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2-9. 繋がり

都市伝説。

まさかスミレの口から都市伝説などという根拠の欠片もない現実味の欠片もない単語が出てくるとは思わなかったが、まぁ今は気にしない、きっとそれはテトラス・エドのことなのだろう。

ジル長官とカナタ先生にすら尋ねるという都市伝説級のテトラスにスミレは一体どんな関心を抱いているのか。


「テトラス・エドのこと?」


「知っていたの?」


「いや、カナタ先生が気にしていたから」


「あの先生本当にお喋りよね。まぁいいわ」


やれやれといった表情のスミレ。


「で、貴方達は彼らについてどこまで知っているの?」


「僕は全然知らないんだけど、アカネは少し知ってたよ」


「私も都市伝説として他の人から聞いただけよ。最強のテトラスということくらいしか知らない」


これまたやれやれといった表情のスミレ。


「そう。わかったわ」


と言って僕たちの前から去ろうとする。


「いやいや、教えてくれよ。スミレはちょっとくらい知っているんだろ?」


「私も詳しく知らないから尋ねに行ったんだけれど」


それもまぁそうか、とは思うけどさ。

わざわざ先生や長官に聞くくらい気になっていたんだろ。


「存在するかもわからない架空のテトラスかもしれないじゃないか。長官や先生もまともに取り合ってくれなかったんじゃないか?」


「テトラス・エドは実在するわ」


しっかりと僕の目を見つめるスミレの瞳。

一直線に向かってくる視線は彼女の嘘を否定する。


「どうしてそう言い切れるんだよ」


「……私はエドに助けられたことがあるから」


静かに放たれた言葉は僕の耳にすっと届いた。

助けられたことがある?テトラス・エドに?


「本当にエドだったの?」


「えぇ。間違いないわ」


「ただでさえ都市伝説なんだろ?どうしてエドだとわかったの?」


「本人がそう言っていたもの」


スミレはエドに助けられてそして名乗られた。

虚言を吐かれたという可能性もあるだろうけれど、嘘をつく利点も今すぐは思いつかない。

ということはテトラス・エドは実在するということなのだろうか。


「都市伝説と言ったけれど、正確には私たち一般市民に対しては都市伝説だとして差し支えないと言ったほうがいいのかしら」


「どういうこと?」


「テトラス・エドは犯罪者を陰ながら討伐する集団だったからよ。だから裏の世界では名前がそこそこ知れ渡っていたらしいわ。彼らに見つかると終わりだから」


表の世界、魔法の関わる犯罪とは無縁の世界に住んでいる僕らにとっては関係のない話。関係のないテトラス。

裏の世界、魔法の裏側、魔法を凶器として用いる集団に対して暗躍するテトラス、それがエドというのだ。

一応、正義の味方といえばそうなのだろうか。


「どうしてそんなに知ってるんだよ。あと、なんで過去形なの?」


「私なりに色々調べたから。ただ財閥の力を行使しても集まった情報は少なかった。けれど、ここ数年彼らの情報はますます得られなくなってしまって。裏の人間にも結構あたってみたんだけれど、まるで姿を消したかのように一切現れなくなってしまったらしいの」


