梅雨のある日
[ザーザーザー]
「………」
はぁ、今日も雨か。めんどくさい……。
何がめんどくさいってさ、髪がぴょんぴょん跳ねるしいくら整えても直らないからだよ。
もう……梅雨に入ってからずっとそう。僕、髪の色が茶色な上に髪がぴょんぴょんしてるとすっごいチャラく見えるんだよね。
[ピンポーン]
「よっ、透」
「あ、真秀。迎えに来てくれたの?」
「ああ」
「今行くー」
なんか真秀が朝迎えに来るの久しぶりだなぁ。
迎えに来たって言っても真秀の家から学校までの道のりにあるしついでだろうけど。いつも僕の方が早く学校に行くから会わないんだよね。
「……おい」
「ん?」
「こんなに雨降ってるのに傘持ってこうとないのはなんでだ」
「あ、忘れてた」
「忘れる方がおかしいだろ」
「……」
「透だけだよな。雨降ってるのに傘忘れるやつ」
「僕以外にもいるよ。たぶん」
人間誰でも忘れることはあるよね。僕だけじゃない。まぁ、ずぶ濡れで学校行くことにならなくて良かったけど。
よし、傘持ったしばっちりだ。
「そういえば一時期透の家の周り、女子が集ってたよな」
「あー、うん」
「今は来なくなったんだな」
「まぁ2ヶ月以上経ったからね」
「そんなもんか」
「うん」
言われてみればそんなこともあったなぁ。なんか悪い噂でも流れたのかと思って焦ったんだよね、あの時。
真秀に聞いたら言葉を濁されたし。結局わからずじまいだ。んー、通学路だしちょうど人がたくさん通る時間帯だったのかな。
そういえば真秀に彼女がいる疑惑とか、なんで僕のクラスが女子だけなのかとか。色々聞くこと忘れてることがあるなぁ。色々あってすっかり忘れてた。
今、聞いてみよっかなぁ。
「ねえ、真秀」
「なんだ?」
「ちょっと聞きたいことが……」
そう言いかけた時、学校に着いてしまった。
うーん、これじゃ聞けないし……また今度まとめて聞くしかないか。真秀とはクラスが違うから途中で別れることになる。
今日は早めについたなぁ。そういえば体育あるんだっけ、今日。
「あ、おはようございます……」
「ん? あ、おはよ優」
優が挨拶してくれた。なんか話すの久しぶりかも。
「髪、すごいですね」
「あー、湿気でね」
「なんか面白いですね」
「え、何が!?」
え、なんか笑われたんだけど……。
僕の髪そんなに変なのかな? ていうか、常に優は髪がすごいギャルっぽいけど。
「……かわいい(ぼそっ)」
「ん?なんか言った?」
「い、いえ、なにも!」
「? ……そっか」
なんか言ってた気がしたけど、僕の気のせいかな。
あれ、そういえば優の髪が少し濡れてるような。雨に濡れちゃったのかな?
あ、もしかして。
「優、今日傘持ってきた?」
「……忘れてきちゃいました」
やっぱり。ほらみろ真秀。僕と同じようなことする人いるじゃないか!
優はけっこう天然で変なことしそうだもん!!
たぶん僕と同類だ。あれ、それだと僕も変だということに?
「……なんか失礼なこと考えてません?」
「考えてないよ」
「即答なのが逆に怪しいです……」
「あのさ、優」
「なんですか?」
「人を疑うのは良くないよ!」
「と、突然ですね……」
よし、ごまかせた。
「じゃあそろそろ準備してくるねー」
「あ、はい」
カバンを下ろして、教科書を……はっ!?
教科書があらぽんの顔並みにぐしゃぐしゃになっている!?
