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1-11. 私だけのライバル

かちゃかちゃと音が聞こえる中、ブロッコリーを頬張った。

よく噛みしめる。少し満足げな表情で。


「アンタ、まだにやついてんの?」


おっと。お隣さんのお怒りをまた買ってしまったようだ。

嬉しいんだから自重はするまいが。


「まぁまぁ、初めてなんだからいいじゃないか。アカネと引き分けたのは」


言って、じゃかいもを頬張った。

よく噛みしめる。更に満足げな表情で。


「ったく。今回だけだからね」


僕らは模擬戦を終え教室に戻り、今は昼食タイム。

席も隣なのでアカネとは自然と一緒に食べることになった。

机をくっつけて向かい合わせで。

まぁ当然、話題はあの圧倒された戦闘。

つまりは財閥子息2人とその対戦相手へと移るわけで。


「でも、彼らは一体何者なのかしら」


「そうだよね。財閥の2人も凄いと思ったけれど、その相手の2人に圧倒されっぱなしだよ」


ウインナーを頬張る。


「そうか!君たちもやっぱり気になるよな!」


ガシャンッ!と荒い音を立てながら机を引っ付けてきたのは陽気なチャイだった。

机がぶつかった振動でお弁当の中身が軽く飛ぶ。


「なによアンタ、いきなり」


散らかった自分の弁当を見ながらアカネはチャイをにらみつける。

どんな剣幕してんだよ。弁当1つで。


「悪い悪い。そんな顔すんなって。改めて、俺はチャイだ。君たちの試合の前に戦ったんだけどなぁ」


「ふーん」


どんな返答してんだよ。弁当1つで。


「なぁ君たちも知りたいよな。彼らがどんな人なんだろうって。俺も知りたいんだよ。ここはどうかな、1つ。一緒に膝を交えて語り合うというのは」


「はぁっ!?」


アカネの怪訝な顔を見るまでもなく、チャイは既にロイとクロウの2人に声をかけている。

全く行動の早いやつだ。

え、ロイとクロウ?

チャイはロイを拒絶しないのか。

一方のクラスはといえば、みんな昼食に夢中でそれほど気づいていない様子。


「アンタもなんかいいなさいよ」


「いや、僕は別にいいんだけれど」



――せっかく2人でご飯食べてたのに!



いつでも食べれるじゃないか。


正直なところ話してみたいなというのはあった。

前に教室で話しかけた時のあの静寂について気にならないわけがない。

こうも教室内でどうどうと喋れるのならチャンス、といえばチャンスなのかもしれない。


「ほーら、そこ開けて」


見事に釣れたものだ。

内心この話には乗らないと思っていたのだけれど。

ガタガタと机を動かされ、5つの机がかたまった。


「さてさて、じゃあ話してくれよ」


「なにを?」


どうして僕のほうを見るんだ。


「君たちのお弁当の中身が一緒の理由さ!」


「は?」


そりゃ当たり前だろ。

アカネが作ってきてくれたんだから。


「なによ!同じじゃいけないっての!」


と、アカネ。

顔が赤いぞ。


「ほぉーほぉー。委員長と副委員長は本当に仲がいいんだね」


「うっさいわね!」


アカネはチャイに卵焼きを突っ込む。

黙らせるのに突っ込むなんて。

もったいない。

いらないならもらうのに。


「ふむふむ。おいしいねショウくん!全く君が羨ましいよ!」


「アカネの料理はおいしいよ」


なんて僕の一言に。


「ちょ、アンタ、人前でなんてこと言うの!」


「素直に褒められてるじゃないか!くぅー。眩しいねぇ。どうして付き合ってないんだい!」


「知らないわよ!」


ロイとクロウはそっちのけかい。


「ま、それはどうでもいいんだけど」


どうでもいいのかよ。

何故聞いた。


「さ、ロイくん。君が話したいことを言ってくれたまえよ!」


ん?

ロイが話したいこと?

逆では。

僕がロイに話したいんだけど。


「ショウくん、だったよね。君は一体どんな魔法を持っているのかな」


……はい?

あれ、なんで僕に質問が来るの。それもロイから。


「アカネさんとの戦いを見せてもらったんだけれど、その時の動きに興味を持ってね」


きょ、興味?

