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第70話 王城地下の一室

 朝のなんだかんだで激怒しているイーリスはさておいて、僕とヘルさん、それにセラくんは王城に訪れていた。


 といっても、煌びやかな客間とは程遠い、地下牢獄のさらに地下にある薄暗い石造りの部屋だ。僕がまだ信用されていないということなんだろう、暴れ出した場合に要人が被害に会ってしまっては困るから、なるべく隔離しておきたいわけだ。


 窓も何もない部屋には丸テーブルにいくつかのすわり心地のよさそうな椅子が並んでいる。それは僕らに宛がわれたものではなく、後から来るお偉方のものらしい。


 その丸テーブルからすこし放して、見せ物のように横に一列並んだ質素な椅子がふたつ。入り口側にヘルさん、奥に僕が座っている。


 最重要機密だとかなんだとかで、セラくんはこの地下の部屋に入ることはできなかった。それに、彼は彼で何か別の用事があるらしい。


 いや、セラくんが暗殺者に追われていたという背景を考えるなら妥当なところか。ヴァロール家として何か報告すべきことがあるんだろう。


 でも、こういう話し合いの場ではセラくんが頼もしいからそばにいてほしかったというのが正直なところだった。っていうかお城に入るまではそういうもんだと思って安心しきってたのに別々になっちゃうもんだから内心焦りまくりだよ。


 まだ部屋には僕とヘルさんしかいない。


 一体どんな人が僕を判断するのだろうかと、今から緊張が高まっていく。


 ヘルさんと雑談でもして心をやわらげたいところだけど、彼女も彼女で普段の柔和な雰囲気が消えうせている。とてもへらへら会話できる部屋ではないようだ。


「やぁヘルちゃん。大体ひと月ぶりだね!」


 そこへ肩透かしを食らわせるような能天気な男性の声。


 まるで自室にでも入るような気軽さでドアを開けて入ってきたのは、長身に金の髪、青い目のハンサムな男だった。顔だけを見ればまさしく童話の王子様というような感じだけど、服装は白シャツに黒ネクタイの上から茶のベスト、黒のジャケット、白手袋と、なんというか礼服のような印象を受ける。


「あなたがテオくんだね。私はサイレン、この部屋に限っての最高権力さ」


 あまりにも気さくに手を差し伸べる。戸惑いながらも一度椅子から立ち、その手を取った。彼はニコニコしながらぶんぶんと握った手を振る。よろけそうになったところでぱっと手を離し、円卓のもっとも離れたところ……真正面に僕らという位置に座った。


「君たちもかけたまえ、立ち話も疲れるだろう?」


「はぁ……どうも」


 こういうめっちゃ偉い人との応対についてどうすればいいかまったく分からない。とりあえず言われたように座る。何かマナー違反があったらその時はその時ということにしよう。


「さて、これからみんなを呼んで会議するわけだけど、その前に秘密の話がしたい」


 とたんに部屋の空気が冷えた感じがした。宇宙に投げ出されたような、暗闇の中でたった一人のような心臓を直接冷やすつめたさ。


 サイレンと名乗った彼は相変わらず笑顔だけど、その目は笑っていない。秘密の話はつまり、バラせばただではすまないという意味なんだな。


「分かりました、お願いします」


 背筋をぴんと伸ばして、心の中で気合を入れなおす。ここからは慎重にいかなければ、ヘルさんやセラくん、もしかしたらほかのみんなにまで何かしらの危害が及ぶかもしれない。


「まず、私個人としては君……ひいては君たちを危険視しているということはない。つまりこの件においては味方の立場だということだ」


「……はい」


 こくりと頷く。会議の最高権力者がはっきりと味方だと言ってくれるのはありがたいけど、わざわざ話すということはそれだけではないということだ。


「しかしながら、会議に参加する7人のうち4人が君を危険視している。私の権限があるから君の放免は確定しているけど、その4人がただで君を放っておくわけがない」


 僕を危険だとみなす派のほうが多いのか……権力差でどうにかなるようだけど、それはあくまで表向きの話なんだろう。つまりは、こっそり何かしらの手段で排除しに来るということか。


「もちろん表向きは君に危害を加えることはないということになるから、何がしかの襲撃があれば抵抗してしまってかまわない。殺人も認めよう」


「殺しなんてしませんよ」


 さすがに物騒な言葉が出てきては黙っていられない。それにそんなことをしたらそれこそ危険人物じゃないか。


「もちろん私も君を無理やり認めさせる手前、人殺しをしてほしくない。しかしこれは、裏を返せば人を殺すことも致し方ないほどの苛烈な襲撃が君を襲うだろうという話だ。まったく、ただでさえ国内に問題が多いのによくやる……」


 やれやれと呆れたように肩をすくめて首を振る。その姿にどこか苦労人のような疲れが垣間見えたような気がした。


「私の言いたいことはだね、自分で立ち向かうような勇気もない豚どもが偉そうに罵詈雑言を吐いてくるから、適当に聞き流して欲しいということだ。何せ、君の解放は彼らがどうあがいても覆らないのだからね」


「……わかりました」


 いきなりとんでもないこと言い出したなこの人!


 確かにこれは会議が始まる前の秘密にしておく必要があるだろう。こんなに口汚く罵っているのを聞かれたら会議どころじゃなくなってしまう。


「さあ、はじめるよ。頑張ってくれたまえ」


 ふっと雰囲気をゆるめたサイレンの言葉とともに、部屋はゆっくりと暗転していく。


 暗闇の中、部屋に置かれていた発光水晶がかすかに光を帯び、円卓をいつのまにか囲む7人の影を浮かび上がらせた。


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