文化祭編8
正面にはライトで彩られたステージ。まだ真秀達はいないけど、セットだけでも見ているとドキドキする。
「あ、とおるんだ〜!」
「お、トウも見に来たんだな!!」
背後からふわふわした声と勢いのある元気な声が聞こえた。振り返ると陽くんと剛くんの二人がいた。
「とおるん、まーくんはまだ準備中なの〜?」
「そうみたい」
「シンのライブ楽しみだ!」
「あらぽんずっと言ってたもんねぇ〜」
話しながら二人は隣にやって来た。狭そうなので少し優の方に身を寄せた。優は友達に頼まれたという動画を撮るためか、携帯を操作して構えているようだ。
「ここなら問題なく撮れそうです!」
「本当だ。全員映りそうだね」
「はいっ。友達も喜んでくれそうです」
真秀達を見た後だと、優の友達が動画を撮ってくれと頼むのも分かる気がする。顔面偏差値高いし、アイドルっぽい扱いなんだろう。ここにも女の子達いっぱいいるしね。
「あっ、まーくんだぁ〜!!」
「シン、見に来たぞーーっ!!!」
真秀や凛堂さん達がステージに出てきた。ん、真秀が僕達に気づいたみたいだ。手を振ってる。あ、凛堂さんも微笑みながら会釈してくれた。
「「「キャーーーーッ!!」」」
黄色い悲鳴があちこちで上がる。ちょっとびっくりした。叫び声すごいな。喉枯れないのかな?
「申し訳ない、セッティングに時間がかかってしまって……」
「キャーーーーッ! 凛堂ーーーッ!!」
「ごめんね、ハニー達」
「春樹ーーーッ! 愛してるーーーッ!!」
「でもその分いいモノ見せてあげるね?」
「金城ーーーッ!」
「俺っちの活躍見てってなぁ!」
「わぁーーーっ! 拓真ーーーッ!!」
真秀以外の人が口々に言い、その度に悲鳴が上がる。耳が痛いくらいだ。因みに真秀は何も喋らない。軽くギターを弾いたりスピーカーぽいものをいじったりしてしてなんかやってる。
だが、そんな姿でさえカッコ良く見えるのか女の子達の囁きが聞こえてくる。
「真秀くん、相変わらずクール……」
「でもそんな所もいいよね!」
「分かる。ミステリアスっていうか……いいよね」
「うんうん。弾いてる時たまに笑顔になるのもいい!」
バンドをやるとモテるって本当なんだなぁ……。別に羨ましくないけど、決して羨ましいわけではないんだけど、あの真秀が! アイツでさえもキャーキャー言われてるのなんか腹立つ。皆騙されてるんじゃない? 真秀はクールでミステリアスどころか、冷たい割に笑いのツボ浅くてクーポンとか集めるのが好きな変な奴だよ?
「盛り上がりはバッチリだね、ハニー達」
「キャーーーーッ!」
あのピンク髪の春樹って人、さっきから気になってたけど女の子のことハニーって呼んでるんだ。僕とかがやったらドン引きされるだろうに。多分別の意味で悲鳴が上がるよ。ウインクまで決めてて……ちょっと尊敬するレベルだよ……。
「短い時間ですが、楽しんでいってね」
「凛堂ーーーッ!」
そう言えば凛堂さんはボーカルなんだね。マイクの前にいるし。春樹さんはキーボードなのか。拓真さんは……ベース? ギターは真秀だから多分ベースなのかな。で、あの金髪のチャラそうな人がドラムか。あの人の名前、金城って言うんだ。名前まで豪華だ。
「今日は二曲歌います。知っている曲なら一緒に歌ってくださいね」
凛堂さんはそのまま曲名を告げる。僕でも知っている有名な恋愛歌で、明るい曲調の歌だ。歓声の後に一瞬だけ、しん……と静まって、弾けるようにたくさんの音が鳴り響いた。
「「「キャーーーーッ!!!」」」
凛堂さんの歌声が音の中に加わると歓声も大きくなった。落ち着いている話し声と同様、歌声も大人っぽい落ち着きを感じさせる。青春を走り抜けるような歌詞なのにその声が妙にマッチしていた。
「す、すごかったね……」
「そうですね。夢を見ているようにふわふわしていて……記憶が曖昧です」
「でもインパクトが強かったよね〜。まーくんもかっこ良かった〜っ!」
「シンもそうだが、皆上手いな!!」
「あとあらぽんに比べて断然かっこいー!」
「オレを引き合いに出すなよ!?」
ライブが終わってホールの外で駄弁る。正直、雰囲気に飲まれていて記憶が曖昧だ。途中から周りの声も聞こえなくなるくらい夢中になっていた。
「私、途中で撮っていることを忘れて見入ってしまったので……ちゃんと撮れているか心配です」
「そっか。そう言えば撮ってたんだっけ?」
「はい……画面切れてないといいんですけど」
「まぁ大丈夫じゃない? 最悪音だけでも」
「あはは……その時は謝ります」
動画、僕も撮っておけばよかったな。一応幼馴染の晴れ舞台だったわけだし。あそこまで夢中になるとは思ってなかったし、見返してじっくり見たい。
