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体育祭編6

 クラスリレーでの事件も無事処理が終わり、まるで何事も無かったかのように色別リレーが開始された。



《本日最後の種目、色別リレー! 泣いても笑ってもこれで全てが決まりますっ!》



 アナウンスの人が煽ると熱気が増した。学年問わずに組で対抗するこのリレーは、体育祭一番の目玉だ。……その前に変な形でだいぶ盛り上がっちゃったけどね。



「えへへ、陽君の活躍ちゃんと撮らないと……」



 クールビューティなはずの麗華さんはどこにそんなものを持っていたのか、本格的なカメラを用意し撮影準備に入っている。準備どころか待機しているだけの陽くんを既に連写している。いつもキリッとしているのに顔は緩んでるし、完全に恋する乙女という感じだ。



「あっ、麗ちゃ〜んっ!!」



 麗華さんの姿を見つけたのか、ぶんぶんと音が出そうなほど大きく手を振る陽くん。表情までは見えないが、多分笑顔だろう。



「……はぁっ……可愛い……陽君……」



 カメラを持ったままその場に崩れ落ちる麗華さん。なんか麗華さんのクールなイメージがどんどん無くなる。陽くんが関わると態度が百八十度変わるんだな。



「よっ、透」

「あれ、真秀だ。なんでここに?」

「出番が終わったからな。暇だしこっち来た」



 言いながらさっきまで優がいた僕の隣の椅子に腰掛ける。走ったからか、いつもより気だるげだ。とりあえずお疲れと声をかけると、おーという返事が返ってきた。



「さっきは大変だったね」

「あー、凛堂先輩と櫻井先輩のか」

「そうそう」

「二人とも人気あるからな。ま、凛堂先輩は自覚してないみたいだが」

「え、自覚してないの!?」

「見た感じな。ついさっき先生に叱られてる時も不思議そうにしてたぞ」

「自覚してない人がウインクなんてする?」

「そんなこと俺に言うなよ」



 だって自覚してるから需要に合わせてファンサービス的なことをしているんじゃないのか。でも凛堂さん人当たり良さげだから『応援ありがとう』という意味でやった可能性もあるのかな? それとも目が合ったからなんか反応しておこうと思ったとか?



「それより陽麻の活躍見なくていいのか?」

「あ、そうだった!」

「丁度空いてるし前に行くか」

「うん」



 前に行くと、人混みの中で少し空いている場所があった。人がごった返しているにも関わらずスペースがあるのは、多分麗華さんが原因だろう。



「はぁっ……陽君……」

「歩く陽君に座る陽君、そして靴紐を結ぶ陽君……」

「あっ、カメラ目線……」



 ぶつぶつと早口で呟きながら、ひたすら写真を撮っている。控えめに言ってかなり怖い。指擦り切れそうな勢いで撮ってるもん。やばいよ。恐ろしいよ。



「ああ、鬼島か。隣失礼するぞ」

「陽君……陽君……」



 平然と声をかける真秀も怖い。でもそれ以前に麗華さんまるで聞いてない。陽君のことになると我を忘れすぎじゃないかな!?



「お、順番的に丁度俺らの前通るな」

「そ、そうだね」

「一応携帯で撮っといてやるか」

「うん……」



 真秀、気にしないにも程があるよ? メンタル強すぎるよ!? 僕、真秀を間に挟んでてもちょっと怖いのに。



「そろそろだな。しっかり応援してやれよ?」

「が、頑張るよ」



 向こう側でスムーズにバトンが渡され、陽くんが走り出す。順位は三位だが、頑張れば一人抜かせそうだ。一位の人とはかなり離れている。陽くんがいくら足が速くても追いつくのは難しそうだ。



「なかなかいい勝負だね」

「そうだな」



 抜かせるか抜かせないか……という所で陽くんの横を走っていた人が足をスっと陽くんに向ける。陽くんは驚いた顔をした後、転んでしまった。



「……足、かけられたな」



 真秀が小さく呟く。僕にも足払いをかけられたように見えた。陽くんが立ち上がる間に何人かが通り過ぎる。



「……あの腐れ頭ァ……待てやコラァッーー!!」



 声の主は陽くん。だけど、いつものふわふわしたものではなく低く唸るような声だった。


 吼えながら立ち上がった陽くんはかなり離されたはずの距離を瞬く間に詰め、あっという間に元の順位まで戻った。



「待てって言ってんだろっ……くーまーりーん!」



 最後の方は口調が戻っているが声はドスが効いている。アンバランスさが余計怖い。足かけた人のあだ名ながくまりんなのか分からないが、必死に逃げている様子が見て取れるため、多分あの人がくまりんだ。



《え、ーと……アクシデントがあったものの怒涛の追い上げを見せました! 盛り上がりも更に増してますっ!》



 結局、くまりんを抜かし返すことは出来なかったが、ほぼ追いついた。状況は振り出しに戻ったに近いが、陽くんの覇気に気圧されたのかくまりんはバトンパスを失敗し落としてしまった。



「……陽くん、すごいね」

「あ、ああ。あんな声初めて聞いたな……」



 真秀も驚いているのか、目を丸くしている。その隣で麗華さんは誇らしげな顔をしている。



「ふふ、陽君はすごいだろう!」



 僕らの方を向いて高らかに言う麗華さん。陽くんが転んだ時はあからさまに狼狽えていたけど、そんな気配はもう微塵もない。



「陽君はな、普段は優しくて温厚で可愛くて優しいのにここぞって時はかっこいいんだ!」

「お、おう。優しいが二回入ってるな……?」

「真秀、そこは突っ込まないで」

「いじめっ子にからかわれた時も助けてくれるし……たまに怒る時に出る荒い口調がまたかっこよくて……」

「そ、そうなのか」



 真秀が戸惑ってる。めちゃくちゃ困惑した顔している。なんか珍しい。それに目が泳いでてちょっと面白い。



「……ああでも、怪我をしたのが心配だ。早く陽君を手当しに行かないと……」

「あー、落ち着け落ち着け。さっき保健室に向かったのが見えたぞ」

「そ、そうか。なら平気だろうか。うんうん……」

「それにもう全種目終わったからな。すぐにでも会えるだろ」

「そうだな……ああうん……はっ!?」

「な、なんだ?」

「途中から写真を撮るのを忘れていた……」



 表情がころころ変わる麗華さんに、変化についていけなくてちょいちょいびっくりしている真秀。どっちもクールさが売りなのにいつもと違って感情が出てる。



「写真……動画なら真秀が撮ってたね」

「あぁ、いるか鬼島?」

「もちろんだ。すぐにでも送ってくれ」

「お、おう。LIME……は交換してないな」

「ドロップでいいだろう。それならすぐできる」

「これか。ほらよ」

「助かる」



 淡々と動画の受け渡しをし、真秀はそそくさと自分のクラスへ帰って行った。皆も最前列から戻っていく。これから閉会式があるからだ。色々トラブルはあったものの、この閉会式で体育祭は終わりを迎える。


 高校生活が始まって約半年。文化祭も体育祭もあっという間だった。友達ができるか、楽しめるか心配していたけど……意外と楽しかったな。次はどんなことが待っているか楽しみだ。

文化祭に続いて体育祭も無事終わりました。ここまでお読みいただきありがとうございます。宜しければブクマ等下さると大変励みになります。

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