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朝焼けのそり  作者: 近視の原始人
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第1話

夜の飲み屋街をあてもなく歩いていた。涼しい風が首の後ろにふれた。街灯の明かりの下には小虫が群がっている。それを後目にひたすら歩く。

気分が最悪だ。これは一昨日私が物理の教授に笑い者にされたからだとか、その前日に母親から彼女もいないのかと小言を言われたからではなかった。明確な理由などないのだ。それなのに厭になっている自分がいるのに気が付き、また厭になる。

前方に女が歩いている。面倒だ。

夜には何とは無しに足音を消したくなる。少しでも空気と一体化したいからと言うか、いや、これもまた明確な理由などないのだが、言い訳をするならそういうことになる。それで、不審者扱いをされ(不審なのはそうかもしれないが)、厄介な事になってはこの気分の行き先はとうとう無くなるだろう。

ふと、前の女に見覚えがあるということを発見し、また厭になった。こんな場所をこんな時間に女ひとりで歩くなんて、なんて不用心なのだろうと思う。さらに酔っているのか脚が浮わついている。

ここでさらに、その女の前方に同じ大学の連中が愉しげに、幅をとって歩いている。面倒だ。気付かれたくない。そんなことを考えていると、突然に肩を叩かれた。私の友人(向こうはそうは思っていないかも知れない)が整っていない顔をさらに少しばかり崩して笑っている。その後ろでは頬の痩せた男と肥った女がこちらを見ている。漫画同好会のメンバーの一部である。軽く会話を交わすと、飲み終えたということだったので、これは好便と下宿先の近い友人と途中まで一緒に帰った。因みに私も友人も大学の一回生で、成人していない。ポイ捨てされているペットボトルや煙草の吸い殻のある川沿いを歩いていると、ホントに奇遇だなとか何とか同じような事を繰り返し言うので無視していると、友人は黙りきってしまった。そこで私が

「どうして俺の隣がこんなくだらない男なんだ。美しくなくとも淑やかな女性と歩きたいものだ」

と不満を口にすると、

「へっへっへ、夏の夜に源氏蛍もかくやと光耀く、私のような男と一緒に居るなんて、清少納言が聞けばさぞ羨むでしょうなぁ」

などと調子づく友人を

「爪の火では足下を見ようと思っても暗かろう。可哀想の奴め」

とたしなめてやった。しかしこいつはこれで黙るような男ではない。不毛な言い合いはこの阿呆の下宿先に至り、流局となった。

家に帰って多少なりとも回復した気分で寝入った。

土曜の朝はいつも遅い。襲いくる眠気に何度も敗北を喫する。九時を少し過ぎたスマホの時計を確認して、やっとのそりのそりと布団を出る。メッセージアプリの通知がきた。高校のときに知り合い、受験で疎遠になっていた女友達からだ。真面目で、好感の持てる人間で、こぎれい顔をしていたっけな。大学ではどうしてるかな、とうっすらと思い出した。彼女らしい長文で、それでもすっきりとした文だった。スマホの画面が暗くなる。あわてて画面端をタップして、ゆっくりとその文を読み終えた。

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