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文化祭編6

 教室の入口付近に設置してある受付には僕らの前に二組ほどいた。一番前にいるのは女の子三人組で、もう一組は男子二人組だ。


 そして、店内は半分以上の席が埋まっている。ざっと数えて十人程だろうか。強烈な見た目だが思ったより食べる人がいるんだな。



「どんな味がするんでしょうね……?」

「うーん……変な味はしないと思うけど、どうだろうね」



 僕達は少し声を抑えて、チラチラと紙コップに視線を飛ばしながら話す。優の顔はどこか不安げだ。



「例え変な味だったとしても残すのは申し訳ないですし……」

「そうだよね。量は多くなさそうだけど、えげつない味だったらどうしよう……」



 色というのは本来大事な情報なのだが虹色という奇抜な色のせいで味の想像がつかない。率直に言って、不味かったらどうしようという不安が消えない。そもそもどうやってあの色にしたんだ。着色料たっぷりじゃないの、あれ。



「あっ!」

「透くん、どうしましたか?」

「一個だけ頼んで僕と優で半分こしようよ」

「えっ……?」



 一人一個食べるよりも負担が抑えられる気がする。ただ味があれという前提で進めているのは罪悪感があるけど。



「そっ、そうですね!」

「……あ、嫌だったら一個ずつでもいいよ」

「いえ、嫌とかではないんですけど……ちょっと驚いちゃいました」

「ん? なんで?」

「こ、こういうこと慣れていないので……」



 驚いた顔をしていたから嫌がられたかと思った。文化祭の雰囲気に浮かれて変なことを口走ってしまったと脳内反省会が行われている所だった。……優が優しい子で良かった。



「お待たせしましたー。どうぞー!」



 快活そうなツリ目の女の子が僕達に向かって声を掛けてきた。彼女の後ろではせっせとお金やら半券やらを用意している生徒が複数名いる。



「ご注文は決まってますか?」

「あ、これ一つお願いします」

「かしこまりました。ではこのチケットを持ってあちらでお待ちください」



 僕は言うと同時にお金を渡す。すると彼女は手書きの半券を代わりに渡してくれた。



「あとでお金半分出しますね!」



 優がこっそり僕に告げる。混んでいたのでまとめて出したのだが、たった百数円でも律儀に出してくれるなんて本当に優しい。多分真秀だったら僕の奢りとか言って払わないだろう。安いし別にいいけど。



「えーと……あっ、これ夢咲くん達かな?」



 琴音ちゃんが紙コップを僕に手渡す。そして半券を受け取りファンシーなネズミの描かれた箱へ入れる。 繁盛している分忙しそうだ。



「席、空いているので座りましょうか」

「そうだね。あ、ちょっと待って」



 僕は紙コップについているフォークが一つしかないことに気付いた。流石にこれはまずい。僕は優に紙コップを渡して先に席に座って貰ってからフォークをもう一つ受け取りに行った。



「あの、フォークもう一つ貰えますか?」

「んー? ああはいこれ」

「ありがとう」

「……なに、あれ彼女ー?」

「えっ、ちちち違いますけど!?」



 なんだかやたらフレンドリーな男子生徒に絡まれた。割とチャラそうな見た目と話し方だ。茶色っぽい金髪だし、というか無駄に顔が整っている。いや、マスクをしているから確かではないが目元から漂うイケメンオーラ。しかもニヤニヤしている。なんだこいつ。


