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文化祭編5

 朝、いつもより早く目が覚めた。それは当然、いつもより早く寝たからである。夕飯もそこそこに、シャワーを浴びて直ぐ、僕は寝てしまったのだ。


 伸びをして体を解し、朝の準備を始める。最近涼しくなったとはいえまだ暑さも湿気も残っている。ぴょんぴょんと跳ねまくり遊んでいる髪を必死に直した後、トーストを口にする。


 ふと見た窓からは雲一つない青空が見える!



「いい天気だなぁ……」



 今日は文化祭二日目、一般公開の日で普通のお客さんも入る日だ。とはいえ、僕がすることはせいぜい文化祭を楽しむことだろう。未だにクラスでは話さない人が多いが今日はせっかく優とより仲良くなれるチャンスである。


 中学時代が同じだったとはいっても殆ど接点はなかったし、むしろ僕は忘れていたわけだけど仲良くなりたい気持はある。それに、そろそろ真秀に頼るのも止めにしたい。今までなんだかんだ世話になっているしこれでも一応罪悪はあるのだ。


 というかいい加減話せる人を増やさなくてはいけない理由がある。



「文化祭が終わったら体育祭……そして中間テストを挟んで直ぐに国内学習か。ハードワークだなぁ」



 二学期は学校行事が盛りだくさんで文化祭は序章に過ぎない。だが、仲を深めるのには最適な行事でもある。文化祭準備で新たに何人かとは話すことが出来たし一応貢献はしたのでグループ分けとかで除け者にされることはないとは思う。小学生の時とか残ること多かったし出来れば高校では避けたい。



「あれ……そういえば班分けってどうするんだろう。このクラス僕しか男いないけど、流石に女の子の中には混ぜないだろうし……」



 まあ、それはこの文化祭が終わったら決めることだろう。体育祭までの期間は短いが二三日は授業を挟むしそこで話し合いでもするのかな。


 考え事はそこまでにして、最後の一口を食べ、もう一度洗面台に行く。どことなく普段よりも注意深く自分を見て、問題が無いことを確認して学校に向かった。




「あ、おはようございます。透くん」

「おはよう、優」



 普通の教室とは一風変わった、文化祭独特の雰囲気を放つ室内へ入ると、優がいた。相変わらず早い登校だ。


 挨拶を返して、その辺にあるテーブル風に整えられた席へと座る。優とは絶妙に離れた位置で、近すぎず遠すぎない場所を選んだ。話している分にはいいけど少しの沈黙がある時は距離感に困る。



「そ、そういえばなんですけど……」

「ん? 何、優」

「真秀さんのライブって何時からなんですか?」

「えーとね、確か11時30分からって聞いたよ」

「そうなんですね。始まるのが9時からなので結構時間がありますね」



 この情報は真秀から聞いたのではなく剛くんと陽くんの二人が教えてくれた情報である。彼らは今日は別々で違う友達と回るらしいが真秀のライブの時だけ単独でそれぞれ来るらしい。軽音部のライブは例年人気だそうなので出会える確率は少し低いだろう。



「まずどっかで時間潰してからライブに行って……大体10分から15分位で終わるらしいよ」

「意外と短いんですね?」

「うーん……多分人数も多いし一組にあまり時間を取れないんじゃないかな」

「なるほど。そういう理由があるんですね」



 練習期間も短いだろうし弾ける曲自体も一二曲が限度なのだろう。それにしても、バイトもしていて真瑞ちゃんの面倒も見ていて尚且つ、軽音部もやっているとは恐るべき男だな。週一でしか活動がないとは言っていたけどそれ以外でバンドメンバーで集まってスタジオを借りて練習することもあるらしいし、タフにも程があるだろう。



「でも……その位で終わるなら、後二時間程余裕がありますね」

「そうだね。他に誰か知り合いがいればそっちを見たりも出来るんだけどなぁ」



 生憎、僕にはそんな人はいない。昨日見たい所は見たし二日目は何をしようか迷いどころだ。もちろん、相手が違うのだから同じ所に行っても楽しめるとは思うのだが……やっぱりまだ慣れないしちょっと不安だ。



「あっ! それなら私、琴ちゃんの部活の出し物見に行きたいですっ!」

「琴音ちゃん? 何部だっけ?」

「えっと、ESSと美術部です」

「えっ、掛け持ちしてるんだ……」

「美術部は中学の頃かららしいですが、最近ESSも誘われて入ったらしいですよ」

「へー、それはすごいね」



 なんとなく絵が上手そうなイメージはあったけど、英語も話せるのか。優に勉強を教えているのを見た事があるけど、頭もよく優しいくて多才なんて羨ましい限りだ。



「二つとも出し物をしているとの事だったので遊びに行きましょう?」

「いいね、楽しそう」

「後でどの時間にいるか聞いておきますね!」

「うん。ありがとう」

「いえいえ!」



 これで行き先はいくつか決まった。途中お昼を兼ねてご飯を食べたり娯楽系で遊んだりしつつ友人の所へ遊びに行く。こんな感じか。うん、とても青春だ。



「おーし、出席取るぞー、休みや遅刻はいるか? いないな。じゃあシフト以外の奴は遊びに行っていいぞー」



 気づくとホームルームは始まっていて、クラスメイトも揃っていた。いつの間にか話し込んでいたようだ。二学期になっても相変わらず怠そうな先生は言うだけ言ったらさっさとどこかへ行ってしまった。


