」



 二人して同じ方向から歩いて来た。陽くんと剛くんだ。陽くん、私服でも至る所に猫が散りばめられてる。あのパーカー、ポケットの部分猫耳だ。あんなの売ってるんだ、可愛い。剛くんは個性的だな。ピンクの服って何? しかもカーディガンが紫とか独得な色彩感覚にも程があると思う。でもこれ突っ込んじゃダメなのかな。



「剛二……どうしたんだ、その服……」

「ほらぁ〜! まーくんでも引いてるじゃん!」

「えぇ、そっそんな変じゃないだろ!?」

「変だよぉ〜! 限りなく変っ!」

「……まぁ、ファッションは人それぞれだからな……とりあえず、店に入ろうか。なぁ透?」

「うん。そうだね」



 真秀、分かりやすく話題をずらしたな。思ったより突っ込まなかったけど、剛くんなりのファッションだと察して気を回したんだろう。一瞬、え……マジで? みたいな顔してたの僕は見てたよ。


 店に入ると肉の焼ける香ばしい匂いがした。すごい美味しそうな匂いだ。



「んー、結構イケてると思ってたんだけど……」

「うわ……マジで引く」

「陽麻、口調変わってないか?」

「えぇ〜、そうかなぁ〜?」

「かなり変わってたと思うよ、陽くん」



 いつものゆるふわボイスじゃなくて、低い声で短く呟いてたし。陽くんって怒った時じゃなくてもあんな低い声出るんだね。急に低くなったから少しびっくりした。口調が変わるの本当にびっくりする。



「ま、気にせず食べようぜ」

「そうだな! オレ、あれ食べたいあれ!!」

「ボクはサラダがいい〜。あとウインナーも」

「おう。メニューあるから選んでいいぞ」



 席に案内されたあと、各々食べたいものを申告し始める。真秀が食べ放題プランで予約しておいてくれてるから、メニューから好きなのを選べる。安いけど、結構色んな種類があるみたいだ。



「そういえば、陽麻。何か報告があるって言ってなかったか?」



 トングで肉を焼きながら、真秀が陽くんに聞いた。陽くんはもぐもぐするのをやめてキョトンとし、ちょっとしてから思い出したらしい。飲み込んで水を飲んでから話し始めた。



「そうそう〜。すっかり忘れてたよぉ〜」

「笑ってないで教えろよ! 報告ってなんだ!?」

「報告ってほど大袈裟じゃないんだけど〜、実はボクね……麗ちゃんと付き合うことになりました〜!」

「え!?」

「陽くん!?」

「肉焼けたぞー」


 いやなに冷静に肉焼いてんだ真秀!? そこは驚くべきでしょ! おー、良かったな。じゃ、ないんだよ。食べながら言うんじゃない!!



「ううう、嘘だろ、えっだって……まさか、この、裏切り者!? ずるいぞっ、ずるい……ハルのバカ!!」



 剛くんはちょっと落ち着こう。一旦落ち着こう。動揺しすぎて乙女みたいになってるから。両手をグーにして口の前に持っていくんじゃない。それは流石に、それは流石に絵面的な問題としてやばい。正面にいてそれはやばい。ていうかなんなんだこの状況。隣では幼馴染が冷静に肉を焼き、目の前で割とごつい友達が乙女化。僕も混乱してきた。



「え、あの、陽くん?」

「んぅ、なぁに……あ、カルビ食べる?」

「いやそうじゃなくて。カルビは陽くんが食べていいよ」

「そっかぁ。あ、サンチュいる?」

「サンチュも間に合ってるよ」



 僕が聞きたいのはそこじゃないんだ。確かにお肉美味しいけどそうじゃないんだ。カルビとサンチュの組み合わせが絶品とかサッパリして美味しいとかじゃなくて、麗華さんとのことを聞きたいんだ。



「はははハル、オレ、マダ、そういうの、ハヤイと思う」

「別にあらぽんに言われる筋合いないもん」

「気にするな。剛二は寂しいだけだ」

「寂しい……ハルが遠くに行った気がする……」

「ボクは元々あらぽんの近くにはいなかったけどねぇ〜」

「酷い! 酷いぞハル!!」

「そんなことよりさ、どうして急に付き合うことになったの?」



 この間まで全然そんな素振りなかったと思うけど。たしかに麗華さんから陽くんへの好意はあったとは思う。でも、陽くんは恋愛的な意味で好きというのはなさそうだったけどなぁ。意外と気になってたりしたのかな?



