夏休みといえば
夏休み。学生ならみんな好きなはずの、長期休暇。
中には部活の人もいると思うけど、僕は部活入ってないからね、引きこもり生活を満喫できる。ああ、真秀も入ってないから僕と同じく引きこもりだね。
あっ、ちなみに、陽麻君はバレーボール部で剛二君はテニス部だよ。意外だよね、僕もつい最近知ったんだ。
あんなにふわふわしてる陽麻君がバレー部であんなにゴツゴツしてる剛二君がテニス部って……ね? まぁちょっと見てみたい気もするけど。
陽麻君試合だといつもと違ったりして、なんか男子っぽさが増すのかな。剛二君はどうでもいいや、興味無いし。
ふふっ……何を血迷ったんだろ、剛二君。思わず笑いが込み上げてくる。だってゴリラがテニスってさ。ああ、ゴリラに失礼か。
えっと、僕がしたかったのは部活の話じゃなかった。そう、夏休みの話!
夏休みといえばみんなは何を思い浮かべるかな? そう……山盛りの課題だよっ!! というわけで今からこれを処理しにかかろうと思う。
[ピンポーン]
……ちっ、誰だせっかくやろうとした僕のやる気に水を差すやつは。
机に手をついて支えながら、重たい腰を上げ玄関に向かう。
[ガチャッ]
「よっ、透」
「真秀か、バイバイ」
[バタンッ]
「おい、なんで閉める」
[ガッ]
え、なにこいつ怖っ。ドア閉めようとしたら手で掴んできた。すごい反射だったよ!?
僕、開けてすぐ閉めたのに。恐るべし、真秀の運動能力。
「こんな朝早くにどうしたの?真秀」
「……今11時だから全然早くないがな」
「さっき起きたんだもん」
「だもんじゃねぇよ」
「はいはい。で?」
「今日陽麻の大会あるから応援行かないか?」
「大会?」
……えっ。いや、さっき見てみたいなとか言ったけど展開早すぎない!?
そもそも今日大会だったの、初めて知ったよ。もしかしてバレー部の大会じゃなくてどれだけ猫と話せるか選手権みたいのじゃないよね!? どっちかというと陽麻君の場合、後者の方がありそう。
「……僕今から課題やろうとしてたんだけど」
「そんなのいつでもできるだろ、行くぞ」
「僕に拒否権はないんだね……」
「当たり前だろ」
「別に楽しそうだからいいけどさ」
というわけで僕の今日の1日は陽麻君の応援に行くことになった。補足として言っておくと剛二君は普通に部活があるので行けないそうです。
行けなくてごめんと謝る剛二君に陽麻君が来なくていいって言ったらしい。剛二君ショックだっただろうね。……へっ、ざまぁねぇな。
僕は心の中で草を生やしといた。どうでもいいけど最近僕の中で剛二君の扱いが酷くなってる気がする。
まぁそんなことはほっとくとして、早く陽麻君の応援に行くか。
「ふわぁぁぁ……」
全く……真秀が突然来るから急がなくちゃ行けなくなった。そういうのは先に言っといてよね。知ってたらノリノリで準備したのに。
夜更かししたせいで欠伸が止まらない。昨日寝たの3時過ぎだよ……? もはや今日だよ。夏休み入ってから生活のリズムとか崩れまくってる。まだ1週間ぐらいしか経ってないのになぁ。
「……眠そうだな」
「うん、眠ぃ」
「ま、陽麻を見れば眠気吹っ飛ぶと思うぞ」
「なにそれぇ。ふわぁ……」
「見てからのお楽しみだな」
「んー?」
真秀すっごいニヤニヤしてる。何企んでるのさ。あー、眠くて頭回らない。あくびも止まらないし。
もうすぐ着くかなぁ。陽麻君のとこ。突然だけどこういう友達の応援に行くって青春じゃないかな!?
あ、ついたみたいだ。陽麻君がいるのが見えた。周りにいるのは同じ部活の人かな。……陽麻君がこっちに気づいたみたいだ。僕らの方へと駆け寄ってきた。
「……あっ!透くんにましゅまろだぁ〜」
「やっほー、陽麻君!」
「よっ、陽麻」
え、いや、ま、ましゅまろ? 真秀のことかな。前はましゅ〜って呼んでたはずだけど……僕の知らないうちにまたあだ名付けてたのかな、陽麻君。
うーん、あらぽんの次はましゅまろかぁ。……えっ!? 真秀そのあだ名受け入れたのっ!?
