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第39話 セクハラ命令ふたたび


 僕が王都行きに同意すると、その衛星都市であるノベラポート行きの船が三日後に出ると伝えられた。


 宿屋の自室に戻り、ベッドに座って考え込む。セラくんはなにかの本を読んでいて楽しそうにしている。


 到着時間によってはそのまま王都へ行き、僕を呼びつけた重要人物に会うらしい。僕を危険視するヘルさんの上司と違って、その人は何も恐れていないようだ。


 想像するに、その重要人物こそがツバキを保護していたのかもしれない。


 僕とほぼ同じ境遇のはずのツバキが、ギルドに狙われていないどころかその支部長と密接な関わりがあるのは不自然だ。なんらかの働きかけがあったと考えるのが妥当。


「テオ」


 順番がおかしい。ツバキという前例があったにも関わらず僕を殺せという命令が出たのは何故だ?


 まだ何かがあるんだ。


「テオってば」


 ツバキを見逃しておいて僕を狙った理由……ツバキは実力を隠せていた?


 いや、ヘルさんと並ぶほどの評価を受けている。それなら、二人がギリギリ許容される強さということかな。


 レベルだけ見れば確かに僕のほうが高いけど、そんな精密に測定する方法があるとも思えない。


「テーオッ!」


「うおっ!?」


「きゃっ」


 セラくんが珍しく大声を出したせいで、驚いて体がびくりと跳ねる。それと同時に足元から飛沫と短い悲鳴が上がった。


 足元を見ると、お湯の張った桶の横で、手拭いを握り締めたアルマさんが胸元を濡らしていた。


「セラくん、これは一体どういう意味が」


 悪から足を洗えという意味だろうか、そんな心当たりは全くない。


「昔あった奴隷の品質を十段階評価していわく、上から死に盾、あさくち、足洗いと言って、自発的に主人の足を洗う奴隷は高級品とされたよ」


 困ったときの異文化辞書、セラくんは今回も大活躍だ。


「なるほど、ありがとう」


「山奥の木こりでも知ってるような話だけど、テオは知らないんだね、珍しいな」


「変?」


 あまり無知すぎると、違う世界から来たって話をしなくちゃいけなくなるだろうか。あまりにも突飛な話だろうし、黙っておきたいけれど。


「ううん、初めて聞くことは知らなくて当たり前だよ」


 無知を(あざけ)るような真似はしない、そういうところも育ちがいいんだろうかとふと思った。


 そんなやりとりをしている間にもアルマさんは別の綺麗な布を取り出し、僕の濡れた足を丁寧に拭いてくれた。


「……いやいや! 何やってんのアルマさん! 君は別に俺の奴隷じゃないからね!?」


 あわててベッドの端に飛びのく。その様子を見てアルマさんはしゅんとうなだれた。


「すみません、余計でしたか」


「い、いやっあの、ありがとう……」


 邪険にしすぎたかもしれない、そうじゃなくて、もっとこう対等の仲間として接したいんだけどなぁ。


 気まずい沈黙の中で、仲直りするにはどうしたらいいかを考えていると、くいくいと袖を引かれた。


「2時間くらい席を外すから、がんばって」


 そう耳打ちだけしてセラくんは部屋を出て行く。残された僕ら二人に何をさせようとしているかは薄々気づいていた。


 これから強盗でもするかのような緊張感が体をぞわぞわと這い上がってくる。また、アルマさんに命令をしなくてはならない。セラくんはそれが言いたかったようだ。


 考える。前回はスカートをめくって見せろという命令をした。しかし、あそこまでひどいものでもまだ不足らしかった。


 ならば今回は、もっとこう……悪事に染まらなければ。そう、今の僕は残酷な極悪人なんだ。


「さ、触るから……尻をこっちにつきだひぇ!」


 思いっきり噛んだ、なんなら口の中が血の味だ。緊張すると呂律が回らなくなってしまうのだろうか、とても恥ずかしい。


 アルマさんはくるりと背を向けると、お辞儀をするようにお尻を突き出した。眼前に丸みを帯びた肉が迫る。


「どうぞ……お好きなだけ」


 全くの躊躇(ちゅうちょ)も嫌悪感も見られない。当たり前のように僕の言うことに従ってしまう。何でこんな命令してしまったんだろう、そんなことを思いながらアルマさんのお尻に手を伸ばした。


「んっ……」


 やわらかくて張りのある肉が触る指を押し返す。撫で回すとスカート越しながら滑らかな曲線を辿った。


(何でこんなセクハラオヤジみたいなことしてるんだろう……)


 自分自身に対して激しい軽蔑を感じながら手を動かす。僕に出来ることは無心に彼女を辱めて罰を与えることだ。まかり間違ってこの行為で欲情や興奮などしてしまったら、僕はアルマさんどころか他の仲間にも顔向けできない。


 そう、気分は職人。ろくろを回す陶芸家のように雑念を取り払うのだ。


「ひぃあっ!?」


 撫で回す手がお尻の割れ目に入り込んでしまった。相当びっくりしたのだろう、体が跳ねて声が漏れる。その反応に思わず手を離してしまった。


 も、もう嫌だ、心臓の鼓動は高まりつつあるし、顔はもう二目と見られないほど醜くなっている自信がある。これ以上は本当にただの外道に身を落としてしまう。


「あ……すみ、ません。続けてください」


 顔を真っ赤にして目を瞑り、先ほどよりもずずいと突き出す。もはや顔すれすれに迫ったアルマさんの柔らかいお尻に、僕は脳内で羊と素数を数えお経を唱えて神に祈りを捧げながら手を伸ばした。


 セラくんは2時間で戻ってくると言ったけど、そんなに続けられるわけがない。もう終わっていいかな。


 そんな地獄のような行為に及んでいると、突然部屋のドアが開いた。


「て、テオどの~! 今日は星が綺麗でござるし、晩酌(ばんしゃく)に付き合うでござるよ~!」


 今日一日、ずっと顔を合わせていなかったツバキが酒瓶を持って入ってきた。


 そして、お尻を突き出す姿勢のアルマさんと、それに手を伸ばす僕を見る。


 3人全員が、同じくらい目をぱちくりしていたと思う。

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