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1-5. 自己紹介②

「こら、また恥かいただろ」


僕は小声で、口元を手で隠しながらアカネに言った。

アカネは無論、僕みたいに周りに気を遣うことなく、返答してきた。


「なによ、うるさいわね。アンタのせいでしょ」


アカネのせいだろ。

なんて、返すのにも力尽きた。


「はぁ。でも、とりあえずはよろしくな、委員長さん。こんな副委員長でも良かったら使ってくれ」


もう、争いはするまい。

先生の決定は変わらないようだし、クラスの第一印象も撤回できまい。

素直に認めて、アカネと頑張るしかないようだ。


「そ、そうね。アンタでも役に立つことくらいあるでしょ。…頑張りましょう」


ほのかに顔が赤らんだのは気のせいだろうか。うん、気のせいだ。


それからは特に話をすることもなく、みんなの自己紹介を聞いていた。

普通すぎる自己紹介をした僕にとって、他の自己紹介はどれも素晴らしく感じるものだった。

趣味の1つや2つ言うだけでも、それは凄いと思われた。

ましてや、熱い夢を語る生徒など、心が震えたほどだ。

僕も将来の夢なんてものを語ってみたいものだよ。


「はい、じゃあ次ね」


気がつけば、自己紹介も残り2人。つまりは、僕の左隣の黒髪の生徒と、その左の茶髪の彼。

そういえば、名前聞いてなかったなと今になって思う。


あ、もしかすると、彼は財閥の人間なのではないか。

僕が気軽に話しかけてしまったから、周りが驚いて沈黙してしまったのではないか。


短髪の少年が、立ち上がる。

ふわりと。

そういう形容が正しいと思えるほど、重さを感じさせずに、音も立てずに。


「クロウだ。よろしく」


8文字だった。

いや、読点を入れれば9文字なのか。

いやいや、そんなのはどうでもいい。


一旦静まり返る教室。

きっと、みんな僕と同じで開いた口がふさがらないのだろう。

ぽかーん。


いや、人見知りの激しい生徒はいる!

おかしいなんて決めつけてはいけない!


そう、自分なりに納得しても、どこか納得しきれないまま先生の声を聞いた。

黒髪の彼はいつの間にか席についていた。動いたっけ。


「はい、じゃあやっと最後ね。お願い」


先生に言われて、ツンツン茶髪な彼がゆるりと立ち上がった。

でも、何故だろう。

本当にどうして。


感じていたさ。感じられずにはいられなかったさ。

クロウの自己紹介が終わってからそれは一層深く。一層静かに。一層しみじみと。

なんならその前からだって。

終端の彼に近づけば近づくほど、この異様なクラスの雰囲気を。


やはりさっき僕が感じた違和感は嘘ではなかったのだ。


どうして今まで発言者を向いていたのに目を合わせないのだろうか。

どうしてそんなに気まずそうな表情をするのだろうか。


僕は彼よりも、クラスのどこかおかしなところに注目してしまった。

注目せざるを得なかった。


「名前はロイと言います。どうぞ、よろしく」


クロウよりも若干丁寧に、かつ若干弱弱しく、彼――ロイは言った。

ロイ自身もやはりこの異常さに気づいているのか、僕と廊下で話した時より硬くなっているように見えた。


この変な雰囲気に耐えられなくなって、と言った方が正しく思えてしまうように。

ロイはゆっくりと座った。

座って、目を窓の外へやった。

それを見るだけで、何故か心が疼いた。

彼もまた、僕と同じように変なことを何回も考えてしまっているのではないか。


「はい、これで終わりね。簡単な自己紹介で、みんなのことをまだ知ったわけじゃないけれど、これから1年間このクラスで頑張っていきましょう」


先生の変わらない明るい言葉で自己紹介は終わった。

だけど、僕には先生の言葉なんて耳に入らず。

自己紹介が終わったなんてこともどうでもよくて。


ロイのことが、どうしても気になっていた。



 ***



それからいろんな話(学校のシステムとか心得とか)が長々とあったあと、時計の針がいよいよ終了の時刻を指し示そうとしていた。

さすがに、一人別天地にいるような気分は少し戻ったけれど、僕はまだ心にモヤモヤとしたものを抱えていた。

だけど、そんなこと周りには関係ない。

カナタ先生はどんどん話を進めていく。


「みんな疲れてきたかな?でも、大丈夫。次でついに最後の話だよ」


はぁぁと、みんなから一斉にため息が漏れる。

それもそうだ。2時間もずっと座り続けて話を聞かされたのだから。

僕にとってはその2時間、いろんなことを考えすぎて意外にも早く過ぎてしまったのだけれど。


結局、ロイは財閥の人間ではなさそうだ。

それは委員長であるアカネが教えてくれた。

田舎にもそんな情報が届いていたのも不思議である。

同じ田舎者ではなかったのか。


ロイは右ひじを机について、ずっと窓の外を眺めていた。

昼なのにどんよりと曇っていて、雨こそは降っていなかったけれど、暗かった。そして少し重たかった。


「いきなりだけど、模擬戦を明日開催するね」


ニッコリ笑顔でカナタ先生はみんなに言ったけれど。

ん?

模擬戦?

それはイコール魔法を使うということであって。

それはイコール僕の貧弱さを晒すということであって。


「ええぇえぇえぇぇ!!」


皆も同じく、クラス中が驚きの叫びに包まれた。


「詳しいことは明日伝えます。みんな体調整えて、頑張ってね。以上!今日はこれで解散するわよ」


先生はすぐに教室を後にした。

まだ叫び続ける僕たちを気に留めることなく。堂々と。

残された僕たちは、ただ騒ぎ続けていた。


結局魔法使うじゃんか!

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