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文化祭〜準備編2〜

「誰かー、すずらんテープ持ってきてー!」

「あ、そこ風船飾るから場所開けといて!」

「ねぇ買出し班に連絡してるー?」



 通常の授業では有り得ないほどガヤガヤと騒がしい室内では様々な会話が飛び交っていた。何往復かやり取りが続いていく内に教室は鮮やかに彩られていく。


 そう、今日は文化祭が始まる前日。つまり学校全体で文化祭の準備に追われ、慌ただしい時間帯なのだ。ちなみに昨日も準備はあったのだけど、机や椅子の運び出しとかポスターの提出とかそんな雑用ばかりだったので教室の飾り付けは半分も終わっていない。この調子だと居残りになりそうで少し不安だ。



「ねぇメイド服って何着必要ー?」

「えぇ……五、六着でいいんじゃない?」

「だってさ、買出し班聞こえた?」

『うん。聞こえたよー!』



 あちらで買出し班と電話で連絡を取ってるのは、校外学習で一緒のグループだった真奈美ちゃんと由奈ちゃんだ。あの二人は積極的に動くタイプみたいで率先的に指揮を執っていた。実は飾り付けの案を出したのもあの二人だったりする。



「琴音ー! 黒板アート書いてーっ!!」

「いいよ、どんなイメージで描いたらいいかな?」

「なんか女子ウケする……あっ、これみたいなの!」

「この写真の感じ?」

「そうそう! できるー?」

「多分大丈夫。やってみるね!」



 縁を小さな風船で彩られた黒板には副委員長の琴音ちゃんが色とりどりのチョークを使って緑色のキャンバスに綺麗な絵を描いている。このメイド喫茶のコンセプトに合ったポップで可愛らしい絵だった。



「琴ちゃん、絵上手ですよね」



 そう僕に話しかけてきたのは僕よりも明るい茶髪へとイメチェンし直した優だった。夏休みが明けてから二週間も経つというのに未だに慣れないため、不意に話しかけられると少し緊張する。それを表には出さないようにして今まで通り返事を返した。



「確かに……すごい上手いよね、あの絵」

「琴ちゃんは美術部で賞も取っちゃったんですよ!」

「えっ!?」



 それは初耳だ。琴音ちゃん、美術部だったのか……。それも賞を取れるレベルだなんて驚きを通り越してもう尊敬するよ。



「凄いね。琴音ちゃん」

「はいっ!」



 自分のことのようにニコニコと話す優を見て微笑ましい気持ちになっていると、琴音ちゃんが僕らを呼ぶ声が聞こえた。どうやら黒板アートを描き終え、次の作業に移るらしい。



「ごめん、ちょっとこれを手伝って欲しいんだけどいいかな?」



 そう言って手渡されたのは紙で作れる花のセットだった。重ねられた薄い紙を中央へ向けて捲ることでバラの花のようなものが出来るという便利なグッズだ。



「いいですよ!」

「もちろん手伝うよ」



 僕と優は二つ返事でその仕事を引き受け、近くの椅子に座り黙々と花を作り始めた。数分もすれば机の上には赤と白の沢山の花で埋め尽くされていた。


 最後のひと袋となるものを開けると、僕らがいる位置とは反対側にいた真奈美ちゃん達の焦ったような声が聞こえた。視線を向けると彼女は電話で買出し班と話しているのが聞こえた。



「えっ、服が買えないってどういうこと!?」

『だから予算が足りないんだって』

「足りないって……どれくらい?」

『二着でギリ。後はオーバーするね』

「それじゃ全然足りないよ!」



 聞こえた感じではメイド服が欲しい数買えずに困っているようだ。やっぱり学校から支給された予算内には収まらなかったらしい。


 真奈美ちゃん達は考えるように黙りこくった後、少しの間を置いてクラスに向けて話し始めた。



「このままだとお金が足りなくて買えないんだけど、皆から徴収してもいい?」



 この提案にクラスが少しざわめく。そして各々が口を開き始め、喧騒は一層酷くなった。



「えっ、徴収っていくらぐらいなの?」

「てかさ、これの前にも既に金取ってんじゃん」

「えぇー、真奈美達そこまで考えてなかったのー?」



 予想外の出来事に収集がつかないほど教室内はざわめいている。由奈ちゃんが皆を宥めているようとしているみたいだが、この騒々しさでは声も届かないらしかった。



「……空気悪くなっちゃいましたね」

「うん……どうしよう……」



 優と琴音ちゃんが小声でぼやく。二人は心配そうにクラスを見渡している。教室はほとんど飾り付けが済み、残るはメイド服と当日に届く予定の販売商品だけ。この状況でさっきのトラブルは大きな痛手と言えるだろう。



「あっ!」



 優が何かを思いついたように声を上げた。琴音ちゃんはその様子を不思議そうに見ている。すると優がとんでもない爆弾を投下した。



「買えないなら作ればいいんですよ!」



 優は僕を見て言葉を続ける。



「透くんが!」



 そう、これが優の放ったとんでもない爆弾だ。この子は一体何を考えているんだ。僕が作るだと?



「え、えぇ? 夢咲くんが……?」

「はい。確か透くん、裁縫得意だったはずです」

「そうなの!?」



 なんかもうすごい勢いで僕の秘密がバレてる。いや秘密という程隠してた訳でもないけど、誰にも言ってないはずの特技なのに何故優はそれを知っているんだ。しかも琴音ちゃんまで目を丸くして驚いているじゃないか。



「透くんは運動神経皆無なので家で出来る特技は大体身につけているそうです」

「優それどこ情報!?」

「真秀さんから聞きました」

「嘘でしょ!?」

「本当です」



 なんてことだ。まさかあの情報通、僕の情報まで流していたなんて。というか僕の情報を流してなんになるんだ。誰得なんだそれは。



「えっ、えっ……?」



 琴音ちゃんが僕と優を交互に見て唖然としている。色々処理が追いついていないのかもしれない。


 僕と優が大きな声でさっきのやり取りをしていたせいか、真奈美ちゃん達がこちらへとやってきた。そして彼女達は僕が望んでいない仕事を運んできたのだった。



「あの……メイド服、作ってくれない?」

「お願いっ! 手伝えることはやるからさっ」



 そうして僕は後に買出し班から届けられたメイド服を元に、明日に控えている文化祭のため……残りの四着分を作る羽目になったのだった。

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