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第36話 冒険者ギルドの機密

 見舞いだとか言って、ヘルさんが僕らの部屋にやって来たのは昼を過ぎたあたりだった。アルマさんがギルドで募集した回復術士を伴っている。


「元気そうで良かった。あの後仕事に追われて経過を知れなかったから、少し心配していたの」


 この世界でもお見舞いといえば果物の差し入れらしい。アルマさんの買ってきた分を消化しきれていないのに、籠に入った山盛りの果物が追加される。おかげでベッド横のテーブルはフルーツ王国だ。


「いやぁ、わざわざすみません。自前のヒールでどうにかできればよかったんですけど」


 傷の治癒自体は、自身のステータスが影響しているのかとても順調だ。一応僕はヒールが使えるので魔力の回復を待ってからそれでさっさと治してしまおうと試みたものの、不思議なことに待てども待てども魔力が回復しないために出来なかった。今も魔力切れのままだ。


「そうだ、ヘルさん。頼んでおいた箱のことなんですけど」


 回復術士にヒールをかけてもらい、傷がほぼ完治する。退出する彼らに礼を言って見送る。


 それからヘルさんに話を切り出した。


「……ごめんなさい、まだ見つかってないの。もしかしたら探し物はこの町に無いのかもしれないわ」


「ギルドにありますよね」


 僕の予想を口にすると、ヘルさんが笑顔のまま硬直した。


「なぜそう思うのかしら?」


 この質問に答えるのは難しかった。カルメヤ村にあった箱はゲームのままの位置だったから、というのが理由だからだ。ヘリオアンの箱も同様なら、僕の記憶より狭くなった広場のどこかにあるはず。


 そして広場を狭めているのは冒険者ギルドをはじめとした建物群だ。もし箱がゲームそのままの位置にあるなら、そこには建物が建っている。そう、それこそが冒険者ギルドだ。


 しかしこれをどう説明したものか。「なんとなく」ではそのまま知らんぷりされそうだ。


「あの箱は移動させることができません。もしあの箱に何かがあって、隠す必要があったなら、どこかに移動させるのではなく、その周りを囲わなくてはならないはずだ」


 思えば奇妙だ。カルメヤ村の箱は、アルマさんいわく「昔からあって誰も動かせず、開けられなかった」という。しかし、そーこちゃんは言っていた「一年前、ゴーレムが現れて開かなくなってしまった」と。


 この食い違いは一体何なのか。仮説を立てるとするなら、ゴーレムが現れる前は普通に開くことができたが、村の住民たちは開くことができなかった。


 なぜ?


 箱を開けられるのは、限られた人間……? そして、それが現れた場合。


「もしかして、誰かがこの町にある箱を開けた? それをあなた方は危険視して、だから隠そうと」


 正解を引き当てたらしかった。気丈なギルド支部長もいよいよ肩をすくめる。


「ええ、そうね。私たちの最高機密を言い当てられては隠し様がないわ」


 それから、ヘルさんは静かに話し始めた。


「百何十年か前……正確な情報は全て破棄されて失われているのだけど、それくらい昔。


 かつて港町ヘリオアンの広場には、誰にも動かせない、開けられない箱があった。


 中身こそ気になるものだったけど、動かせないし開けられないものだから放っておくしかなかった。


 けれど、ある時現れてしまったの。箱を開けられる人物が。


 彼……彼女かもわからない、とにかく不明な人物は、人々の生活を脅かした。


 箱を開けたその人は、当時誰も敵わない強大な能力を手に入れ、10年ほど世界各地を暴れ回り、そして消えた。


 生き残った人たちは、混乱と恐怖を避けるために情報を隠蔽し、そして箱を人の手の届かないところに移動させようとした。


 箱は動かすことができなかったから、下の地面を掘って地中に封印しようという話になったのだけど、箱のある下の地面は奇妙なことに掘ることができなかった。


 つまり、上にも下にも動かせなかったということね。


 仕方がないので、箱の上に建物を建てることで人々から隔離したの。そしてその建物を拠点に、旅人から情報を集め、他の箱を探した。


 王都、ワノキラ、その他いくつかの都市に箱があるのが確認され、それら全てを同じように隔離したのだけど、その頃には旅人の情報交換の場として大いに賑わいを見せてきたの。


 そこで、旅人たちを「冒険者」として登録し、情報収集のついでになんでも屋として働かせた。冒険者ギルドの真の目的を何も知らせずにね。


 つまり、箱を開けるのは冒険者ギルド最大のタブーなの。分かってもらえないかしら」


 僕に暴れるつもりがなくても、箱を開けるということはそれだけで脅威らしかった。そして、それがあるからこそ彼女らは僕を必死で箱から遠ざけようとした。今なんて最重要機密を明かしてまで。


 とはいえ、僕も引き下がるわけにはいかない。暴れるつもりなんてないことを分かってもらおう。


「ヘルさん、俺は暴れるために箱を開けたいわけじゃないんです。浸食王のような存在に対応できるようにしておきたいんです。なんとかなりませんか」


 未討伐の王たちがまだこの世界に残っているなら、今回のように運よく切り抜けられるとも思えない。それに何より、ツルハシを失ったままではアルマさんが苦しみ続けてしまう。


「そうですね……テオさんが敵意のないことを証明できれば」


「そのためには何を?」


「私と共に、王都へと来てください」


 いつもの柔らかい笑顔を引っ込めたヘルさんは、真剣そのものの表情でそう言った。

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