「ましゅまろって真秀のあだ名?」
「そうだよぉ〜」
「受け入れたの、真秀」
「なんで引いた目で見るんだ」
だってましゅまろって感じしない。イメージで言ったらカタブツの方が似合ってると思う。陽麻君って人にあだ名付けるの好きなのかなぁ。つけるあだ名は可愛いけどさ、本人達が……ねぇ?
「あ、ボクそろそろ行かなきゃ〜」
「おう、頑張れよ」
「頑張ってね!」
「うん!ありがと〜」
こんな話をしていたら10分ほど時間が経っていた。陽麻君は少し急ぎながら小走りで消えていき、僕らはそんな陽麻君を尻目に応援席へと向かった。
「陽麻君の試合っていつ頃?」
「もう始まる。最初の試合だからな」
[ブーーーーー]
「あれ、試合始まる合図かな」
「そんなもんだろ」
「「あっ」」
陽麻君たちがコートに入ってきた。ちゃんとユニホーム着て、顔つきもいつものふわふわしたものではなく凛とした表情になっている。
さっきはちゃんと見てなかったけどこうしてコートに入ってるってことはレギュラーに入ってるのか。じゃなきゃ試合には出ないだろうけど。ましゅまろの破壊力であまり気が回ってなかった。
えーと……うわっ。相手チームごっついなぁ、剛二く、違った。みんな体つきがラグビー選手みたいだ。
あ、試合始まったみたい。陽麻君たちのサーブかな?
「お。丁度陽麻がサーブ打つみたいだな」
「どれどれー?」
『いきまぁ〜す!』
[パァァン!!]
え。いや、えっ!?
あんなにふわふわした掛け声で打ったのにボールからすっごい音がしたよ!? あのボール、破裂してない!?
でもなんていうかその、か、かっ、カッコイイッ……!!!
ジャンピングサーブしてた今!! 打ち方めっちゃカッコイイっ! そういえば陽麻君、僕と違って身長割とあるもんね、いいなぁ。
僕は絶対あんなのできないから余計にすごいと感じてしまう。そもそもバレーボールなんて手が痛くてとてもできない。今度陽麻君に教えてもらおっかな。どうせ授業であるだろうし、陽麻君に教えてもらえば少しはマシになるかも。
僕がそんなことを考えている間にもどんどん点数は入っていく。もちろん陽麻君のチーム、要するに僕らの学校の方に。相手はあんなゴリラ集団なのにみんなかっこよく決めていた。
特に3年生の先輩は1番張り切っているらしくとても活躍していた。……ああ、そっか。3年だと最後の大会になっちゃうのか。負けたら終わりだから頑張っているのかな。そう思いながら試合を眺めた。いつもふわふわしてるけど陽麻君は一生懸命バレーをしていてかっこいいなと素直に僕は思った。
そして1試合目は無事、陽麻君たちが勝った。
僕はここまでスポーツに夢中になって見ることは今までほとんどなかった。でも、ちょっと部活っていいなぁと思った。
――僕も何か入ろうかな?
そんな思いが湧いてくるほどに陽麻君たちの試合は凄かったのだった。
文化部なら僕でもできるのあるだろうし、部員少ない所なら今から行っても大丈夫かもしれない。夏休み明け、少し見てみよう。そう思った。
「ねぇねぇ〜、ボクの試合どうだった〜?」
試合が終わったあとそのまま解散になったらしく最後まで見てた僕らと一緒に帰ってた陽麻君はうきうきした様子で尋ねてきた。僕は今日感じたことを素直に伝えた。
「すっごいかっこよかった!!」
「ほんと〜っ!!やった!」
「俺も陽麻のことすごいと思ったな」
「わ〜いっ!!」
……陽麻君試合の時はすごい真剣な顔でかっこよかったけど今はもういつもの陽麻君に戻ってる。なんとなく、なんとなくだけど僕は今日陽麻君の試合を見に来て良かったと思った。知らない1面を見た感じがして嬉しかったのかもしれない。
今度は剛二君の部活してる姿も見てみたい。陽麻君ほどかっこよくはなさそうだけどね。あははっ、想像しただけで笑えてくるよ。でもまあ……一生懸命やってたらきっとかっこいいよね。
僕は充実した気持ちを味わいながら家に帰ったのだった。家に帰ったら山盛りの課題がお迎えしてくれたけどね。急に現実見ちゃったよ、はぁ……。
だけど……今回の夏休み。今までより格段に楽しくなるようなそんな予感を感じた。だって個性的な人ばかりだしね!




