1-3. 委員長と副委員長
「さぁ、委員長と副委員長が決定したきりのいいところで、みんな席について」
きりはよくありません。
しかし、こう言われてしまってはもはや逃げられないのだろう。
いつまで経っても笑顔を崩さない女性。彼女の言葉を曲げるのは至難の業のような気がする。
オーラが違う。
とはいっても、争いを止めてくれたことには感謝します。
仕方ない。理不尽な役職指名も受け入れましょう。
ただね。どちらが上の立場なのか。これだけははっきりさせていただきたい。
「あの、僕は委員長でしょうか?」
「いいえ、あなたは副委員長です」
まさかの部下指名。
「嫌です、私が委員長なんて。なんでそんな面倒くさいことを」
「嫌です、僕が副委員長なんて。なんでアカネの下になんか」
ここに両者の利害が一致しました。
「はい、みんな席に着いたね。えぇっと、私は今日からこのクラスの担任を務めるカナタといいます。これからとりあえずは1年間、よろしくね」
先生。そんな笑顔で無視しないでください。
「ん?私の下?あぁ、私の部下。なるほどなるほど…」
なにやら右隣の席から黒めの違和感を感じます。
「私が委員長でショウが副委員長。私が上で、アンタが下。ふぅん。私、委員長がんばる」
途轍もない墓穴を掘ってしまったようです。
小声で呟くアカネは不敵な笑みを浮かべていた。
やってしまった。
グッバイ僕の1年間。
と、ここであたりを見渡してみると僕らを見てクスクス笑う声もチラチラ。
どうやら先ほどのクラスの違和感はすっかり消えてしまっていたようだ。
さすがにそうか。暴れ散らしすぎだよこの委員長。
でも少しだけ、ホッとした。
「さて、君たちは今日入学したてのほやほや。私の担当科目とかいろいろ言ってもまだわからないだろうから君たちのことをまず、教えてもらおうかな。クラスのみんなもまずはこれから共に1年間学んでいくみんなのことを早く知っておきたいでしょ。と、いうことで、左端の君から自己紹介タイムスタート!」
いきなりですか。先生。
物語的にも仕方がないとは思いますけど、そうですか。もう自己紹介ですか。
左端からということだし、真ん中列の最後尾に座っている僕に回ってくるまで時間はありそうだ。
それまで、この隣の小さい獣の相手でもしておこう。
「先生、自分が使える魔法とか言ったほうがいいんですか?」
最初に指名された男の子が、先生に質問していた。
隣の委員長は気づいていないようだけれど、僕の耳にはきちんと入ってきたぞ。
「そうね。うーん、どっちでもいいけれど特に言わなくていいわ。魔法はこれからしっかり学んでいくものだし。先生は君たちの名前と趣味くらいを聞けたらそれで満足。あとは適当に」
正直、先生のこの言葉にはほっとした。
なんたって、僕の魔法は恥ずかしながらも弱いからだ。
胸を張って断言できるくらいには貧弱だと自負している。
今考えても恐ろしい。僕はどうしてこの上級学校に入学できたんだ?
国内でも非常に有名で、1,2を争う難関なこの学校に。
わざわざ郊外の田舎からアカネと2人で都会に出てきたけれど、本当にどうして?
確かに、アカネは強い。いろいろ貶してはいるけれど強さは認めている。
田舎の下級学校時代は最強の称号までみんなからもらってたんだ。
当然、この学校でも十分にやっていけるだろう。
対して僕はどうだ?
アカネに連れられて一緒にやってきたのはいいものの、アカネみたいに強力で誇れる魔法なんて持ち合わせちゃいない。
確かに、使える魔法の種類は多いかもしれないけれど、どれも弱いことに変わりはないんだ。
なんて。
入学が決まった日からずっと思っていたことをまた考えてしまった。
「おーい。副委員長。なにぼーっとしちゃってんのよ」
おっと。
そんなに考えに耽ってしまっていただろうか。
「なんだよ。考えごとしちゃ悪いのかよ」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。どうせ自分の魔法は弱いとか、田舎者だとか、自己紹介ついでに考えてたんでしょ」
おいおい、そんなに安堵の表情やら不安な表情やらが顔に出ていたのかい。
ニヤニヤ笑いながら先生の言葉も聞いていたんですか。あなたは。
「なんだよ。悪いかよ」
図星だったことに少し驚き、同じようなセリフしか口にできない。
「誰もそんなこと言ってないでしょ。そんな自分のことを悲観的に捉えるなって言ってんのよ」
なんだい。慰めてくれるのかい。
「ショウの魔法は弱い」
コイツ!ただの言葉の暴力だ。
「でも、今、弱いだけでしょ。先生も言ってたけれど魔法は上級学校でこれからしっかり学べるものだし誰もショウの限界なんて知らないわ」
そりゃ。
そうだけど。
「それにショウは普通じゃ極めてあり得ない3つの魔法属性を持ってる。大抵は1つ。私も1つ。今までに何回も入学できた理由を聞かれたけれど、私が学校長ならそんな人材見逃さないわよ」
確かに。
そうやって何度も言ってくれたけれど。
「田舎者だから恥ずかしいなんて考えもやめてよね。私だってショウと同じ田舎者なんだから」
最後は少し照れくさそうに。
あえて場を濁すように。
適当にその辺の言葉をとってきてまとめたような言葉を吐き捨てて、アカネは前を向いた。
わかっちゃいるんだけどさ。
でも、何回だって考えるさ。
それだけ驚いたことなんだし。
アカネはたまにこういうまじめなことを言う。
普段のツンケンした態度をどこへしまいこんでいるのやら。
まぁ、そんなアカネに。
ありがとう、なんて、言ったことはないけれど。




