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1-8. 模擬戦①


「えっ?」


アカネの言葉に反応して、僕は会場の中心へと目を移した。

カナタ先生を挟むようにしてクミンとクロウが睨み合っている。


遠くからではあまりよく見えない。

僕は何故だかすぐに立ち上がり最前列へと移動した。

惹きつけられたんだ。


すり鉢状の会場の中心。

クロウは無表情、クミンはとても険しい顔をしている。

間に立つカナタ先生は、ニコニコ笑顔。

きっと、さっきの一件がなかったら僕は笑っていただろう。

三者三様の表情に。


「私との対戦に集中したいんじゃなかったの?」


どうやらアカネもついてきたらしい。

階段を下りながら、僕の方へやってきていた。


そういえば、そんなこと言ったっけ。


「この試合はちょっと興味があってね」


寡黙なクロウのこともあったけれど、一番見たかったのは財閥の実力だ。

もう一人の財閥の人間、スミレに弱いと言われたクミンの実力は果たして本当に弱いのだろうか。

彼の纏うオーラのようなものからは、とてもじゃないけれど僕には弱いとは思えなかった。


「それじゃあ、始め」


向き合う二人がある程度離れてからカナタ先生は開始の号令をかけた。

けれど二人に動きはない。

相変わらず睨み合っている。

もちろん、クミンが一方的にではあるが。


「おい、君。降参したらどうだ?」


一体何を言い出すんだコイツは。


「……」


クロウは当然のことかもしれないが、何も返さなかった。


「今、僕はとても怒っているんだよ。せっかく財閥同士の可憐な戦いを貴様らにお見せしてあげようと思ったのにこのざまだ。どうも、君のような凡人相手に手加減はできないみたいなんだよ。怪我する前に、白旗をふりな」


完全な八つ当たりってものを、僕は初めて目の当たりにした。


「……」


クロウの無表情っぷりは、ここまで来ると嘲笑しているようにも思えてくる。

そのあまりの無反応さにクミンの怒りはさらに高まったらしい。


「なんだよ。無視してないで答えたらどうだ!」


次の瞬間。

クミンは思いっきり右手を突き出した。

と、同時にクミンの前の地面がぼこりと削り取られ、そのままクロウの方へ勢いよく飛んで行く。


だけど、クロウはその場を動かない。

いや、そのあまりの速さに動けないのか?


あ、当たる!


クミンの作り出した岩が眼前まで迫ろうとも、クロウは動かなかった。

結局クロウの顔の横擦れ擦れを岩は通り過ぎていき、場内を円形に取り囲んでいた壁に激突、砕け散った。


「びびって、動けなかったか。いいか、今のはわざと当てなかったんだよ。これで僕の強さがわかっただろう?攻撃の速さ、威力、正確さ、どれをとっても一級品だ。降参しろ。さもなくば次は当てるぞ」


「……」


クロウは降参しなかった。

まるで、今まで何も起こらなかったかのように。

開始そのままの状態で、無表情で、クミンを見つめていた。

時間でも止まっているのか。


ギリッ!


クミンの歯ぎしりの音がここまで聞こえた気がした。

それほど強く、彼は顔をひきつらせ、苛立ちを露わにしている。


「もういい。後悔しろ」


言葉と同時に、クミンは右手で思いっきり地面を殴った。


突如として地面から現れた大きな岩の壁。

自分の何倍もの大きさのある壁を作り出したクミンは、今度はその壁に拳を立てる。


射出される無数の岩の破片が、視認するのもやっとのスピードでクロウの方へ飛んでいく。

さっきのより速い!

残像すら見えるぞ。


「……」


クロウは無言のまま。

けれど、今回ばかりは動かないわけではなかったようだ。


僕から見れば挙動なしに、彼もまた岩の壁を生成。

クミンの飛ばした破片は全てその壁に阻まれた。


「……」


見ている僕も、自ずと無言になった。

やっぱりだ。

やっぱりあのクミンと言う奴ただものじゃない。

下手すりゃアカネと競り合うんじゃないか?