なんとひどい仕打ち。はぁ……雨で濡れちゃったからか。いや、これだと教科書に失礼か。
『熱盛ぃぃぃ!!』
『な、なんだよ!オレは熱盛じゃないぞ!』
『えぇ?顔が熱盛じゃーん』
『なんでだよ!』
『常に赤いからぁ』
『そんなに赤くないだろ!』
『あははははぁ』
あれ、なんか聞き覚えのある声とツッコミが聞こえたような。方向的に廊下からか。
『剛二は腐ったトマトみたいな顔だな』
『おい!酷くないか!?』
『ん〜、トマトよりゴリラみた〜い』
『陽麻まで!?』
『ごめんね〜、ゴリラに失礼かぁ〜』
『いや、失礼なのはオレにだろ!』
うん。さらに聞き覚えのある声が。
上から真秀、剛二君、陽麻君かな。剛二君を熱盛って言ってた人は知らないけど……確かに熱盛っぽい。顔が。
いつもああいう会話してるんだ。さすがいじられキャラだね。
そういえばみんな同じクラスなんだっけ。……なんだかなぁ。僕もああいう風にワイワイしたいよ。
「ゴリラと腐ったトマトのハーフ……?」
「どういう顔なんでしょう?」
「……っ!?」
優が独り言をいってる。
内容が吹き出しそうなんだけど!? いま笑いこらえるの必死だよ!?
笑い声出さないように抑えないと。急に笑いだした変なやつと思われる。
「怪物じみてますね……」
「……くふっ」
追い討ちかけてきた。
思わず堪えきれずに変な声出しちゃった。確かに剛二君の顔は怪物じみてるけどさ。そんなにしみじみと言わなくても。
……ゴリラと腐ったトマトのハーフってどういう顔だろう?
そっから想像したのかな、優。そりゃ怪物になるでしょ、人間じゃないもん。
「……?」
「……ふふっ」
やば。優がこっち見て不思議そうにしてる。しかもなんかちょっと笑われてる気がする。
「どうかした?」
「い、いえ!」
「そう?」
「はい! 何でもないです!!」
「そっか」
まぁ、いっか。変には思われてなさそうだし。
それにしても朝から面白すぎなんだけど……剛二君絡むとだいたい面白くなるのかな?
顔が面白いもんなぁ……あ、いい意味でね?
[キーンコーンカーンコーン]
「それじゃHRを始めるぞー」
「まずは連絡だが……」
「えー今日で期末テスト1週間前だ。よーく勉強するように!」
「じゃきちんと授業受けろよー」
あ、もう1学期末のテストか。今回も頑張って1位取らなきゃ。
運動できない分、勉強頑張らないといけない。成績良ければ親がお金出してくれるんだ!
だから今学校の近くのマンション借りて1人暮ししてるんだけどね。
『学校までの道のりが遠くて学校に行かないなら学校の近くに家を借りていいから学校に行きなさい!!』
『勉強ができるならテストで学年3位以内に入れば必要なお金は出してあげるから!』
『それでも不登校になるなら考えがあるわ…』
実はお母さんにこういうこと言われたんだよね。
ちなみに学年3位以内っていうのは僕のものすごい運動音痴を補えるものをつくれってことだったらしい。
中学校の時、勉強するから行かなくてもいいでしょ! って親に言ってたから。
お母さんはたぶん無理だと思って言ったんだろうけど、長い距離歩かなくていいなら僕は何としてでも3位以内に入る。
それに運動ができない上に勉強もできなかったら学校生活を送る上での三重苦を背負ってしまうからそれは僕も嫌だ。
一応説明しておくと学校生活での三重苦はこれ。
『勉強できない』
『運動できない』
『陰キャ』
この3つのことだよ。
まぁ、僕が思ってるだけなんだけどね。でも実際そうじゃないかな?
この3つをすべて満たすととても辛い学校生活になると思う。だって、ただの空気だよ!?
嫌でしょ!?
そういうわけで勉強だけでもやってるんだ。どうせなら1位になりたいしね。
あとは、考えがあるって言ったお母さんの顔がすごく怖かったから。これ逆らっちゃダメなやつだって思った。
[キーンコーンカーンコーン]
さてと、そろそろお昼か。
実は僕、入学してからずっと1人でご飯を食べてる。でも今日は真秀たちと食べることになってるんだ!!
こないだ遊んだあと、せっかくだし昼休み俺らと一緒にご飯食べようぜって剛二君が言ってくれたんだ。やっぱり友達は大事だね。
「やっほー、来たよ真秀!」
「おー。透か」
「お! 来たか透!!」
「透くんお昼たべよ〜」
「みんなもう食べてるんだね」
「うん! 透くんも食べよ〜?」
「そうだね」
んーと、この席借りてもいいのかな?
