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1-12. 授業のはじまり

スミレのライバル宣言から一夜明け。

未だに開いた口が塞がらない僕は、昨日の人生で一番口をあけたと思うシーンを空に思い出しながら学校へ向かっていた。


「ライバル……か」


ライバルってそもそも宣言するものなのだろうか。

公然と。堂々と。

好敵手って、自然と、なんとなくそんな感じになっていくものじゃないのだろうか。

表現は曖昧に、抽象的になってしまうけれど。

そもそもそういうものなのでは。


「さて、今日から正式にこの学校での授業が始まります。記念すべき第1回目は魔法そのものについて少しお話しすることからはじめましょう」


学校に到着して席に着きホームルームを終えた後。

魔法の概念や教科の説明などから僕の初授業は始まった。

下級学校では習わなかったより詳しい魔法の説明。

僕はその素晴らしい世界にどっぷりと浸かっていった。


「魔法には大きく5属性。珍しいけれど光と闇も加えれば7属性存在していると考えられています。そのいずれも固有の'波長'を持っていてその重なり具合により魔法は強めあったり弱めあったりすることが経験的にわかっているの」


魔法の強め合いと、弱め合い。

下級学校でもそれくらいは習っていた。

はず。


「5属性の相関についてはみんななんとなく経験しているんじゃないかな。火は水に弱いとか、水は雷に弱いとか」


なんとなく。ぼんやりと。

当たり前といえば当たり前なことではある。

水をかければ火は消えてしまうし。

それって波長のなにが関係しているのだろう。


「でも相関には強弱関係の他にもう一つあるよね。そう。補助の関係。どちらの関係も物理法則に起因するものだと思われがちですが、実は、魔法においてこれらの関係は先程の波長による影響が強い。二つの波長が重なって大きくなれば強めあうし、その逆もそうだと考えられています」」


確か風は火と相性が良いと聞いたことがある。

要は魔法の相関関係には物理的な要因と波長的な要因の2つがあると。

と、いうことでいいのだろうか。


「それでね。この波長には属性波長と個人波長の2種類があるの。属性波長の方はある程度その形や振動が決まっているのだけれど、個人波長は使用者個人により様々。そしてこの個人波長の重なり具合を'同調度'と呼びます」


ちょ、ちょっと、頭がこんがらがってきた。

イメージはできるような気もするんだけれど。


「まぁ簡単に言えば人には合う、合わないがあるってことね。波長が似たような人なら魔法を強めやすいし、逆なら威力を出しにくいわけ。つまり2人で魔法を使うとき、この同調度が非常に重要になってきます」


……。

今日も空が綺麗だ。


「以上をまとめると、簡単に言えば魔法属性の強弱関係は属性波長に、補助関係は個人波長による影響がより強いのです。そこで、この個人波長がどれだけ似ているか、つまりは2人の同調度がどれだけ高いかということを次の時間に確かめてみましょう」


「アカネー!!ヘルプ!!」


「は?アンタ今のでわかんなかったの?」


「とりあえず、波長がすごい」


「……」


一発グーで頭を殴られました。


「強弱関係と補助関係の違いってなに」


仕方ない。真面目に聞いてあげよう。


「強弱関係は言ってしまえば片方が片方を打ち消す関係でしょ。火は水に、水は雷に。どちらかが勝ってどちらかが負ける。属性波長がそういう性質を持っているから誰にも変えられない五行の関係」


「うんうん。そこはなんとなく」


わかっているつもり。


「補助関係は打ち消し合うわけじゃなくて互いに高め合うってこと。属性波長が打ち消し合わない、影響を互いに与えないから個人波長の影響が強いってこと。いい?」


「アカネ先生、大変わかりやすいです!」


僕の優しい家庭教師。

いや、優しいは言いすぎた。訂正しておこう。

僕のたまに優しい家庭教師。


「あれ?でも僕の水魔法はアカネの火魔法にすぐ打ち消されるんだけど、おかしくない?」


「それは単純にアンタが弱いから」


「えっ」


「相性が悪いってだけで威力が格段に違うもの」


理不尽だ。




 ***



「ではこれから同調テストを行います」


その後、波長に関するあれこれを少し教わった。

詳しくは魔法物理学の本を読んでみるといい。

あの本はおすすめだ。隣にアカネという解説者がいればの話だが。


「どうするんですか?」


「簡単簡単!この水晶に二人同時に手をかざすだけよ。あとはこの水晶が二人の波長を認識して内部で増強、その同調具合を色として表してくれるわ。その色を0から100までの数値に換算できるの。換算は先生がやってあげるから心配しないで」


