海水浴編2
さぁさぁ今度こそ海を満喫するぞ。まずはパラソルを用意して、海の家で焼きそばを買って食べながら剛二君の醜態を存分に楽しんだ後、剛二君を砂山から助け出してっと。
「はぁはぁ……やっと助けてくれたか!!」
さてと目に悪いからさっさと帰ろう、僕の目が腐ってしまうからね。ただいま、僕のパラソル!
「おい、無視するなよ!!」
なんか剛二君が騒いでるけどいっか。これ以上太陽に当たると焼けそう。というか焼け死にそう。
「あ、あらぽん助かったの〜?」
「陽麻っ! 流石に埋めすぎだ!!」
「え、流石に梅過ぎだ?」
「梅じゃないっ!」
「自分の顔が梅に似ていることとかけたんじゃないの〜?」
「違うっ!!」
確かに剛二君の顔は梅に似てるけど……笑えないぐらい似ていて前世は鳥に啄まれた後の梅だったと言われても違和感ないほどだけども。あ、だんだん梅にしか見えなくなってきた。
何あれ、梅の妖怪かなんかかな? 出荷されなかったやつの怨念が詰まって剛二君ができたのかな。……なんか、ごめんなさい。罪悪感が、すごいです。
「よう、透」
「あ、真秀。どこいってたの?」
「ちょっと真瑞に付き合ってたんだ」
「あぁ、真瑞ちゃん?」
「そうそう。大分テンションが上がっているみたいだな」
真瑞ちゃんの年ぐらいだとはしゃぐのも当然かな。
陽麻君も剛二君もはしゃいでるぐらいだし、いや剛二君においてはさっきまで埋められてたからなんとも言えないが。
「ところで真秀」
「なんだ?」
「真秀は泳がないの? 真瑞ちゃんなら僕が見てるから行っても大丈夫だよ。僕は泳げないから」
「んー、それでもいいんだけどな……」
そう、僕は極度の運動音痴。もちろん泳げない。きっと足をつって溺れるのがオチだろう。しかし真秀は運動もバリバリ出来るしせっかく来たなら泳げばいいのに。せっかくならこの海を楽しめばいいのに。
そう思って真秀を海の方へ追いやる。暫く眺めていると、真秀に近付く二つの影が。
『あら、この子かっこよくなぁい?』
『ほんとだぁ! ねね、おねーさん達と遊ばない?』
なんだよ、あいつ。ナンパされてやがる。顔だけはいいからな、面倒見もいいし僕と違って身長も高いし、スペック高いのだ。真秀のくせにっ!
べ、別に嫉妬とかじゃないけど。お姉さんにナンパされたいわけじゃないけどね、真秀だけモテてるのが許せない。僕ら独り身同盟(勝手に言ってる)を結んでるのにぃぃ!!
『あ、今俺友達といるんで』
『えぇー、いいじゃぁん』
『そうだよぉー』
『いや、結構です』
うわ、こっち来た。真顔なのがめっちゃ怖い。え、何。僕が思ってたこと伝わったの、伝わっちゃったの!? 僕をシバキに来たとかじゃないよね!?
「なぁ、透」
「なな、なにかなっ?」
「……? なんで動揺してるんだ」
「何でもないよ?」
「そうか」
「うん」
ち、沈黙が怖いんですけど。別に怒ってるとかじゃないよね。僕何もしてないしっ、心では真秀に呪いかけようかなとか思ってたけど別に何もしてな……と、途中まで心で言い訳をしていた時真秀が突然口を開いた。
「俺、さっきそこでガラスの破片を見つけてな」
そう言って真秀が取り出したのは先が尖ったガラスの破片。人に刺したら簡単に殺せそうなほど大きなガラス片。
え、殺そうとしてる? 真秀は僕を殺そうとしてるのかな??
さっきあんなこと考えてたからもう真秀が僕を殺しに来たようにしか見えないんだけど。えっ、なんでこっちに来るの真秀!? え、ちょ、待って。凶器を持ちながら来ないで!
