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1-2. 運命のクラス分け

学校長の長話があったくらいで入学式は終了した。

無限回廊については学校長からきちんとお話を頂いてしまった。

気をつけるようにって。一言遅いわ。


「アンタ、それで迷ったんだ」


後ろから聞こえるクスクス笑いは無視だ。

コイツめ、覚えてろ。


ところで、僕たちは今クラス発表を見に各教室の前に集まっている。

それぞれの前にそこのクラスに該当する名前が張り出されているらしい。

そのせいでどこもかしこも素晴らしい混雑具合である。

どうして一箇所にまとめなかった。


「どう?私たちのクラスはわかった?」


コイツは背が小さい。これほど人がごった返していれば爪先立ちをしようとも見えるはずがない。

本人なりに一生懸命頑張っているつもりらしいが、ひょこひょこ動いているくらいで努力虚しく見えていなさそうだ。

ハハハ、ざまぁみろ。


「僕はこのクラスみたいだけど、アカネは別のクラスみたいだよ。名前が無いから」


この小さな女の子、<<アカネ>>の名前は同じクラスの紙に見つけていたのだが、まぁ、あえて言うまい。

クスクス笑いのお返しだ。無駄足を踏むがいい。


「…そっか。じゃあ別のとこ見てくる」


しめしめ。

アカネは少し肩を落として、他のクラスの方へ歩いて行った。

暗い橙色のポニーテールが別の人だかりに埋まっていくのを確認して、僕はたぶんニヤリと笑って教室へ入った。



 ***



教室にはすでに生徒が何人か入っていた。

黒板には座席が名前とともに書いてある。

あぁ、最初から決められているのね。


しかし神様は今日の僕に試練しか与えないらしい。


一番後ろの僕の隣の席に、アカネの3文字を見つけてしまった。

なんでこうもめぐり合わせがいいんだよ。

僕は仕方なくご丁寧にも用意された自分の席へと向かう。


「あっ…」


思わず声が出た。

真ん中の列の一番後ろの自分の席へと向かう途中、彼を見つけたからだ。

茶髪のツンツンヘアー。ついさっき僕を不安の海から救い出してくれた彼だ。

どうやら2つ左の席らしい。

僕の席の左隣には、黒髪の少年が座っている。


「あの、さっきはありがとう」


お礼を言わなくては。しっかりと。さっきはドタバタで焦っていたから。

こういうことはきちんとしたい…人なんだ。僕は。たぶん。


でも、あれ?

教室ってこんなに静かだったっけ。


ふと、あの無限回廊で包み込まれた静寂が蘇った気がした。

耐えかねて振り返ってみると、その異様さに気が付く。


教室にいたみんなの視線が僕に集中していた。


え、どうして?

僕なにか悪いことでもした?


「キミのせいじゃないよ」


静まり返っていたからだろうか、一瞬、誰の声かわからなかった。

それでもその声は僕の左から聞こえてきたし、茶髪の彼のものなのだろう。

さっきより少しか細い声。


どういうことだ。

その言い草はまるで彼は事情を把握しているかのよう。すべてを知っているかのようだ。

でも僕にはこの空気を打破する方法は持ち合わせていないぞ。

一体なにをしていいのかわからなかった。

張り詰めた空気が痛くて、体を動かすことすらままならなかった。

背中を伝う一筋の汗がまた僕を刺す。


「なぁに騙してんだこらぁ!!」


突如としてその沈黙と不安は破られた。

奇しくもアカネの手によって。

後ろのドアをガラッと開けて、まるで獣のように突入してきやがった。

轟く音の方を振り返ると、既に目の前にある彼女の右足。

間一髪しゃがんで躱せたからいいものの、当たってたら死にそうだよまったく。


「私を騙すとはいい度胸じゃん、結局このクラスじゃねぇか!廊下の端から端まで往復した分のエネルギー返しなさいよ!!」


アカネさん。女の子であることを自覚してください。

今の発言は小さな乙女には不適切ですよ。

なんて、諭してあげる暇もなく、拳やら蹴りやらがとんでくる。

一体どこでそんな格闘技覚えたんだって。

絶え間ない攻撃に躱すのだって一苦労。


「消費したんだろ!今また使ってどうするんだ!」


エナジードリンク、買ってこようか?


「アンタが騙すのが悪い!」


「背が小さいのが悪い!」


後から思い返してみれば、本当に不毛で醜い喧嘩だったと思う。

恥ずかしさの極みだった。入学式、当日ですよ。まったく。

まぁ唯一誇れるとすれば、この小さな野獣の攻撃を躱しきったということだけだ。


「あらぁ。朝から元気がいいですね2人とも。委員長と副委員長に決定だね」


手を止める僕ら。

いつからいたのかはわからなかった。

それでも、教卓に腰掛けているあの女性は先生なのだろう。

にこやかにこっちを見つめる視線が、今は逆に哀れみの表情に見える。


ふと、なにか違和感に気が付く。そういえばこの人、途方もないことを言ったような。

僕とアカネの動きがピタリと止まって、お互いを見つめ合った後。


「えぇぇぇぇぇぇ!!」


理不尽極まりない決定が、やっと脳に届いた。

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