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第31話 見切り

 僕の強化魔法で極限まで威力を高められたアルマさんの一撃が、侵食王の甲殻を叩き割った。大爆発が起こり、その衝撃が遠く離れているはずの僕らにまで届く。


「ちょっ、ツバキ! 大丈夫か!?」


 至近距離で爆発の巻き添えをくらったツバキが、その黒煙にまぎれて姿を消している。安否は不明だけど、もし動けなくなっているなら僕がいかなきゃいけない。タンクがいなくてはパーティは機能しないんだ。


「セラくん、アルマさんをよろしく!」


「うん、まかせて」


 すぐさま海に浮かぶ氷に飛び乗り、転々と渡りながら侵食王の元へと向かった。


「う~ん、ノーベル」


 意味のわからないことを呟きながら、ツバキがへろへろに弱って氷の上に仰向けに寝転がっていた。怪我らしきものは全くない。


「ツバキ! 無事、みたいだね」


「テオ~、あたまいたい……おなかもいたい。攻撃しろって言ったのは私だけど、あの威力はあんまりだよ……」


 左手をふらふらと上げて弱々しく振る。確か、アルマさんが石化金属ゴーレムと戦ったとき、魔力砲の余波で似たような状態になっていたはず。となるとこれは魔法ダメージを受けたときの症状か。


「交代するよ、一人で岸まで戻れる?」


「うん……ごめんね、がんばって」


「大丈夫、元気出たから」


「そっか、後はお願い」


 瞬きの間にツバキの姿が消える。わざわざ瞬間移動魔法まで使って撤退したのは、ターゲットを引っ張らないためだろう。


『ぐうう……若造が、なかなかやるのう……!』


 浸食王がうめきながらも黒煙の中から腕を振るう。先ほどまでの強力な弾きではなく、鎌状の脚を開いての大きななぎ払いだ。


 もちろんその速さも尋常ではなく、万全のツバキなら余裕だろうけど僕はかなりギリギリだ。失敗すれば体が真っ二つの縄跳びを強いられる。


 アルマさんが攻撃を再開する。僕の強化魔法によって規模の拡大した二度目の大爆発に巻き込まれるが、魔法『エネルギーシールド』によって十分にバリアできている。たしかツバキはこの魔法を使えないから、余波であんなに具合悪そうにしていたんだな、誤算だった。


『まずはあの女を仕留めんとな』


 やぶれかぶれとも言えるほどの滅多打ちを尻尾から繰り出し、岸にいるアルマさんを狙う。何度撃とうとも無駄だ、セラくんの死の印はあらゆる死を跳ね除ける。


 一回目、二回目より一際激しい破壊が起きた。土埃がたちこめ、そしてそれは海風にさらわれていく。


 そこに、セラくんが倒れているのが見えた。


「バカな!」


『直接は当たらんでも、弾いたものなんぞはあたるんじゃろ?』


 浸食王は瓦礫をセラくんにぶつけることで……おそらく気絶させたのだろう。近辺を破壊した際に飛び散る破片なら致命的でない限り当たってしまう、そしてその当たり所がギリギリ死なない程度に悪ければ、気絶にまでは追い込まれてしまうのか。


 パーティ4人のうち、2人が早くも戦闘不能になるとは。どうする、このままじゃジリ貧だ。


『これであの娘は撃ってこれまい、わしの勝ちだの』


 もう誰もアルマさんをかばえない以上、彼女は攻撃することができない。そして火力が機能しなければ、浸食王を倒すことはできない。


 嘘だろ、こんなに簡単に負けてしまったのか……?


