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1-4. 自己紹介①

話は変わるけれど、この世界に存在する魔法。

その属性は全部で5つ。


風・火・土・雷・水


僕はそのうち3つを扱えるわけだけれど(それぞれ弱いということは何度も言わない)これはアカネも言ったように非常に珍しいことらしい。

基本1属性。運が良くて2属性。

僕みたいな3属性以上持つ人は、滅多にいないそうなのだ。

言われてみれば、実際僕も2属性以上持つ人すらまだ目にしたことはない。田舎者だけど。


「はい、じゃあ次の人」


気づけば、自己紹介の順番がもう間近に迫っていた。

そんな時間経ってたっけ。

慌てて視線を前に戻すと、立ち上がったのは紅の髪をした女の子。

腰くらいまで伸びたそのきれいな髪からは、艶やかな雰囲気が漂ってくる。


ただ、口を開いた途端、それは灰と消えた。


「私はスミレ・ローズマリー。使用する魔法は火と風。ランクはA。基本、何か用がなければ私には近づかないこと。以上」


艶やかな雰囲気など感じた僕が馬鹿だった。そんなもの微塵もない。

突っ込みたい箇所満載の傲慢な自己紹介。

この世界の慣習やらなんやらをぐちゃぐちゃにしたそれはそれは素晴らしい自己紹介。


あぁいいとも。1つ1つ突っ込んでいこうじゃないか。


まず1つ目。フルネーム。

この国には基本的に名前しか名乗らないという慣習がある。

どうしても魔法は家系に依存する部分が大きくて、それによる偏見等をなくすためだとか。

と、国のトップが言っていたのを聞いた。

別にただの慣習だし、なにも悪くはないんだろうけど。

少しおかしいと感じてしまった僕の心に間違いはないはずだ。

ローズマリーか。

まぁ名乗ってもおかしくないんだろうな。


それと2つ目。魔法とランク。

火と風だって。2属性だって。

僕が初めて出会ったよ。おめでとう。

驚いたのはそこだけじゃない。Aランクだって。嘘だろ。

たとえ郊外の田舎でも、最強とうたわれたアカネでもBランク。

僕はこの年代にしてBランクは文字通り最強だなと思っていた。

しかし、この傲慢な態度の女の子はAランク。

都会って、そんな奴ばかりなのか?


最後に3つ目。誰もがお分かりになるであろう、友達拒否宣言。

あんな奴に近づくなんてこっちから願い下げだ!


はぁ。疲れた。

全てに言及している間に、この女は座っていた。

周りはそわそわしている。

そうだよな。自己紹介、おかしいもんな。

それ以上に、ローズマリー家だもんな。


「はい、じゃあ次の人」


カナタ先生は前と変わらず同じ調子で前に進めた。

そんなに驚くことではなかっただろうか。


呼ばれて立ち上がったのは金髪の男の子。

その出で立ちや雰囲気から、先ほどの傲慢女と同じ匂いがするのは気のせいか?

気のせいであってくれ。


「まったく、スミレ君の後で恐縮だよ。僕はクミン・ブルドン。土の魔法の使い手さ。どうぞよろしく」


フルネームは堂々と言い張っていたけれども、意外と簡潔な自己紹介だった。

いや、言い放っていた感はすごかったけれど。

それにしても、ブルドン、だと。

おいおいこのクラス天然記念物ばっかりだな。


「都会にはすごい自信を持った奴がいるんだな」


アカネさんはどう思っていらっしゃるのだろうか。

田舎の傲慢娘。

は、流石に冗談。


「そりゃ、都会だもの。財閥関係の人くらいいるでしょ」


意外とあっさりなのね。

ただ僕は見逃さなかった。

アカネの眉がピクピクと痙攣しているのを。

コイツもまあまあ驚いているじゃないか。同じ田舎者。


四大財閥。

この国を支え多大な影響力を有する4つの家系。

ローズマリー家とブルドン家はその中でも魔法に精通した財閥、だったはず。

その御子息が二人も同朋であるとは、なんともすごいクラスだなまったく。


「名前はチャイだ。自称陽気なやつだから気軽に話かけてくれよな!これからよろしく!」


自称というか他称でも元気な奴だな。

って、もう次アカネの番じゃないか!


「はい、じゃあ次の人」


時間は待ってくれない。アカネはスっと立ち上がる。


「アカネと言います。田舎の方からやってきたのでまだ都会の雰囲気に慣れてはいませんが、早めに慣れていければいいなと思っています。委員長に抜擢されたのには正直驚きましたが、この横の副委員長とともに頑張っていきたいと思います。よろしく」


拍手が沸き起こる自己紹介なんぞ聞いたことがないぞ。

あれ。さっきまでおりゃだのうりゃだの凄まじい言葉を吐いておられませんでしたか?

どこからその清楚な言葉遣いが出てくるのですか?


「はい、次の人」


アカネが座り僕が立つ。

ニヤニヤとしてやったり顔のアカネになにか言う間もなく。

ふぅ。

落ち着いて。少し息をつく。


「名前はショウといいます。隣の委員長のアカネと一緒に田舎からやってきました。どうぞ、よろしくお願いします」


当たり障りのない、普通の自己紹介。

それでいいんだ。

先生の、次の人を呼ぶ声。それで、僕のターンは終了だ。


「えっ、一緒にって、もしかして2人付き合ってるの?ありゃ、先生いけないことしちゃったかしら」


先生!

ターンエンドです。ターンエンド!

その満面の笑顔もやめてください!


バンッ!


急に横から何かの破壊音に近い音が聞こえたと思ったら、アカネが両手を思いっきり机について立ち上がっていた。


「先生!違います!誰がこんなやつと!」


顔が赤いぞ。


「こんなやつとは誰だ!」


「アンタに決まってるでしょ!」


「はいはい、そこまで。仲がよろしいのは十分によくわかったから。2人とも席に着きなさい」


おっと。

思わず僕まで立っていたじゃないか。

コイツのせいでまたもや不毛な言い争いを衆目に晒してしまった。

今日は何回笑われたらいいんだ。まったく。

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