因みに、これは決してクミンを過小評価しているわけではない。

それだけ、アカネが強すぎるんだ。最強なんだ。


でも、それをいとも簡単に防いでいるあのクロウはなんなんだ。

簡単なように見えているだけなのか。


「ちっ……!」


攻撃を防がれたクミンは即座に方策を変えた。

その辺、財閥としての機転の良さが見える。


彼は作り出しておいた壁を陰にして、後ろへ退く。

僕は横から見ているからわかるけれど、きっとクロウには見えていない。


ある程度離れたところで、クミンは両手を前にだし三角形を作った。

ぶつぶつと何かを呟きながら目を閉じ集中している。


対してクロウは全く動かない。

壁で見えていないのはわかるが、この状況で動かないなんてことがあるか。

僕ならすぐ回り込みたい。


「これでどうだ!!」


集中が終わると同時にクミンは目を勢いよく見開いた。

両掌で象った三角形の中心には、何やら茶色い球体が顕現されている。

高速回転しているそれは、徐々に周りの大気を巻き込んでいった。


ピシュッと。


その状態のまま放たれた丸い塊は、岩の壁つまりはクロウの方へもの凄い速さで飛んで行く。

岩の壁を木端微塵に砕いたかと思いきや、いきなり巨大化した。


「……」


岩を盾に時間を造り、岩を陰に攻撃を見せず、技を瞬時に巨大化させたそのクミンの器用さにまたもや言葉を失っていた。

クロウの体の何倍にも拡大した球体は、スピードを保ったまま突撃していく。


流石のクロウも今回は挙動を見せた。

右手を前にし、左手でその手首を掴み何発かの球を放射。


しかし、それは全て巨大な塊に飲み込まれた。

スケールが違いすぎる!


「くたばれぇ!!」


クミンの叫びと共に、球体がさらに巨大化し速度を上げる。

やっぱり、財閥ってすごいんだ。

いや都会はみんなこうなのか?


刹那。


当然僕のような田舎者には何が起こったのかわからなくて。

それでも、何かが起こったことは確かで。


僕にわかったことは、突然あの球体が大爆発を起こしたということだけだった。


球体のあった位置から環状に広がる衝撃波。

それからほんの少し遅れて聞こえる耳を劈く爆発音。

思わず目を瞑って、両手でそれを防ごうとした。

けれど、あまりの衝撃に僕の体はふわりと持ち上がり後方へ飛んでいく。


きっと、アカネが横にいて支えてくれなければ叩き付けられていたんだろうと思う。


「な、何が起こったんだ?」


しばらくして、辺りが静かになってから僕はアカネに聞いた。

相変わらず会場内は煙で満ち溢れていて二人がどうなっているのかはわからないけれど。


「アンタ見てなかったの?物凄い攻防だったじゃない。凄いのね、彼」


……見てたさ。

けれど、そんなこと僕にわかるはずないだろ。

わかったのは急に爆発が起こったことぐらいだ。


でも、きっとアカネには一部始終が見えていたんだろう。

Bランクのアカネには、きっと。


「わかんないよ。あの球体が爆発を起こしたってことくらいしか。はぁ、やっぱり財閥は財閥なんだな。性格には難有りだけど、クミンてなんだかんだ凄いんだ」


決して財閥に好感を持ったわけじゃないけれど。

それでも、あのクミンの実力を否定しないわけにもいかない。

それほどの試合だった。

クロウは対戦相手が悪かったという他ないだろう。


「はぁ。やっぱり、アンタ何も見えてないのね」


えっ。

僕の解釈に間違いがあったとでも言うのだろうか。


「私が凄いと思ったのは、クミンじゃない。クロウの方。あの攻撃を爆発させて防いだのよ?」


ふと、場内を見れば。

爆発の煙がうっすらと晴れていく中で。

クロウは、本当かどうかはわからないけれど、開始直前と同じ姿勢でそこに立っていた。

つまり、彼はほとんど試合中に動いていないってことで。


「そ、そんな」


一体何を見ていたんだろう。

僕にとって遥かに次元の違うことがそこでは行われていたんだ。


「はい。そこまで。終了だよ」


先生のこれまた変わらない声で試合は幕を閉じた。

試合を見ていた生徒のほとんどは、今の試合で何が起こったのかやはりわかっていなかったらしい。

微笑む先生と、微動だにしないクロウ。

そして、何故かひきつった表情を浮かべているクミンがそこにいただけだった。

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