「真瑞とかも心配だけど透もこういうの気をつけろよ? ドジなんだから」
「あ、はい」
ただ心配されただけだった。ごめん、真秀。
君はそんなことする人じゃないよね。
「それと」
「ん?」
「あまり変なこと考えんなよ?」
「………………はい」
振り向いた真秀がただただ怖かった。目が、マジで怒ってる時の目でした。絶対さっき僕が思ってたこと分かってる。だって威圧感やばかったもん。
ばーかばーかっ!! って心で言ってたからかな。なんだろう、子供みたいなことしてるなぁ僕。
『ねぇねぇこの子も可愛くなぁい?』
『きゃーーっ! 今日は当たりじゃない!?』
『……? なぁに、おねーさん達〜』
今度は陽麻君が捕まったらしい。というかまた同じ人達だった。ナンパしすぎでしょ、あの人たち。
『…………(ギリッ)』
……あー、麗華さんからすごい視線を感じる。主に陽麻君に声をかけているお姉さん立ちに向かって。なるほど、麗華さんは陽麻君のことが好きなのか。
まあ幼馴染って言ってたしお互いにあだ名で呼び合う仲ならそういうこともあるよね。陽麻君は気づいているのかな。麗華さんのことはそれなりに好意は持ってそうだけど。……あっ、陽麻君の所に行ったみたいだ。ここはそっとしといた方がいいか。
『あ〜、麗ちゃんっ!!』
『陽君、その人達は』
『ん〜? なんかねぇ……』
『えぇー、彼女持ちじゃぁん』
『うそぉ、冷めるんですけどぉ』
『『行こいこっ』』
『よくわかんない人だった!』
『そ、そうか、ならいい』
お姉さん達の態度もすごいけど陽麻君の対応もすごいな。よくわかんない人だったって……そんな笑顔で言わなくても。
ん? そういえばさっきまで剛二君と一緒にいたはずなのに陽麻君しかいない。どこいったんだろ、剛二君。
僕は目を凝らして探してみた。すると……いた。なんと、また砂に埋められている。心なし砂の量が増している。
いつの間に剛二君を埋めたんだっ……陽麻君。僕が見てないうちにあれだけの砂を!? なんという神業だ!
しかも麗華さんとこっちに帰ってきてるから平然と置いてきている。剛二君が寂しそうな目でこっちを見ている。だんだん不憫になってきたけど見たら呪われそうだしここは知らないふりをしておこう。きっと、この世界には知らなくていいこともある。
「ねぇねぇ、ビーチバレーやろ〜っ!!」
「ビーチバレーか、面白そうだな」
「陽君がやりたいならやる」
「じゃあ私もっ!」
「そ、それなら私もやります」
「真瑞もやるです!」
陽麻君が提案してビーチバレーをやることになったらしい。ちなみに剛二君は未だに砂に埋まってるから会話に入ることすらしてない。ただ仲間にして欲しそうにこっちを見ている。
「透もやるか?」
「んー、僕は遠慮しとくよ。真秀」
「え、やらないんですか!?」
「じゃ審判でもしようかな」
「お兄ちゃんやらないんです?」
「うーん、僕運動音痴だから」
「気にしなくてもいいと思うよ?」
「……僕がやると怪我しそうだし」
「確かにな。じゃあ透は審判で」
和気あいあいとした感じでビーチバレーが始まる。
陽麻君はバレー部だからか軽やかな感じで進めていく。優は元々運動神経がいいのもあって陽麻君のボールを受けたりアタックしたり。琴音ちゃんも真秀もいい動きだ。なかなかいい勝負に見てるだけでも楽しい。お、また決まった。
「あのっ、やっぱり透くんもやりましょう?」
「そうだよぉ〜」
「じゃあ私は疲れたし交代しようかな?」
「へっ?」
……みんなに勧められてやることになった。うぅ、こういうのできないから迷惑かけそうでやだな。
「じゃあいっくよぉ〜!」
陽麻君がサーブをする。……あ、手加減されてる。
めっちゃ山なりのボールだ。これなら取れるかも。
パシッという軽やかな音を立ててボールが上に上がる。そのボールを優がタイミング良くアタックして1点決めた。そして真秀と僕と優でハイタッチ。
……なにこれっ、めっちゃ青春っ!!!
「よぉーし、次は点あげないよ〜っ」
陽麻君が構えに入る。こっちは真秀がサーブ。一応真瑞ちゃんもいるし手加減はしているみたい。まあ陽麻君もいるし麗華さんもいるから危ないボールは回らないと思うけど。
そんなこんなで色々配慮してくれつつ、楽しくビーチバレーは進んだ。程よく疲れてきた頃に琴音ちゃんが買ってきてくれたかき氷や、焼きそばを食べて。お腹を満たした後、海で水を掛け合って遊んだり泳げる人は泳いだりして満喫した。
「んーっ! 楽しかったっ!!」
僕は久々にビーチバレーとか楽しめた気がする。むしろ運動の類で楽しめたの、初めてかも。ご飯も美味しかったし、砂浜でお城作ったりもした。……僕が泳げないから優とか琴音ちゃんが一緒になって。
真秀も陽麻君もわいわいしながらやって海に来て良かったとしみじみ思う。なんか、友達って感じがする。気を使わせてる気もするけどみんなでこうやって思い出を作れて良かったなぁ。あれ。でも何か忘れてるような。
「ねえ、真秀」
「なんだ?」
「僕何か忘れてる気がするんだけど……」
「奇遇だな俺もだ」
「あ、それボクも〜」
「んー、なんだろう……」
しばし考えること数秒。みんなで目を見合わせて思い出したように言った。
「「「剛二君/剛二/あらぽんだ!!」」」
そう、僕達はあのインパクトの強い梅、もとい剛二君のことをすっかり忘れていたのだった。
そして、急いで砂から掘り返しみんなで謝ってどうにか許してもらったというのはまた別の話。