まさか、このロイって奴。

あれだけで感づいたってのか。


「どうして君は攻撃前に攻撃を躱せるのかな。まるで未来を予知しているみたいに」


「……」


ただ者じゃないと思っていた。

スミレとの戦闘からはっきりと。


それでも。

初見でなんてなおさら、今までアカネ以外には誰にも気づかれたことはなかったのに。

対峙者でもないロイは、'それ'に気づいてしまった。

この'何か'の正体にまでは気づいてないと思うけれど。


「逆に聞くけど、アンタ、どうしてそんなことが言えるのよ」


答える前にアカネが割って入った。

どうやら驚きを隠しきれないらしい。ちょっと顔ひきつってるぞ。


「アカネさんの攻撃が放たれるほんの少し前にショウ君が動いていたから」


「ただ単に反応速度が速すぎるのかもしれないじゃない」


「僕にはちょっと違うように見えたから。いいんだ。気にしないで」


ロイは自分から突っ込んでおいて自分で首をひっこめた

けれど、言及することを途中でやめた。

何かを、察したと言えば察したのかもしれない。



――……。



ロイは別になんとも思っていないらしい。

なにも感じ取ることはできない。僕の耳に入ってこない。

本当に興味本位で聞いていたのか。


「たまたま、じゃないかな」


適当に答えた後、


「そ、そういえばクロウとクミンの試合、凄かったよね。アカネには見えていたみたいだけど僕には何があったのかさっぱりで」


僕は咄嗟に話題を移した。本能的に。


「別に大したことはしていない」


クロウが口数少なく答える。

大したことをしたに決まってるだろう。あれだけの爆発を引き起こしといて。


「俺が見るにあの爆発は同種の魔法が混ざり合った時に発生するものだと思ったんだが、クロウ。お前土の属性なのかい?」


チャイが乗ってきてくれたおかげでうやむやにできた、のだろうか。


「あぁ」


でもチャイも見えてたのか。

それも爆発の種類まで。

爆発にもいくつかあるんだなと脳の片隅にメモメモ。


「それにしてもよ!一番の驚きはロイとスミレの一戦だよな!」


声がでかいぞ。

そんな大きな声で言ったら周りが、ってチャイめこの野郎わざとだな。

ニヤニヤしすぎだ。


ほら。辺りの声が小さくなっただろう。

お蔭で僕たちにまたみんなの視線が注目してるじゃないか。

もちろん、僕の後ろでご飯を1人食べていたスミレからはそれはそれは尋常じゃないほどの敵意というか殺気というか、もはやそのレベルに近いオーラを背中から感じる。

絶対聞き耳立ててるなこのお嬢様。


「スミレの具現化もやはり財閥のご子息さん、流石だと思ったけれどそれをかいくぐったロイを俺は一番尊敬してるぜ!一体どうやったんだ?全く見えなかったぞ。すっげぇ魔法でも使ったのか?」


「そんな、別に大したことは」


ロイもクロウも。

お互いに大したことをしているんだよ。絶対。

どちらかというと、ロイの方が謙遜に近いようだけれど。


「またまた。調子に乗らないところがかっこいいねぇ!ロイはどんな魔法を持ってるんだよ!」


「光だよ」


僕にはロイの返答の意味が分からなかった。


「どういうこと?」


アカネが思わず聞き返す。


「俺は生まれつき'光'の属性だから」


あぁなるほど。光属性ね。

そうか。それならあのスミレの攻撃を防いだのもうなずける。


わけないだろ。


「そんな訳ないだろ!なんだよ光属性って!」


「おいおいいきなりどうしたんだよショウ。もしかしてお前、属性5つだけだと思ってたいわゆる田舎者ってやつか?」


こいつ。顔がニヤニヤしてやがる。

また田舎者呼ばわりかい。


「五属性の他に、珍しいが光と闇っていう二つの属性があるんだ。闇属性は衰退したと言われてるが、光属性ならまだちらほらと聞いたことがあるぜ。ほら現に、東部のトップ、ジル長官もこの能力を……」


何やらチャイがうんちくをごちゃごちゃ披露しているが無視しよう。

光と闇、五行以外の属性の存在を知れただけで十分だ。


「へぇ。それは知らなかった。アカネは知ってた?」


「名前だけはね。実際目の当たりにしたのは初めてだけれど。それにしてもアンタは知らなすぎよ」


「ごめんなさい」


素直に謝った。多少の恥ずかしさと共に。


「そんな悲観することじゃないよ。使用者が多い属性でもないから」


それでも初めて耳にも目にもした。

光ね。

響きは、かっこいいな。


「それにしてもすげぇよな!もう一回見せてくれよ!あのスミレをズタボロにしたその魔法ってやつを!」


「おい、バカ。声がでかい……」


「誰をズタボロに?」


ああ。

もう知らない。

チャイはスミレの逆鱗に触れましたとさ。


「さっきから大きな声でお喋りね。貴方達。人を馬鹿にするのがそんなに面白いかしら?」


余りの迫力、圧力に。猛獣もひれ伏すかのような冷たい目に。

僕たちの口は開きもしなかった。

振り返ることもできなかった。


「結果は引き分けよ。試合の勝者はいない」


「でも勝負はロイの勝ちだと俺は思うけどな」


このバカ野郎!

口が災いを呼びすぎだぞ。


「なっ……」


おや。少し狼狽えているご様子のお嬢様。

やっとの思いで後ろをチラッとみると顔がほのかに赤く染まっている。


「い、いいこと!覚えておきなさい!ロイ!私は貴方に負けたわけじゃない。まだ勝者は決まっていないのよ!だから……」


……だから?


「私のライバルになりなさい!いいこと!決定事項だから!」


今度は開いた口が塞がらなかった。

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