早速、同調度を測定するそうで。

先生はサッカーボール大の少し大きな水晶玉をゴロンと教卓の上に転がした。

雑だな。割れないんだろうか。


「どういうこと?アカネ」


「バカ」


「わからないんだからしかたないだろ!」


「とりあえず手をおきゃいいのよ。数字を教えてくれるから。数が大きければいいの。それだけ」


「そうか。そういうことにしておこう」


「そういうこと以外何もないわよ」


さては詳しい原理はわかっていないな、アカネ。

こういう機械は原理なんて正直どうでもいいといえばどうでもいい。

結果さえわかれば。

ブラックボックス。


周りは順番に水晶に手をかざしていた。

僕らは後ろで小さくなって見守っていた。


組み合わせとかは決まっていない様子。

アトランダムにみんな次々と手を置いていっている。

全員は確認できない、と先生。

そりゃそうか。40人いる生徒の組み合わせを考えたら、えっと、えっと、何通りだっけ。

とにかく時間がかかることは僕にもわかる。



先生の出す数字は大体10から30くらい。

100までとか言っていたけれど、みんな低いなぁ。


「50くらいだせたら最高得点だね」


「得点ってなによ。バカ」


「テストならみんな赤点だね」


「そういう問題じゃないでしょ」


くだらない会話が聞こえているのだろう。

クスクスこっちを見ながら笑われている。

嫌な気は全くしないが。


「まぁまぁ、アカネ、やってみようよ」


「は?なんで最初にアンタとやらなきゃいけないのよ」


「え、なんでそこ拒否されるの。いいじゃん」


「し、仕方ないわね」


少し顔が赤いぞ。

わかりやすい委員長だこと。


「なんで顔赤らめてるの?」


「うっさいわよ。バカ」


カナタ先生。

あなたもニヤニヤこっちを見ないでください。

次にいうセリフ、誰にだってわかりますよ。


「お。いいねぇ。委員長ちゃんと副委員長ちゃんのラブラブコンビは」


ほらね。


「うっさいわね。ったく、これだから嫌だったのよ」


「あ、なるほど」


「ほら早く早く、二人で手をかざしてみな。時間が限られているからね」


この儀式のようなイベントは毎年の恒例行事らしい。

お互いを知らない時期に接点をつくる学校としては大切なものなのだと。

確かに、好きな女の子との同調度が高ければテンションは上がるってもんだ。

逆もまた、しかり。


「アカネ、早くおいてよ」


「うっさいわね。どうなっても知らないわよ」


2人で手をかざす。

僕は右手。アカネは左手。

なんでそっぽ向いてるんだ。水晶を見なよ。


水晶の中にはうっすらともやがかかりはじめ、だんだんと濁っていく。

汚い。

多少顔をしかめていたが、そのもやにも色が与えられていく。

赤から緑、そして青へと。

色とりどりな変化を生む水晶に惹きつけられ、僕はずっとそれを見ていた。


「えっ」


「先生、どうかしたんですか?」


「すごいわね」


「これは0点の予感」


綺麗な色をしていたのに。


「だから得点じゃないわよ」


「65点」


「だから得点じゃないわよ」


「65よ。さすがラブラブコンビね」


教室内はどよめいた。

それ以上に僕らが叫んでいた。


「えぇぇぇ!」


これはアカネな。僕はそんなに驚ろろろ。


「アンタ顔が真っ青よ。水晶が写ったんじゃないの。水晶になっちゃったんじゃないの」


「嘘だろ。アカネとこんなに同調していたなんて」


「……」


もちろんプラスの意味だよ。


「アカネ、よかったね」


「うっさい。バカ」


「なんで怒鳴られなくちゃならないの」


「バカ。こっちみんな」


少し顔が赤いぞ。

わかりやすい委員長め。


「なんで顔赤らめてるの」


「うっさい!」


僕はあっさりパンチを躱した。

こうして僕とアカネの相性が良いことが判明した。

のも束の間。


「74」


「えっ」


教室がどよめいた。

いや、逆に静まり返った。

74。

誰だ僕らより高い同調度を叩き出したのは。


「先生、びっくりしちゃった。1年生で、しかも初回でこんなに高い同調度を2回も見れるなんて。委員長コンビの65も正直とんでもない大きさだけれど、これは……」


常に笑顔を浮かべていたカナタ先生の顔が珍しく少し曇った。

それは単純な驚きですか。それとも嬉しいんですか。

それとも。

あり得ない、とでも言いたそうな表情だと僕は感じた。


「さすが、私のライバルね」


「そ、そうだね」


見れば茶髪と気品高い紅の髪。

ライバル関係になってしまったあの2人。

とはいえ若干ロイは引いていた。ように見えた。


「いいこと。相性は良くとも貴方は私のライバル。これだけは忘れないで」


「は、はい」


ロイって絶対尻に敷かれそうなタイプだと思った。

それ以上に、開いた口がまたもやふさがらなかった。


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