 僕はフォークを奪い取るようにして優の元へトンボ帰りした。一刻も早くコミュ力が高そうなあの男子から離れたかったのだ。



「あ、おかえりなさい」

「うん。ただいま」

「フォーク取りに行ってくれたんですね、ありがとうございます」

「いえいえー、じゃあ食べようか」

「そうですね!」



 中には虹色の液体と四本のトッポギ。取り敢えず、一本ずつフォークで刺して食べることになった。本来は小麦色のはずのトッポギが虹色の液体を滴らせている。



「……では、食べてみましょう!」

「う、うん」



 同じタイミングでそれを口にする。マカロニのように柔らかで弾力のある食感とピリリとした辛味。……あれ、思ってたよりも普通の味だ。



「……って、え、ちょっ……辛ぁっ!?」



 味は普通だが飲み込んだ瞬間喉の奥から込み上げてくる強烈な辛さ。やばい、体が受け付けない。咳と涙が止まらない。



「確かに結構辛いですね……」

「げほっ……ごほっ……水、水をください」

「大丈夫ですか!?」

「全然、大丈夫じゃない」

「わ、私飲み物買ってきますっ!」



 校内にある自販機で飲み物を買って帰ってきた優はキャップを開けた状態で水を僕に渡した。



「ありがとう……」

「いえ! それより大丈夫ですか?」

「うん……ああびっくりした……」

「味は普通でしたが辛さが結構強いですね」

「うん……」



 まさか味ではなく辛さで痛い目を見るとは思わなかった。なんということだ。まだ舌がビリビリする。



「なんか優全然大丈夫そうだね」

「へ?」

「だってほら二本目食べてるし」

「慣れたら辛くないですよ?」

「そうなの?」

「はい。多分透くんも食べられると思います」

「えー、そうかなぁ?」

「見た目に気を取られていたので予想外の辛さだっただけですよ」

「じゃああと一本だし食べてみるね」

「はいっ」



 確かに味のことを考えていて辛さなんて考えていなかったからね。言われてみればそこまで辛くなかった気もする。優が平気なら僕だって多分大丈夫だろう。



「……ってやっぱり辛ぁっ!?」

「ふふっ、面白いですね」

「待って、酷くない!?」

「のたうち回ってるのがとても面白いです」

「面白がらないで!?」



 口元を押さえて笑う優。かなり楽しんでいるようだ。……ああもう本当に辛いな、これ。いくら水を飲んでも全く治らない辛さ。もう本当にやだ。



「では食べ終わったので次行きましょうか?」

「えっ、もう行くの?」

「並んでいるみたいなので、早く出た方がいいかと思いまして」

「ああ、本当だ……」



 僕達は琴音ちゃんに挨拶をしてからトッポギ屋を後にした。優の言っていた通り、外には行列ができていてかなり混んでいる。多分提供に時間がかかるから入れる人も限られてしまうのだろう。



「次はどこに行こうか?」

「まだ真秀さんのライブには時間がありますね」

「そうなんだよねー、まだまだあるよ」

「透くんが行ってみたい所はありますか?」

「んー……甘い物が食べたいかなぁ」

「甘い物、ですか……」



 優は少し考える仕草を見せたあと、思い出したかのように声を上げた。



「そう言えば同じ陸上部の子が茶道部にも入っているそうなんです」

「茶道部?」

「はい。今日だけらしいんですけど」

「へぇー。でも茶道部って何やってるの?」

「お茶会を開いているそうです。和菓子とお茶でもてなすって聞きましたよ?」

「えっ、和菓子!?」

「せっかくなので行ってみますか?」

「うん、行く!」



 こうして僕は優と一緒に茶道部の所へ向かった。茶道部は校門近くにある小さな茶室で出し物をやっているようだった。



「わぁ……本格的だね」

「ですね。こんな所があったなんて知りませんでした……」

「見て、浴衣着てるよ!」

「本当ですね。華やかで綺麗です」



 お茶会一席三百円と書かれた看板が立て掛けられている。近くには色とりどりの浴衣を着た女の子がいて、受付をやっている。



「もうすぐお茶会始まりまーす!」

「良かったら参加していってくださーい!」

「美味しいお菓子がありますよー!」



 何人かは呼び掛けを行っている。優はその中の一人と知り合いらしくにこやかに話していた。多分、さっき言っていた友達だろう。



「透くん、丁度入れるそうなので行ってみましょう」

「うん。そうだね」

「なんだか緊張しますね……」

「だね……」



 静かな空間なのでとても緊張する。大人しく畳に座っていると浴衣を着た黒髪の女の子が出てきた。そろそろ始まるようだ。僕はそわそわしながら始まるのを待った。

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