あ、陽麻君が借りといてくれたんだ。だからここだけ空いてたのか。
「きゃー!」
「え、あの子特進クラスの!?」
「そうそう!」
「え、荒神君と話してる……うける!」
「そういえば真秀君と幼馴染なんだってー」
「だからうちのクラスに来たんだー」
「まじラッキーじゃん!」
な、なんだろう。うちのクラスより騒がしい気が……。
「おい! なんで透だけ騒がれてるんだ!!」
「ん? 何が?」
「何がじゃないぞ! ずるい!!」
「透は遠目からならいいよな」
「何気に酷くない? 真秀」
「かっこいいよね〜!」
「そう? 普通じゃないかな……」
だって真秀も陽麻君もかっこいいわけだし、僕は至って普通だと思う。
というか剛二君除けばだいたい顔面偏差値高い人ばっかなんだけど……この世界は剛二君だけに厳しいのかな。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「じゃーまた明日ー」
「またな」
「おう!明日な!!」
「またね〜」
みんなと話しながら食べるの楽しかったな、色々な話したし。
1番びっくりしたのは校外学習で陽麻君がクラスレクに日向ぼっこを提案したっていう話。
クラスレクだよ?
日向ぼっこって遊びじゃないよね。笑顔で提案したっていうのがまたすごいよ。最後まで日向ぼっこしたいって言ってたらしいし。
将来大物になりそうだ……陽麻君。
他にも剛二君は梅干しみたいだとかゴリラみたいだとか話してたんだ。通りすがりにみんな剛二君をからかっていくのが面白かった。
あと僕の髪がぴょんぴょんしてる事とか。
今日はすっごい楽しかった。今度勉強会しようみたいな話もしたしね。
楽しかったからか昼休み後の授業も早く終わった気がする。
あとは家に帰ってテストに備えないとねー。課題とか終わらせて勉強しよっと。
今日は真秀とも別々で帰る日だし、待つ必要ないからさっさと帰ろ。
あれ、優だ。昇降口に優がいる。
「そういえば傘忘れたっていってたっけ」
朝にそんな話を優としたんだった。
うーん……あれだとずぶ濡れで帰らないと行けないよね。同じ中学校ってことは優の家はここからだとけっこう遠いだろうしなぁ。
濡れて帰ったら風邪ひいちゃうよ。うん、ほっとけないよね。僕は家近いし、優が良ければ使ってもらおう。
「……優」
「わ! 透くん!?」
「傘、良かったら僕の貸すよ?」
「え! 悪いです、濡れて帰ります!」
いや、男らしすぎるでしょ。どんだけ距離あると思ってるの。絶対風邪ひくから。
というか……その、ワイシャツとか透けちゃうって。ここは何としてでも受け取ってもらおう。
「いや……僕は家近いから」
「いえ、濡れたら風邪ひきますよ!」
「それなら優の方が遠いから風邪ひく確率高くない?」
「いえ! ひきません!!」
「断定!?」
断定された。全然受け取ってくれないな、傘。
うーん、どうしようか。押しつける? 押せばなんとかなるかな。
「……やっぱ心配だし傘使って?」
「…………うぅ」
「はい、傘」
「……ありがとうございます」
「うん」
よし、渡せた。なんかしぶしぶって感じだったけど。むしろ押し付けたという方が近い。
「じゃあね、優」
「は、はい。……傘ありがとう」
「うん! また明日ねー」
「はい、また明日!」
優に渡したのはいいんだけどね……?
めっちゃ雨が痛ったいっ!!
顔にばしばし当たる。台風並みだよこれ、よく濡れて帰る気でいたよね、優。
僕はもうすぐ家着くからいいけどさ。そういえば最後敬語じゃなかったな。たまに敬語じゃないのって少しでも打ち解けたと思っていいのかな。
とりあえず、帰ったらお風呂はいろーっと。勉強はあとででいいや。あっ、真秀に聞こうとしてたこと結局聞けないで終わっちゃったなぁ。