「え〜なんか言うの恥ずかしいからやだ〜」

「教えろっ! この際洗いざらい話せ!!!」

「あらぽん野蛮〜っ!」

「でも俺も気になるな」

「ん〜、仕方ないなぁ。答えれるとこは答えてあげる!」



 ご飯をおかわりして、いつの間にか大量に注文されていたお肉を食べながら、陽くんは質問攻めにされていた。一番聞いているのは剛くんだ。



「告白はどっちからだ!?」

「ボクから〜。女子に言わせるのはダサいも〜ん」

「いつから付き合ったんだ!?」

「ん〜、この間? 呼び出されたから会いに行ったよ」

「’あれ、呼び出されたのに告白したのは陽麻からなのか?」

「そ〜だよ。告白されそうになったからボクから言ったの」

「えっ、陽くんも麗華さんのこと好きだったの!?」

「好きっていうか……麗ちゃん以外あんま興味無いもん」

「純愛だな……っ!!!」

「なに泣いてるのあらぽん……」

「陽麻がドン引きしてるぞ」

「男泣きってやつかな? 剛くん、ハンカチ使う?」

「使う……ありがとな!!」



 なんか、凄いなぁ。聞けば聞くほどドラマで見る恋愛みたいだ。人ってこんな簡単に付き合ったりするんだ。気が付かなくても互いに好きで、ある時何かのきっかけで気が付いて付き合って……僕には縁遠い。



「というわけで、麗ちゃんはボクの彼女だから変なことしないでね〜っ」

「するわけないだろ。でも良かったな、付き合えて」

「うん。良かったぁ〜っ!」

「幸せにな……!」

「あらぽん、変な目で麗ちゃんのこと見たら叩くからね。猫パンチってするから」

「陽くん、そこまで麗華さんのこと好きだったんだね」

「好き、というより……幼なじみだから。ずっと一緒に居たんだもん。これからも一緒がいいじゃん」



 僕には好きとか恋愛とかよく分からないけど。陽くんは楽しそうだし、麗華さんも恋が実って良かった。幸せなのが一番だよね。



「ボクの話はこれで終わり! 次に行こ!」

「次って言ってもなぁ……」

「そういや真秀は彼女いないのか!?」

「急になんだよ」

「モテるんだろ!?」

「確かに。モテるくせに浮ついた話聞かない」

「透までどうしたんだよ……」

「よぉ〜し、取り調べだぁ!」

「別に普通だよ。あ、そういえば……透のことを噂してた奴がいたな……」

「なんだとっ!! 透まで……オレだけモテないのはゴメンだ!」

「えっ、いや、僕は全然モテないよっ!?」

「黙れー! こうなったらお前ら二人とも怪しい所吐き出させてやるからなーー!!」

「取り調べだ取り調べだぁ〜っ!」

「陽麻までノリノリだな」

「あんまり騒ぐとお店の人に怒られるから……」



 この後はずっと恋話で盛り上がった。といっても話せることなんて好きな子のタイプとかドキッとした時の話くらいだったけど。陽くんは早速惚気けてて、剛くんはその度にやきもきしていた。


 気が付けばいつの間にか、時間は来ていて解散になった。道は真っ暗だ。恋愛、なんて引きこもってた時はまるで考えたこと無かったけど……高校生にもなればそういうのもあるんだろうな。僕のクラスって一応女の子多いし、可愛い子もいっぱいいるから人によっては羨ましいのかもしれないけど……想像つかないな、恋愛なんて。誰も僕なんか好きにならないだろうし。



「恋愛ねぇ……」


 

 そういえば、優は誰かに告白されていたな。好きな人がいるって、断っていたけど。真秀もよく噂されているみたいだし、告白ぐらいされているだろう。きっと言わないだけで。剛くんは……ないな。多分僕と同類。そうだと願いたい。



「はぁ……」



 溜息をつきながら、僕は帰路に着くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実質陽麻君の一人舞台なのにゴン……剛二君の印象が頭から離れません。男子の恋バナとかいう貴重な展開の筈なのに声量と外見に全部持っていかれたようです。 [気になる点] 「待てって言ってんだろっ…
2020/06/01 06:45 退会済み
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