第61話 パンツ無くなり事件 その2
「犯人は君だ、ツバキ」
僕はため息まじりに人差し指をツバキに突きつける。
「っ!? な、何を根拠に……」
宣告を受けてツバキはあからさまな動揺を見せた。残りの3人は「まあ、そうだよね……」くらいの納得した表情になっている。ただ、これから始まるであろうアルマさんのお怒りタイムを予想してか、セラくんは少々気まずそうに顔を背けているし、ヘルさんも困り顔だ。
「とりあえず君が見落としてる大前提に、ヘルさんとセラくんは実はこの犯行が不可能だってのがあるね」
僕がそう言うと、ツバキは目を丸くした。
「へ? な、何で……」
気づいていないようだ。まずはそこから説明しよう。
「第一に、ヘルさんとセラくんはテーブルに積み上げられた魔道具が呪いを解く道具だと聞いていたけど、アルマさんのポーチの中に入っていたパ……女性用下着もそうだとは知らなかった。なぜなら言ってないから」
僕らが買い物から帰ってきた時、アルマさんはテーブルに積み上げたものを指して解呪に必要なものだと言ったが、ポーチの中身については言及していない。
加えて、食事中もそんな話はしなかった。となれば、ヘルさんとセラくんの両名はパンツが解呪用とは知ることができず、したがって盗むという発想にたどり着けない。
「アルマさんには犯行が可能なタイミングも動機もない。それで残るは俺とツバキになるんだけど」
一応この段階では僕も容疑者だ、しかし次の理由が僕を守る。
「俺が犯行可能な時間は一瞬だけ、それでは隠し場所も限られる……取って部屋から出て行くのに隠せる場所なんて服のポケットくらいしかないけど、無くなったと分かって最初に探した場所でもある」
下着が無くなっていたら、真っ先に疑われるのは男性陣……というかセラくんはそんなことしないという確信があるので、僕ということになるが……なので、潔白を証明するために真っ先に調べさせた場所だ。もちろん、その後下着ドロではないだろうということから女性陣の懐も調べられている。
「ツバキ、君はまず女子部屋でとある『下準備』をして男子部屋に行った。それからセラくんとの会話中に水を沢山飲み、水差しを残りわずかにする。セラくんが率先して汲みに行ってくれる性格を利用した。これで無人の時間にポーチから下着を盗んだ。それからトイレに行って『下準備』をした場所に下着を隠した。もしかしたら見つかるかもしれなかったけど、賭けに出たわけだ。そしてアルマさんはその『目』をもってしても見つけることができなかった」
隠し場所については予想はついているものの、少し口に出すのは躊躇われる。アルマさんの『目』をごまかし、かつ物理的な捜索も回避できる場所……それは。
「は、ははーん? なかなかの推理でござるが、拙者からもトイレからも、ましてや女子部屋からも例のぱんつは出てきてないでござるよ? 隠し場所について自信なさげでござるが、もしかして検討つかぬままなのではござらんか!? これでは拙者が犯人とは言い切れぬでござるなぁ!!」
僕が言葉を濁すのを、自信のなさと受け取ってしまったのか、ツバキが急にいきいきと反論し始めた。
あああぁ……そうじゃない、そうじゃないんだよ……君が辱めを受けるのをなんとか防ごうと思って言葉が尻すぼみになってしまったんだよ……犯人だと自白してくれれば手荒な真似をしなかったのに……アルマさんが。
「テオさん、もういいです。お疲れ様でした」
無慈悲な声が部屋に重苦しく響く。修羅がゆらりと椅子から立ち上がった。
「なっ、ななななんでござるか!?」
その恐ろしい形相に、ツバキが椅子を蹴り倒して立ち上がる。
「いいスカートですね……ツバキさん。何らかの強い魔法効果が付与されていますね?」
アルマさんはじっとツバキの黒いロングスカートを見つめる。
「と、とくちゅうひんでごじゃるひょ……ハハ」
じりじりと壁際まで追い詰められ、もはや恐怖で舌も回らない。
「あなたがアレを隠した場所は……ここです。てぇい!」
「きゃあああああああああっ!?」
いきなりアルマさんがツバキのスカートの裾を引っつかみ、ぐいっと引っ張りあげた。
ツバキのすべすべなふともも、それから白い下着、ちょこんとしたおへそまでがあらわになり、たまらず悲鳴が上がった。
そこまで見てしまったが、できる限り早く顔を背ける。大人しく自供していればこんな強制執行はなかったんだぞ……ツバキ……。
