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第60話 パンツ無くなり事件 その1

「……」


 全員が一部屋、椅子とベッドに座り、輪を作る。沈黙はもういつからかわからないほど長く、ただランプの明かりがゆらゆらと揺れていた。


 ベッドに座っているのは僕とセラくん、椅子にはアルマさんとツバキ、ヘルさんが座っている。部屋に椅子は二脚しかなかったけど、わざわざ女子部屋から持ってきたものだ。


 アルマさんは恐ろしいほどの真顔で、残りの面々はその威圧感に緊張した面持ちだ。セラくんやヘルさんすらたじろいでいるように見える。


「それでは」


 アルマさんが口を開くと、そこからはヘルさんの氷結魔法もかくやというほどの冷たい声が出てきた。


「みなさんは何も知らず、この中の一名が白を切っている。ということでよろしいですね?」


 普段から目つきの悪い三白眼だけど、今はそんなことが気にならないくらい声が怖い。真に怒った人間の出す声というものがこれなんだろうな。


 彼女がここまで静かに怒り狂っているのには理由がある。


 僕らが食事を取り、全員が……正確には僕とアルマさんがこの部屋に戻ってさあ呪いを解こうとなった時、肝心の魔道具……よりにもよってあのパンツ型の解呪アイテムが忽然と消えていたことに起因する。


 部屋中を探し、果ては女子部屋、廊下、トイレにいたるまでを探したものの、ついに発見することはできなかった。


 宿屋の主人に「白い女性用下着の落し物はありませんでしたか?」と聞いても無かった。これ聞いたの僕なんだけど、なんでこんなことさせられたんだろう。


 アルマさんのポーチからパンツだけが消えており、金目のものには手をつけていない。下着ドロにしてもここは男部屋なので宿屋内の人間の犯行ではないだろうし、外部からだとしても女性陣のほかの下着に被害なしときている。成立しない。


 そこでアルマさんはある疑いを持つ。それは下着や金目のものが犯人の目的ではないこと。


 盗まれたパンツが持つ効果を考えるなら……僕の呪いが解除されることを阻止したい人間の仕業だということ。


 そして、僕にかけられた呪いの『強度』を知る人間だということだ。


 パンツ以外の魔道具については手付かずのままだけど、僕の受けた呪いの強さを知らない人間なら解呪に必要なパワーの総量を知らないわけで、そうなるとこの積み上がった魔道具を破壊しておきたいはずだ。


 逆に、これが僕の呪いを解くギリギリの量だと知っているならば、ひとつを盗むだけで済む。


 ひとつを盗むだけで解呪がうまくいかなくなる可能性があることを知っているのは、この場にいる5人に他ならない。


 部屋を出てからご飯を食べ終えて部屋に戻るまで、解呪についての会話もしていないので盗み聞きの線も消える。


 アルマさんは何においても呪いを解こうとしている人物なので、この場合は残りの僕ら4人が容疑者となる。


 さて、どうして犯人を断定できずにいるかという話になるが、なんとも間の悪いことに、全員がばらばらにこの部屋に戻ってしまったからだ。


「あの、いいかな?」


 セラくんがおずおずと手を上げる。いつもの花が咲くような朗らかさはなく、陽の光を忘れたようなしおれ具合だった。


「はい、どうぞ」


 背後に黒い怒りの炎が見えるような気さえするアルマさんが、態度だけは冷静にしているのが不幸中の幸いなんだろうな。彼女もきっと平和的解決を望んでいる。


「あれだけ探して見つからなかったわけだし、証言を整理してみるのはどうかな」


「なるほど、それぞれの言い分から誰が犯人かを探るわけですね」


 アルマさんは頷き、しかし決して雰囲気を緩めない。


 言いだしっぺのセラくんがまず話し始めた。


「じゃあ僕からいくよ、一番最初に食事を終えて部屋に戻ったのはみんな知ってるよね。しばらく一人でくつろいでいて、ツバキさんが戻ってきて少し話した。話の内容は……ツバキさんが合流する前の、三人旅での出来事とかかな。途中で部屋の水差しが残り少なかったことに気づいて、宿屋の主人に水をもらいに一階に降りて汲んで戻ってきた。それから一度ツバキさんが席を外して、すぐ戻ってきた。後はヘルヴェリカさん、テオ、アルマさんが戻ってきて今に至るって感じかな」


