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文化祭編1

 朝、机に突っ伏したまま寝ていた僕は眩しい太陽の光で目が覚めた。周囲には完成した四着のメイド服。当然、これらは僕が作ったものである。と言ってもほぼ全ての工程は皆が手伝ってくれたので、僕は仕上げをしただけなんだけども。



「ふわぁ……」



 欠伸とともに、強ばった体をほぐすために伸びをする。ただでさえ硬い体がバキバキと音を立てる。机に手をついて立ち上がりメイド服を回収して適当な袋に入れ、ついでに通学鞄を持った僕は時間に余裕があることを確認して家を出た。


 今日は文化祭当日。学校生活で一二を争う大きな行事。多少寝不足気味とはいえ、こんな楽しそうな日に遅刻するわけにはいかない。僕は弾んだ気持ちを抱えながら学校へと歩いていった。



「あっ、おはようございます。透くん」

「あ、おはよー、優」



 昇降口でたまたま優に遭遇した。いつもは髪を下ろしているはずの彼女だが、今日は髪を一つに束ね横に結んでいた。まるで馬の尻尾が肩で休んでいるみたいだ。



「今日は髪型違うんだね?」

「はいっ。今日は文化祭なので!」



 ニコッと言う擬音がつきそうな程の笑顔だ。やっぱり文化祭となると女の子はオシャレするものなのだろうか。一応祭りだし。よく夏祭りとかでそういう子見かけるし。



「何か食べる時、邪魔になるじゃないですか」

「えっ、そっち?」



 オシャレとかじゃなかった。全然違った。昨日クラスの子がそんな会話してたからついそういうことなのかと思ったのに。


 そういえば割と優は女の子にしてはよく食べる方だった。少食らしい琴音ちゃんが食べられない時は代わりに優が食べていた。校外学習でも、うちの班で1番食べていたのは優だった。彼女はお菓子でも普通のご飯でもすごい美味しそうに食べてるから見てると僕までほっこりする。



「あ、透くんが左手に持ってるのってもしかして」

「ああうん、メイド服だよ」

「へぇー……完成したんですね!」

「あはは、何とかねー」

「本当に一日で出来ちゃうなんてすごいです……」

「まあ、完成しなかったら笑い事じゃ済まされないし、ね?」

「確かにそうですよね」



 一緒に五階までの階段を登りながらそんな会話をする。はぁ、いつも思うけどこの階段って中々拷問クラスにキツイんだよね。無駄に長い。脚が痛い。



「……あの、それ、持ちましょうか?」



 四階の踊り場でぜぇぜぇ言ってたら少し前にいる優に心配された。既に僕が持っていた荷物を持ってくれている。……僕、一応男なのに女の子に荷物を持ってもらうってなんて情けないんだ。ちょっと泣きそう。



「ふぅ、やっと教室に着きましたね」

「うん。ありがとう……優」

「いえ、これくらいなんともないですよ?」



 教室前で荷物を手渡した優は装飾された入口をくぐって行った。僕もそれに続いて教室内へと足を踏み入れる。中にはもう何人か来ていて細かな修正をしていた。その一人には真奈美ちゃんの姿も見えた。


 僕は真奈美ちゃんに袋ごとメイド服を渡して、教室の隅の方に座る。もう僕がやることはないだろう。むしろ下手に手を出して壊す方が怖い。


 少しの間そうしていると、いつの間にか時間が経っていたらしく気だるそうに担任が教室へ入って来た。

先生は僕らにジャスチャーで『座れ』と促し、出欠を取り始めた。



「よーし、皆いるな。この後体育館で開会式あるから俺の手を煩わせることなく並ぶようにー」


「「「はーい」」」



 クラスの中心グループである女の子達が元気よく返事をし、それを合図にホームルームは終わったようだった。皆、各自で体育館へ向かう。



「やっほ〜、透くん」

「あ、陽麻君!」



 声の方へ振り向くと陽麻君と真秀、剛二君がいた。剛二君は相変わらず顔がニヤついていて不健全なことを考えてそうだったけど、ほかの二人はとても元気そうだ。いつもクールな真秀でさえ少し楽しそうな表情を見せているのだから、剛二君が気持ち悪いほどニヤニヤしているのも仕方がないという気になってくる。