いわば秘密警察のように影で活躍していた集団が数年前に突如として姿を消した。

テトラス・エドにスミレは過去助けられた。

そしてスミレはエドの情報を集めに保険室に向かった。


……ロイとクロウが収容されていた保健室に。


「そっか。でもさ、そのエドと保健室を訪ねたことと何が関係あるんだよ」


僕は薄々感づいていたけれど。

いや、きっとスミレはもっと確信に近いものがあったんだろうけれど。


「……ロイがエドのメンバーじゃないかと思ったからよ」


自信のなさそうなか細い声でスミレは伝えてくれた。

ロイがテトラス・エドのメンバー。構成員。

なんとなく想像はしていたけれど、その仮定を当てはめてしまうとロイは数年前には最強テトラスの一員であったということになる。

若干15歳程度の人間が負け無しの功績を打ち立てられるのかという疑問も残るが、納得のいく点も多少あるのも確か。


「……」


光魔法の使い手かつ既にSランクという魔法の持ち主。

裏の世界で活躍するという恨みを買いやすい立場。

数年前の大きな事件、太陽の日。


仮面に狙われている理由も、エドの噂が途絶えた時期も、ロイを勘定に入れてしまえば辻褄が合ってしまうことが幾つかある。


「結局、ジル長官もカナタ先生も何も知らなかったけれど」


「なんで今まで直接聞かなかったの?」


人見知りするタイプでもあるまい。

それにスミレの性格なら直接聞きそうなものだが。


「そう思ったのが昨日だったからよ。昨日ロイは寝てたでしょ」


「そっか」


なにをきっかけにそう思ったのか、まぁそれはどうでもいいだろう。



 ***



「この度は生徒諸君を危険な状況に陥らせてしまったこと、また尊い命を一つ失わせてしまったことを学校長としてまずお詫びします」


ブルーム先輩の葬儀は学校関係者と親族のみで行われた。

その後の告別式が廃屋となってしまった体育館に変えて、臨時的に魔術競技場にて行われている。

開いた屋根から差し込む日差しが肌に刺さる。


先程まで降っていた雪はどこへやら。葬儀の間にすっかり快晴になっていた。


後悔はしない。してはいけない。

だけど悔しい。

いや、悔しく思っちゃいけないんだけど。


今日を悔しさを実感する最後の日にしよう。

これ以上の後悔は先輩に顔向けができない。


絶対に強くなってみせます。ブルーム先輩。

僕が先輩の分までローレンシア先輩を支えてみせます。

そしてこの心眼を理解して制御してみせます。

どうか見ていてください。僕の大きくなった姿を。


先輩の遺志を無駄にはしない。


「当校は本事件を重く受け止め、東武長官との談合の結果、脅威への一層の警戒をはかるため暫く東部傘下の警備部隊へ護衛をお願いすることになりました。また、警備の配置や建物の修復、防護魔法の強化等を目的として二週間、休校に致します。その間生徒諸君は外出をできるだけ控えるようお願いします」


事件は単独の愉快犯よるものとして説明された。

仮面の本来の目的が僕やロイであることは勿論伏せられた。

僕はあの場で叫び声を挙げて仮面の前に出てしまったため皆に疑いの目を向けられるのは間違いなかったが、僕は仮面にひっそり脅迫されていた、ということでまとまったらしい。

事実その通りではあるのだが、心眼を表に出さないために長官の考えた方策らしい。なるほど。

生徒も逼迫していた状況だけに一応の納得はしているようだった。


「二週間休みだって。どうするアカネ」


「どうしようもないでしょ。外出するなって言われてるし」


まぁそうなんだけど。


「それに私にはアンタたちを二週間見守るという義務があるわけだし」


「いやそれはアカネが勝手に言い出したことだろ?」


「なによ!男三人が一箇所に寄り集まって何かあってからでは遅いじゃない!」


「男三人が集まったんだから逆に何も起きないよ」


告別式の前、僕とアカネはカナタ先生に軽く呼び出されていた。

そこで宣告されたのが僕とロイとクロウの共同生活。仮面の実体が明らかになるまで半永久的に続くらしい。

狙いはもちろん仮面の襲撃に備えたもの。学校を襲撃することはないだろうが寮はまだわからないということでの安全策らしい。

僕がいれば仮面は躊躇するのではないか、ということ。


何故かこれにアカネが大反論。終いには私も様子を見にいくと言い出すもんだから驚いた。

その理由もなんとなくわかってしまうのが少し微笑ましいが。


「とにかく後で保健室に様子を見に行きましょう」


「うん」



 ***



「あら、ショウちゃんとアカネちゃんいらっしゃい」


「先生、ロイとクロウ目を覚ましました?」


カナタ先生は昨日から保健室につきっきりで二人の看病にあたっている。

疲れ一つ顔に出さないのだから驚きだ。


「まだ。だけど、安心してるのかしらね、いい顔して眠ってるわ」


先生は椅子を二つ用意してくれてコーヒーまで出してくれた。

疲れた体に申し訳ない。


「ありがとうございます。ところでカナタ先生、ロイとクロウは半年間どんな襲撃を受けていたんですか?」


聞きたいことは山ほどあった。

ただ共同生活をしなければならないことになって、彼らの事情を少しでも把握したいと思ったんだ。

心無いことを聞いてしまってはいけないから。


「ジルから聞いた話だけどね、東部では毎日毎日ひっきり無しに敵がやってきていたらしいわよ。寝る間もなかったんじゃないかって言ってた」


二人のおびただしい量の傷が物語る過酷な襲撃。

きっとそれは身体だけでなく心にまで損傷を与えていることだろう。


「毎日襲われているとね、人間の心っておかしくなっちゃうのよ。クロウちゃんはタフな子だったから多分大丈夫だけれど、ロイちゃんはね。ジルからもロイちゃんのこと気にかけてくれって。ロイちゃんはあまり心が強くないからって」


「そう、ですか」


「その辺もショウちゃんの重大な任務よ!三人で一緒に過ごして楽しい思い出を作る。新しい思い出で心を満たしてあげるのが一番よ!」


「先生、四人です」


アカネは一緒に住まないだろう。


「はいはい、二人の逢瀬の場所をなくしちゃったことは謝るから」


「ち、違います!!」


疑いようのない真実だと最初から思っているが。


身寄りのないロイとクロウ。彼らは少し僕と似ている。

僕は幼い時に両親を事故で亡くしている。本当の両親の顔すら覚えていない。

そのせいで辛いことも沢山あったけれど、楽しいこともあったと自信を持って言える。

僕を受け入れてくれたアカネの両親には本当に感謝しているんだ。


だから僕はロイの受け入れ場所になりたかったのかもしれない。

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