 せめて、岸にいる4人が撤退するまでの時間を稼がないと。


「どうかな、俺は採掘王を一人で倒したんだ。お前だって出来ないはずはないさ」


 僕はあえて余裕たっぷりに言い、目の前の強大な甲殻類へ飛び掛った。


 それと同時、守る者が誰もいないために撃てないはずのアルマさんの砲撃が再び着弾した。


*


 ツバキがテオと交代して岸に戻ってくると、少し休憩したいと言ってセラフィノのすぐ後ろに控えた。


「すさまじい威力でござったな、さすがはテオ殿の強化魔法」


「テオって、やっぱりあれが本職なの?」


「うむ……拙者の知る限り、最強の支援型魔術師であろうな。本人はあくまで鉱夫として振舞いたいようでござるが」


 セラフィノにはっきりと言い切るツバキは、どこか自慢げだった。


「お二人とも、もう一度奴の攻撃が来ます!」


 アルマの号令にツバキが構える。さほど間を置かずに、先とは比較にならないほどの滅多打ちが届いた。


 全てセラフィノを避けるように逸れたものの、飛び散る瓦礫の散弾も比ではない。魔法攻撃の余波を受けてしまっているツバキではとうてい防ぎ切れるものではなかった。


 セラフィノが頭に大きな石の破片をぶつけてしまい、ぐらりと倒れる。彼の死の印は、例えば気絶している体を持ち上げて盾にしたとしても有効なはずであったが、その場にいる誰もが、倫理観から実行をためらった。


(なるほど……“限界の距離”があのあたりですね)


 ツバキとセラフィノが到底アルマを守れない状況でありながら、気にすることなく次の矢を生成した。


「アルマ殿! ここはもう危険でござる、一旦退こう!」


 ツバキが両脇にセラフィノとヘルヴェリカを抱えながら足踏みをする。アルマも数メートルは付いていったが、途中で足を止めて振り返った。


「ツバキさん、セラくんとヘルヴェリカさんを連れて離れてください。まだ可能性はあります」


「何を言ってるの!? テオは私たちが逃げる時間を稼ぐために戦う! そういう人なの! 私たちが逃げないとテオが死んじゃう!」


「大丈夫、あの浸食王は最後の最後で悪手を打ちました。あの乱打で私に手出しできないことを証明してしまった」


 矢尻をまっすぐ浸食王に向け、テオが今まさに飛び掛らんとしているところに第三撃を打ち込んだ。そして、射撃すると同時に素早くワンステップを踏む。


『ほお、まだ戦う気かね。前のめりじゃの……早死にするぞ』


 浸食王はアルマのほうを向き。


 やや戸惑った様子を見せて、何もせずテオに向き直る。


「な、なんだ……? まるでターゲットが切れたみたいな」


 アルマの第三撃は反撃を誘発しなかった。それまで必ず反撃していた上、かばう役が倒れて今まさに狙い目という場面だというのに、何をするでもなく、戸惑った様子すら見せている。


 まるで、ターゲットが切れたみたいな。


 さらにアルマからの攻撃が届く。数度にわたって行われるが、そのどれもが浸食王を一瞬だけ困惑させるだけのものだった。


(あれは、まさか……タゲ切り!?)


 テオが不思議に思ってアルマを観察すると、奇妙な動きをしているのが見えた。具体的には、矢を撃ってはワンステップ下がる。なぜか対応しかねた浸食王がテオに向き直ると同時に今度は同じ距離を引き返す。そして再び同じ行動を繰り返した。


 これを見てテオは悟る。アルマは浸食王の“ターゲット範囲”を見切ったのだと。


 ターゲット範囲内にいて、エネミーキャラクターに脅威と判断された場合、離れた距離にいるならば遠距離攻撃の反撃を受けるが、狙われた状態で範囲外に出るとその脅威認定が取り消される。つまり、『ターゲットが切れた』状態になるのだ。


 では範囲外から攻撃すればいいのか? そう話は上手くいかない。今回発動することはなかったが、浸食王をふくめた王たちは、そのターゲット範囲外からのどんな攻撃も無効にする能力を持っている。一方的に撃破されることを防ぐための、製作サイドの工夫であった。


 このテクニックはゲーム内で言われる“ヒットアンドアウェイ”の究極形だ。もはやアルマは浸食王にとって、認識できない脅威の射手となっていたのである。


 ただし、これはテオが浸食王の移動を食い止めているからこそ出来ることだ。アルマ一人であったなら、浸食王は発射地点へと移動し、付近の彼女を見つけて攻撃する。テオがターゲット範囲の線を厳密に固定していたために、アルマが不可視となっているのだ。


 認識外にいるアルマが、とうとう浸食王に致命傷を負わせた。


 ぐらりと海面に飛沫を立てて倒れこむ浸食王を見届けて、テオもふと気を失い、自身が立つ氷塊の上に倒れた。

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