「そういえば透のとこ、一悶着あったんだって?」

「あぁ……うん。ちょっとトラブルがね」

「え〜、大変だったんだねぇ〜」

「おっ! 大変だったんだな!!」



 体育館へと歩きながら、予算が足りなくてメイド服を自作する羽目になったことを説明する。もちろん、秘密をバラした真秀に対する嫌味も込めて。……全く、誰のせいでやらされる羽目になったと思ってるんだ。



「別にこれくらいで怒るなよ、透」

「怒ってないよ。ちょっと殺意が湧いただけだよ」

「そうか。まぁどうせお前に俺は殺れないだろうけどな」

「……せいぜい夜道に気をつけるんだね」

「それはお前だろ。いつも電柱にぶつかるよな」



 なんかもうすっごいバカにされてる気がするんだけど、というかそれしか感じない。僕のことをなんだと思ってるんだ、こいつは。



「手のかかる幼なじみ……って所じゃないかなぁ〜」

「なんで僕の心を読んでるの、陽麻君」

「ネコさんと同じ顔してたから〜?」

「ちょっとどういうことか分からないんだけど……?」

「陽麻はいつもこんなんだから安心しろ」

「だな! 今日も平常運転だもんな!」

「あらぽんの顔面も通常運転だね〜」

「今さりげなくディスっただろ!?」

「いや、さりげなくないだろ今の……」



 いつものようにワイワイおしゃべりしているとすぐに体育館へと着いた。元々三階分しかないから直ぐに行けるのは当たり前なんだけど、やっぱり誰かといると時間がより短く感じる。



「じゃあ、またあとで」

「おう。じゃあな」

「ばいば〜い、透くん」

「またな!」



 だんだんと人が集まってきたので自分のクラスを見失わない内に列に並ぶ。わざわざ開会式なんて面倒だと思う人もいると思うけど、僕は割と楽しみだ。理由はなんかこういうのあった方が盛り上がる気がするから。



「では、文化祭開会式を始めます」



 チャイムが鳴ったと同時に司会の先生からそんなアナウンスが入った。形式上、注意事項などの説明は入ったが一番の見所はそこではない。


 一応、この学校の文化祭は派手なことで有名なのだ。当然開会式から派手にやる。そう、実はこの後ダンス部や軽音楽部などによる大々的なパフォーマンスで盛り上げ、文化祭がスタートする。


 しかも美男美女の多い部活がパフォーマンスをしているため、体育館内の熱気は凄まじいものだった。なんかもうライブ会場並だ。



「すごかったですね……!」



 開会式が終わったあと、近くにいた優が興奮気味に話しかけてきた。僕も当然テンションが上がっているけど、優は僕以上に刺激を受けたようだ。



「そうだね。皆かっこよかった……」

「はいっ! とても青春感あります」

「そうそう。すっごい青春感溢れてたね!」



 僕ら元不登校組は中学時代、全くと言っていいほど行事に参加してなかったこともあってか『青春感』にとても弱いみたいだ。さっきからずっと僕達の会話にはその言葉ばかり出てくる。だって、今までこんなこと無かったし、憧れるのも仕方ないと思うのだ。



「とうとう始まりますね、文化祭!」

「そうだね。楽しみだなぁ」

「琴音ちゃんと回る約束をしてるので寂しい思いしなくて大丈夫そうですし……」

「僕も真秀達が誘ってくれたからぼっち化しない!」

「これはもう青春ですね」

「うん。アオハルだ」



 顔を見合わせて頷く。初めて心から学校行事を楽しめる気がする。きっと、大事な思い出の一つになる。そんな予感がした。


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