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第7話 回収したもの

「私たちはカルメヤ村の生き残りなんです」


 遺骨を回収し終わって、アルマさんが話し始めた。


 ぼろぼろになったテーブルを、何かを思い出すようになでてから、今にも壊れそうな椅子に座った。つられて僕も、向かいの椅子に座る。屋根と壁が壊されてたからか、埃もカビもあまり無い。


「父は逃げ遅れました。いえ、時間を稼ごうとしていたのかも……今となってはわかりませんが」


「アルマさんを、かばったと……?」


「そう……ですね。父は優秀な狩人でしたから、自分ひとりなら逃げることも出来たでしょう。ですがそれをせず、私の背を押して逃げろと」


 何度も擦られて赤くなった目元には、一滴の涙も見えない。ただ懐かしむような音色が声に混ざっていた。


「あのゴーレムは一体どこから?」


「わかりません、何もかも突然でした。私たちが気付いたときはもう敵対的で、誰も太刀打ちできずに……」


 ふぅ、とため息をついてアルマさんは半分空の見える天井を見上げた。


「家の中も外も関係なく、誰かが囮になってその隙に誰かが逃げるしかないありさまでしたね」


「お父さんの仇をとるのが目的だった……のかな」

 

 気になっていた、どうして人に頼るでなく、自分で倒すことにこだわったのか。どうしてあんなにかたくなに僕の提案を拒否して、自分が倒すための矢を欲しがったのか。


 聞くと、アルマさんは僕に視線を戻し、首を横に振った。


「いいえ、ただ取り戻したかったんです……思い出とか、生まれた家を……でもそのために誰かを囮にしたり、そうして命を危険に晒すようなことはしたくなかったんです」


 だから、あんなに強いなら別にトドメはゆずってくれなくてもよかったんですよ、とアルマさんは笑った。


 余計な気遣いだったことを知って、なんだかちょっと恥ずかしくなる。僕はごまかすように頬をかいた。


「ここが、アルマさんの生まれた家だと」


「はい、あなたのおかげで取り返せました、ありがとうございます」


「いやいやそん……?」


「……」


 アルマさんは目を閉じて、何かを懐かしむようにリラックスしていた。


 僕はそっと家の中を見回した。壁にはいろいろな魔物の足拓や角、爪を紐に通したものなどが飾られている。きっと立派な狩人だったんだろう。このひとつひとつに、何かの思い出があるのかもしれない。例えばあの小さな角は、アルマさんが初めて狩った獲物とかかな。


「ねぇアルマさん、あの飾られてる小さな角はどんな思い出があるの?」


「あれですか、あれは……ふふっ、父が『大物を取ってくる』って出かけて、その日に取れたのが角うさぎ一匹だったことがあったんです。私が面白がってトロフィーにしたんですよ」


「へえ、それじゃああっちの大きいやつは」


「あれは私がはじめて狩りに出かけたときに仕留めて――」


 仕留めた獲物の話は思ったより盛り上がった。わからないもの、思い出せないものもいくつかあったけど、どれも他愛なくて大切な思い出がこもってるって伝わってくる。僕もなんだかうれしくなった。



 ひとしきり話をしたあと、遺骨を弔うのと、村長へ報告しに村へ戻ろうということになった。


 話し込んだせいでもうだいぶ日が高い。日差しから逃げ場を求めて建物の影を見やると、見覚えのある箱を見つけた。


「えっ、あ、これ……!」


「どうしました?」


 真ん中に鍵のついた、いかにも宝箱というような箱の前にしゃがみこむ、見間違いじゃない。ゲームで倉庫NPCの横にあった箱だ!


「アルマさん、この箱の横にいた人知りませんか!?」


 ばっと振り返って聞くけど、アルマさんはよくわからないといった風に顔をしかめた。


「箱の横にいた人って……その箱はずっと昔からあって、誰も開けられないし運べないということで放置されていたものですよ。たまに持ち上げられるか挑戦したりする人はいましたけど……横にいたと言われて思いつく人はいませんね」


 倉庫NPCがいれば、インベントリから取り出せなくなった装備の代わりを引き出して使えたかと思ったのに。僕はがっかりしながらも箱に触れた。


「お呼びですかぁ~? ひさしぶりですねぇ~~~」


 やけに甘ったるい声が聞こえてきた。同時に魔力の風が湧き起こって、ぱぁっと光ったかと思うと見覚えのある女の子が現れた。


「じゃじゃ~ん! あなたの持ち物大切に、安全確実いつまでもお預かりするお預かりガールのそーこちゃんで~す」


 やけに媚びた声としゃべり方、桃紫色の髪を短いツインテールにして白いヘッドドレスを乗せ、黒のフレアスカートワンピースに白いエプロン……メイドさんみたいな格好をしている。まさしく僕が何度もお世話になった倉庫NPCだった。