「やっぱり履いてましたね! このっ、はやく脱いでください!」
「やぁーっ! 待って待って! ごめんなさい、出来心なの!」
どたどたと暴れる音。隣室から苦情が来ないか心配だ。
ツバキは食事を終えた後、女子部屋に戻って自分の下着を脱ぎ、男子部屋で例のパンツを盗み出し、トイレで履いた。ツバキの履いているスカートは魔力の込められた特別製で、アルマさんの『目』はそちらの魔力も見てしまい、奥にある解呪の魔力を見逃したのである。
ツバキも確証は無かったはずだけど、魔力のあるものを単なる布で隠すよりは、同じくエンチャントされた衣類で隠すほうがまだ可能性があるとみたんだろう。そしてその目論見は成功したわけだ。
「そんなことはどうでもいいんです! さっさと脱いで渡せば終わりです!」
「そ、そんなこと言われても……ふぎゅっ!」
ドタン、と大きな音がひとつ。それから静かになって……恐る恐る振り返る。
ツバキが顔を床にぶつけた音だったらしい。床に顔をうずめたまま、尻を突き上げるようにして固まっている。スカートはめくれていたのをヘルさんが咄嗟に直してくれたようだ。
そしてアルマさんは……脱がしたてのパンツを片手にやり遂げた顔でこちらを見ている。犬が褒められたがっているときの表情とまったく同じだ。
「さあ、問題も解決しましたし呪いを解いてしまいましょう」
「やぁぁぁっ! アルマちゃんまってぇっ! 脱ぎたてはっ、脱ぎたては許してください! せめて洗濯してからぁぁぁっ!」
床に伏していたツバキがばっと起き上がり、アルマさんの手にあるパンツを奪い取ろうとする。
「なっ、まだ懲りませんか! 窃盗の上に強奪だなんて罪を重ねる気ですか!?」
再び始まるどたばた。あまりうるさくしては他の宿泊客に迷惑だろうと止めに入ることにした。それがいけなかった。
「あっ」
「えっ?」
「おわっ!?」
抵抗しているうち、アルマさんが躓いてしまった。僕が二人の間に入ろうとしたところでよろけてしまったので、僕も急に無くなった抵抗にそのまま倒れこんでしまう。そしてツバキも押しのけようとする僕に抵抗していたところ、それが急に消えてしまったせいで全員同じ方向に倒れこむことになった。
ひときわ派手な音。いかに高い身体能力といえど、研ぎ澄ましていないときは揃ってこんなものか。
さて、倒れた順番の話をしよう。まずアルマさんが躓いて仰向けに倒れる。急に抵抗を失った僕がうつ伏せに、そしてツバキも同じように倒れた。
結果、引き起こされた事態。アルマさんの胸に僕が顔を埋め、ツバキがその上から胸を押し付ける……なんというかおっぱいサンドみたいな状況だ。
「むぐーっ!」
「ひゃあっ! テオさっ、すみませ……んっ!」
さすがにこれはまずいと感じて抜け出そうともがくと、アルマさんが妙に色っぽい声を上げてしまって思わず硬直する。
「いたた……え、あ、きゃああっ!?」
ツバキが悲鳴を上げて飛びのいたので、ようやく僕は顔を上げることができた。文句のひとつでも言ってやろうとツバキをにらみつけ。
「……えっ」
見てしまう。飛びのいた時にスカートの裾を自分で踏んでしまって尻餅をついたツバキを。さらに言えば、その勢いで大きく足を開き、スカートがめくれてしまったツバキを。付け加えるなら、ツバキは今パンツをはいていない。
「あ、あ、~~~~~~~っ!!」
声にならない悲鳴というのだろうか、顔を真っ赤にしたツバキがものすごい勢いで部屋を出て行った。
「すごい……曲芸みたいな出来事だったわね」
「ヘルさん……今だけは茶化さないでください……」
いつの間にか布団を被って寝ているセラくんよ……いつかその目逸らしスキルを教えてくれよな……。
「これで呪いの解除ができますね。さぁ、はじめましょうか」
体を起こしたアルマさんの手には、奪われなかったパンツがある。今や遅しと始めたいような勢いだ。
「あー、えっとアルマさん」
「何でしょうか?」
きょとんとした顔で見つめられる。呪いを解こうとしないのが心底不思議というように。
「ツバキの気持ちを尊重して……一回洗濯してからにしよ?」
とりあえず今日の解呪は中止となり、パンツは洗濯された。
翌日、無防備にも天日干ししているところを今度は本物の下着泥棒に盗まれてしまい、呆然とするアルマさんと、前科から疑われて裸に剥かれるツバキが残されて、僕の呪いは解呪できずに終わったのだった。