「あっ、そうだ。透くんも良ければこの動画要りますか?」
「えっ?」
「ほら、真秀さんと透くんって幼馴染じゃないですか!」
「あ、うん」
「私ので良ければ送っておきますよ?」
「じゃあお願い。丁度欲しいと思ってたんだ」
「分かりましたっ!」
なんてタイミング良いんだ。見るかどうかは分からないけど思い出としてあってもいいよね。多分見返すよね、いつか。
「とおるん、ボク達これからお化け屋敷巡りするからまたね〜!」
「ハル……ままままた、行くのかっ!?」
「そうだよあらぽんっ、覚悟決めて〜っ!」
「嫌だァァァァァッ!!!!」
剛くんは陽くんに引きずられて消えていった。あの二人もしかして今日ずっとお化け屋敷巡りしてるのかな。確かにホラーチックな出し物多いけど……剛くんかなり嫌がってたな……。ビビりだししょうがないけどさ。容赦ないなぁ、陽くん。
「私達はどうしましょうか?」
消えていった二人を哀れなものを見る目で見つめた優は苦笑い気味で僕に尋ねる。多分、今はお昼くらいだから文化祭が終わるまで、大体二時間ほどだろう。
「うーん……何しようかなぁ」
「昨日回った所も多いですし……悩みますね」
「取り敢えず、お腹空いてない?」
「は、はい。ご飯食べに行きますか?」
「うん。そうしよう」
僕達はお腹を満たすために食べ物屋を巡った。ホットドッグや焼きそば、弾けるアイスに虹色のトッポギ(二回目)など。
〈これにて、文化祭は終わりです……。生徒は自分のクラスに戻り、解散してください〉
文化祭の終わりを告げるアナウンスが流れ、僕と優は自分の教室に戻った。
「いない奴はいるかー? いないな。じゃ解散!」
気だるそうに人数を確認した先生は、すぐホームルームを終わらせ解散になった。本当にあの人なんで教師になったのかが不思議なくらい雑だな。熱血も嫌だけどあれでいいのか?
「まぁいいや……帰ろう。えーと真秀は……」
携帯を開くと真秀からメッセージが。なになに、今日は軽音部で打ち上げがあるから帰りは別で。ああ、なるほど。じゃあ待つ必要はないね。
鞄を持って、昇降口を出ると体育館裏に優が向かうのが見えた。……どうしたんだろう? あんな所に道なんてあったんだ。ちょっとついてってみよう。
「あ、あのっ。突然すみません柚山さん」
「いえ……。手紙をくれたのって貴方ですか?」
「そ、そうです。僕です!」
え、何この今にも告白が起きそうな現場。ちょっ、あそこの物陰に隠れよう。盗み聞きするみたいであれだけど……今出ていくのもバレそうで怖い。邪魔しちゃ悪いし、不可抗力だよね。
「それで、なんの御用ですか?」
「そそそ、そのっ、実は僕……ゆゆゆっ柚山さんのことが……すっ好きなんです!」
「へっ……!?」
あっ、これは告白だ。間違いなく告白。僕は今告白現場に居合わせている。何この青春。後だんだん盗み聞きしてるのがいたたまれなくなってきた。
「ぼぼぼ、僕っ僕と……つつつ付き合って、くくくくれませんかぁっ!?」
落ち着け、落ち着くんだ男の方。顔は見えないけど声のうわずりが半端ない。声だけで緊張しているのが伝わってくるよ!?
「あの、えっと……ごめんなさいっ!」
「ど、どうして!?」
「わ、私……好きな人がいるんです」
「嘘……だろ……!?」
「ごめんなさいっ!」
男の方声の悲壮感がえげつないけど……えっていうか優、好きな人いたの? 待って知らないよそんなの。いや嘘でしょちょっと待って!?
「だだだっ誰なんだい? その相手って……」
「えっと……ごめんなさい。言えないです」
まあ、そりゃそうだよね。というか言ったらあの男の人、優の好きな人に会いに行きそう。完全なる偏見だけど。
「そ、それじゃあ……失礼しますっ!」
優はそれだけ言って走り去っていった。男の方はまだいるっぽい。なんか啜り泣く声が聞こえてくる。ちょっと、というかだいぶ大きい声で泣いている。本当にショックだったんだ……。
僕はそれからしばらく男の泣き声を聞いて、中々帰りそうになかったので、気づかれないように注意してその場を離れた。
「……見ちゃいけないものを見てしまった……」
一人、家で呟く。優に会った時今日のことは聞かなかったことにするとしても、少し気まずい。うーん、そもそも好きな人いるなら一緒に文化祭回ろうなんて言ったの迷惑だったかなぁ……。優の性格的に断りにくかったのかもしれない。
「そう言えば、イメチェンしたのもその人のためだったり……?」
取り敢えず、友達の恋なわけだし密かに応援しておこう。余計なことはしない方が良いだろうけど、優みたいないい子には幸せになって欲しいしね。