 皆も各々が動き始める。僕らもそれに倣って動くことにした。ちなみに、今まで優と行動することにあまり触れていないのはどこか照れくさいからだ。


 まず僕らは先に琴音ちゃんがいるというESSの部室へ向かっている。琴音ちゃんは午前中はESS、午後は美術部の方にいるということをさっき優が確認してくれた。だから今は部室へ向かう途中だ。



「あ、そういえば優は部活何かやってるの?」

「へっ、私ですか? えっと、私は陸上部です」

「えっ!? 陸上部なの!?」

「は、はい……言ってませんでしたか?」



 さっきの流れでふと思い出したので聞いてみる。すると意外なことを優は口にした。


 え、ちょっと待って、そんなの聞いてない! 聞いたとしても覚えていない。僕はてっきり文化系の部活だと思っていたから驚きも一塩だ。



「え、陸上部って……何やってるの?」

「ええと、 私は主に短距離とハードル走をやってますね」

「ええっ!? ハードルって僕が小学生の時まるで飛べなくてあまりの下手さ加減にわざと手を抜いているんじゃないかと思われて居残りさせられたあのハードル!?」

「えと多分透くんの想像しているハードルで間違いないかと思いますが……あの、そんなことがあったんですか?」

「うん。最後は無理やり飛んだせいで酷い目にあったよ……」



 何度やってもハードルを飛べず、というか走りながら飛ぶという動作が出来なくて毎度ハードルに突っ込んでいた。


 本当に出来ないのに手を抜いていると思われた挙句、居残りさせられた僕は必死の思いで飛んだら着地に失敗して受け身も取る事が出来ず、盛大にずっこけて腕を骨折したのだ。


 しかも利き手である右手だ。僕はやれば出来るといったあの体育教師を絶対に許さないとあの時心に誓った。やっても出来ないどころか深手を負ったじゃないか、さらに最後まで僕がふざけていたという思い込みをしていやがったし。普通にやっても危ないのにふざける訳がないだろ、馬鹿じゃないのか。



「そ、そうなんですね……嫌なこと思い出させてすみません」

「いや、そんなことないよ。僕はあんな複雑な動きが出来る優のことを心から尊敬するよ!」

「ありがとうございます……でいいのかな……」



 優は運動神経がいいんだろうな。おっとりしていて大人しいけど意外な一面もあるんだなぁ。僕は走るのでさえ遅くてやばいくらいだし素直にすごいと思う。神様は僕に生活に必要な運動機能以外を与えてくれなかったんじゃないかと思うくらい出来ないんだよな、運動。球技なんてただのデスゲームと化すし。



「あ、ねぇねぇ。優って陸上以外も得意なの? バスケとかバレーとか」

「そうですね……小学生の時は陸上の他に助っ人としてバスケ部やバレー部をやっていましたし、多少は出来ると言えますかね」

「うわぁ……本当にすごいね」

「いえ、全然ですよ。中学時代は引きこもっていたので運動なんてまるでしませんでしたし本気で打ち込んでいる人には勝てませんから」



 照れたように笑っているが、言葉自体はあながち謙遜という訳でもなく本気でそう思っているみたいだ。僕からすればボールをキャッチするだけでもすごいことなのだが、上手い人には上手い人なりの悩みがあるのだろうか。



「あ、ほらESSの所へ着きましたよ」

「ん? 本当だ」

「えっとこれは……トッポギ屋さん、ですかね?」

「そう、みたいだね。色はなんかレインボーだけど」



 着いたのは韓国の文字、確かハングル文字といったか。それで書かれた店名とトッポギのイラストが描かれた教室。ただし、普通のトッポギとは違う。液体が赤色ではなく色鮮やかなレインボーなのだ。ちなみに値段は250円。



「あっ! 来てくれたんだ、二人とも」



 笑顔で迎えてくれたのは琴音ちゃん。その手には見たことも無い色の汁が入ったトッポギの紙コップが握られている。どうやら店内にいるお客さんに提供するためのもののようだ。



「虹色とはまた……斬新ですね」



 若干引きつった笑いを浮かべている優は琴音ちゃんの顔とトッポギを見比べて困った顔をしている。ここまで来た手前、食べずに帰るのは気まずいのだろう。

とはいえ、食べるのにも勇気がいる色をしているのも事実だ。実際僕も顔がひきつっていると思う。



「まあ、食べたら美味しいかもよ?」

「そ、そうですよね。見た目で決めつけるのはよくありませんっ!」

「あ、あれだよ。今流行りの写真映えする奴だよ!」

「あれですね! ハッシュタグをつけるあの!!」



 僕と優は顔を見合わせて無理にテンションを上げながら琴音ちゃんのいる店の中へと入っていった。

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