 ただし、体は地面より少し浮いていて半透明で、ぼんやりと光を纏っている。まるで幽霊とか精霊みたいな感じだ。


「そーこちゃんってNPC?」


「……? なんの話ですかぁ~、わたしはかわいいかわいい倉庫番のそーこちゃんですよぉ~」


 一応聞いてみたけど、やっぱり誰に聞いてもNPCっていう概念はこの世界にないみたいだ。みんな設定されたキャラとしてではなく、そこに生きる人間として存在している……んだと思う。


「そーこちゃんは人間なの?」


 そーこちゃんはにまーっと笑って、すいーっと浮いたまま僕の背後に回りこんで耳元でささやいた。


「人間じゃないですよぉ~。私は倉庫番で、それ以外の何者でもありません。ふふっ」


 吐息が耳をくすぐって体がびくっと跳ねた。アルマさんの目つきがちょっと鋭くなった気がした。


「それで、倉庫番ならなんだというんですか」


 なんだかアルマさんの声が妙に硬い。


 さっさと会話を切り上げたそうにしているようにも感じた。


「んふふ~、そりゃあ倉庫番ですからぁ~あなたの何でも出し入れして欲しいなぁ~って言いたいところなんですけど~」


 ぱっと僕から離れて、ニコニコしながら箱の後ろに戻る。


「この箱、開かなくなっちゃったんですよねぇ~」


「え、えぇ~……なんで……」


「一年前にぃ、でっかいゴーレムが来て壊しちゃったんですよぉ~困っちゃいましたね~」


「取り出したいものがあるんだけど、なんとか開けられないかな」


 そーこちゃんはにんまりと笑みを浮かべた。この子ってずっと笑顔なんだけど、その笑い方が表情豊かなんだなぁ。


「それでしたらぁ、ここから近い大きな町……そうですねぇ、港町ヘリオアンか城塞都市(じょうさいとし)ワノキラあたりだと、そーこちゃん無事ですよぉ」


 ヘリオアンは海路の中心となっている港町、ワノキラは廃城に強力な魔物が沸くようになったために築かれた防衛拠点だけど、各地へのアクセスもよく守りも堅いために行商の中継点としても人気がある。ヘリオアンはカルメヤ村から南に下って西、ワノキラは南に下って東にある。ワノキラのほうがちょっと遠いか。


「ヘリオアンかワノキラね、わかった。出したいものがあるから取りに行くね」


「……うふふっ、お待ちしてますよぉ」


「あ、あとひとついいかな?」


「なんですかぁ?」


「この村に石化鋼鉄のゴーレムを呼び寄せたのは君?」


「違いますよぉ、疑われるなんて心外ですぅ」


 くるりんとまるで水中のイルカのように一回転する。それからすくい上げるように僕の腕にからみついた。半透明な体は、なんというか、すごく柔らかいゴムに包まれたお湯のような感触だ。あったかくて柔らかい……。


「ごめんごめん、考えてみれば君も箱を壊されてるから被害者なんだね」


「そーなんですぅ。だからぁ、あなたがあのゴーレム倒してくれて助かりましたぁ」


「……今のところ役立たずみたいですし、しゃべり方もなんだか腹が立ちますね。もう村へ帰りませんか」


 放置されてて拗ねたのか、アルマさんが棘だらけの声で言う。この人こんなにとんがった性格だったっけ……?


「えーっ!? ひっどぉい、私はアルマちゃんのこと大好きなのにぃ」


「初対面なのにからかわないでください。もういいです、私は先に戻ります」


 アルマさんは会話を切り上げると村のほうへ歩いていってしまった。


「あーあ、いっちゃいましたねぇ……」


 僕の腕にしがみつきながら彼女を見送ったそーこちゃんは、少しだけさびしそうに笑った気がした。


「僕も行かなきゃ、それじゃあまたヘリオアンかワノキラで!」


「はぁ~い、待ってますからぁ……すぐ来てくださいねぇ……?」


 ふわりと僕の腕から離れて、箱の鍵穴にしゅるんと入っていった。そーこちゃん、登場の仕方と退場の仕方違ったなぁ……。


 そんなことを考えながら、僕はアルマさんの後を追った。


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