「なるほど、誰にも見られていない時間が二回あったと」


「うん、その間の無実を証明する人はいない。加えて証言するなら、僕がいる間は誰もアルマさんのポーチに近寄る素振りは見せなかったよ」


 僕らの輪の外にあるテーブルをちらりと見る。解呪の道具が積み上がったテーブルに、山から外れるようにしてアルマさんのポーチがある。アルマさんがポーチを空けて盗難に気づいた後、テーブルの上だけはそのままにしている。


 下手にいじって崩れた様子はなく、犯人は発見を遅らせるために、山を崩すことなく盗めるポーチからパンツだけを盗んだのだろうか。


 次に証言したツバキは誰よりも緊張した面持ちだ。まあ、みんな本音の感情はあまり見せないタイプだからなあ。


「つ、次は拙者か…とはいえ、ほとんどセラ殿の証言通りでござるな。一度は女子部屋に戻ったでござるが、一人でいるのも退屈でござるから、セラ殿に話し相手になってもらおうとして男子部屋に移動したでござる。話している間に水差しが空になったから、セラ殿が下に降りたでござるな。その間はアリバイ無しでござる。その後トイレに行って、また戻って、後は同じく3人が戻ってきたでござる」


「ツバキさんにも誰にも見られていない時間が一度だけあるんですね、わかりました」


 促すまでもなく、次は自分とばかりにヘルさんが口を開く。


「そうね、私の場合食後は完璧に無実を証明できるけれど、食事中一度席を立ったでしょう? あの時に二階の女子部屋へ入って特製の調味料を取ってきたの。そのタイミングであれば犯行は可能かもしれないわ」


「あぁ、だから食事中にサラダが暴れだしたんですね」


「ヘルヴェリカさんにも空白があるんですか……一応テオさんの証言を聞いてもかまいませんか?」


 アルマさんは僕に対してだけはまったく疑っていないような態度をとっている。一応僕にも、女物のパンツをかぶりたくないという動機があるにはあるんだけどなぁ。


「んー、最後に戻ったのが俺とアルマさんだから何も……あ、食事前に部屋から最後に出たのが俺か。ぞろぞろ出て行く中の最後尾ってだけでも、ポーチから盗んで仕舞うくらいはできるのかな?」


 先の3人とは違ってあまりにも短い空白の時間ではあるものの、身体能力の高さを加味すれば僕も十分に盗みは可能だ。


 しかし、どうやらアルマさんはすでに犯人を見定めているようだ。


「……証言するまでもなく、犯人わかっちゃってるね」


 張り詰めていた息を、ふぅと吐き出してセラくんが言った。


「やっぱり分かっちゃうわね~」


 同じように一息ついて、ヘルさんは困った風に頬に手を当てた。


「え、ヘル殿にセラ殿? どうしたでござるか?」


 ツバキだけは分からないというようにきょろきょろと二人の顔を見る。


 その様子に呆れた声になってしまいながらも、僕は答え合わせを始めた。


「ヒントいち~、犯人は必ずしも俺の解呪が目的ではない。ヒントに~、犯人はとんでもないことを見落としてるアホ」


「はぁ? この中でアホって言葉が当てはまるのはテオ殿だけじゃ……」


 ツバキの僕に対する失礼な言動はとりあえず保留しておくとして。


「犯人は君だ、ツバキ」


 僕はため息まじりに人差し指をツバキに突きつけた。

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