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第54話 決着

 テオによって内部に可燃性ガスを生成された隕石は、それを発火させ大爆発を起こした。


 激しい爆風はノベラポートを覆う氷の屋根を叩き割り、赤熱した破片を街へとふりかける。


 足場となっていた氷が崩れ、街へと落下しながらもセラフィノは焦っていた。


(隕石の破片が街に……! 爆風の余波は氷のシェルターが防いでくれたけど、あれが降り注げば大きな被害が出るんじゃないのか!? それにテオの安否は……!)


 血眼になって夜空と爆煙の中からテオを探す。自身が死なないという確信があるからこそ、迫る地面に対してセラフィノは無頓着であった。


 激突は起こらない、代わりに真っ白な……それは雪だ、柔らかな氷の結晶の集まりがクッションとなって、セラフィノの体をやさしく受け止めた。ぼふっ、と白煙が舞い上がる。


「う、こ、これは……」


 町の噴水広場に落ちてきたらしい、この冷え込んだ空気の中でも噴水は稼動し続けているが、おそらくはそれを利用してこの場に局地的な雪原を作り出したのだろう。そんな芸当が出来る人間はただ一人だ。


「あら~、テオさんはまだ降ってこないのかしら?」


 声が聞こえると同時、街に迫る隕石の破片へ向け、まばゆい光線が幾筋も伸び、撃ち抜いていく。光線の通り抜けた後には隕石など塵のひとつも残らない。誰がやったかなどすぐに分かる。


「いました、あそこです」


 煙の尾を引いて落ちてくるテオの体を、地面から急速に成長した氷の花が受け止める。薄い氷の花束は砕けながらも重なり合い、少しずつ落下の勢いを弱めて噴水広場にある雪のクッションへと導いた。


「セラどの、敵はどこに? 一刀切捨てでござるぞ」


 震える声とかちゃりと鍔を鳴らす音。溢れ出す殺気は、街に満ちた冷気よりも冷たく、心臓を凍えさせるようだった。この人がこんな声を出すなんて、とセラフィノは驚く。


「み、みんな……!」


 ヘルヴェリカ、アルマ、ツバキの3人が、酔いなど彼方に放り投げたような怒りに満ちた表情で立っていた。


 ……なぜか3人とも、白いバスローブ姿で。


「……」

「……」

「……」

「……」


 心なしか、3人の髪はしっとりと湿気をはらみ、どこか上気したような……言葉に表すならば、風呂上りとでも言うような……。


 そんなまさかと首を振って、セラフィノは3人に声をかける。


「あの」


「気のせいよ」


「いや、でもそれって」


「セラ殿、拙者らは……あー、ええと、不運にも料理をぶちまけたのをかぶってしまってな」


 何も聞くな、というふうにツバキが首を振る。


「料理、料理ですか……言い得て妙ですね、一度口の中に入ったものでも一応は料理ですから」


「アルマ殿!!」


 ツバキが慌ててアルマの口をふさぐ。口元を手で覆われても一目で分かるほどにむすっとした表情だ。


 なんとなく何が起きたかを察して、それ以上は追求することをやめる。セラフィノはこれ以上この話を続けても3人のうちの誰かか、あるいは全員に幻滅することになるだろうと予感したのだった。


「あれっ、仲間……増えたの?」


 能天気な声が上がる。4人はばっとその声の元へと振り返る。少し離れたところに、口から血をあふれさせ、白いケープを真っ赤に染めながらも、それでいてあっけらかんとした白髪の少女が立っていた。


 すでに負傷して動けないセラフィノを除いた3人が臨戦態勢を取る。


「ヘリオアンで戦った浸食王と同種の存在みたいだ。酩酊王って名乗ってた……街を覆った氷の上で戦ってたけど……テオが隕石と相打ちして……」


 目立たないように手元を雪の中へ隠す。すでにまともには戦えないほどの疲労と損傷を負っているが、それでも不意を突くためにセラフィノは隠した手にナイフを握っていた。


「ふーん……ねね、君の名前はなんていうの?」


「……セラフィノ」


「たしかぁ、セラくんって呼ばれてたね、わたしもそう呼ぼうっと。それで、採掘王は確か……テオだっけ。わたし、わたしはねぇ……ザルカンレティアだから、レティアちゃんって呼んでね!」


 あまりにも呑気に名前を聞く酩酊王に、セラフィノは嫌な予感がしてくる。彼女はすでに毒が回りきっていて、もうすぐにでも死ぬはずだ。


 なのに、まるで「これから」があるかのような振る舞い。まさかとは思うが……毒が、効いて、いない。


「それじゃあセラくん、そろそろ毒で死んじゃいそうだからわたし帰るけど、テオくんによろしく言っといてね。ばいばーい、また遊ぼ!」


「待ちなさい! 逃がすわけがぅえぶっ!」


 走り去る酩酊王を追いかけようとしたアルマが、雪の中の何かに足を取られて盛大に転ぶ。


 雪に沈んだアルマと入れ替わりに、テオがばっと上体を起こす。彼女の足をつかんで転ばせたのは彼だ。


「て、テオ!? 気がついてたの?」


「いや、不意打ちを狙ってやられたフリしてただけ……まさか撤退されるとは思わなかったけど」


 ぱっぱと雪を払いながら立ち上がる。それから自分で転ばせたアルマを助け起こした。不満顔のにらみつけるような三白眼に見えるが、彼女はこれで素の顔だということはテオには十分理解されている。


「毒も回ってたはずだし、不意打ちで一撃入れられれば倒せてたかもしれないけど……判断ミスだったね、ごめん」


 アルマを立たせた後は、セラフィノの手を取って肩を貸してやる。テオに寄りかかりながら、セラフィノはなんとか立ち上がることが出来た。


「ま、これで一応の危機は去ったんじゃないかな。今日はもう帰って……風呂に入りたい」


 テオは、『採掘王のダイヤモンドツルハシ』によって可燃性ガスが生成される可能性を知っていた。つまりは、彼は一度それで痛い目を見ているのだ。


 一度失敗したなら、その対策を立てるのが彼らの世界で当たり前のことだった。爆発を起こして被害を被ったのなら、熱や衝撃、酸欠への対策など万端なのである。


 だからこそ、爆発に一番近いところにいながらも、さほど怪我を負うことが無かった。


 しかし、それを知っているのはテオだけであり、不意打ちの仕掛けとして働くはずだと確信していた。


 テオにも、毒が思いのほか強力だったために酩酊王が早々の撤退を決断したという誤算はあったのだが。


 雪に冷えた体をぶるりと震わせ、一行は足早に宿へと戻った。もちろん、何においても熱い湯を浴びるために。


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