第30話 パーティの始まり
VVVRにおける役割分担の基本的な構成は、壁役であるタンク・回復役であるヒーラー・火力役であるダメージディーラーの三つだ。
タンクが敵の攻撃を引きつけ、ダメージディーラーがその間に攻撃する。ヒーラーはパーティが受けた傷を治す。これを基本形に追加で味方の強化を司るバッファー、敵の弱体化を司るデバッファー、壁役だけでは守り切れない場合に味方を守るサブタンクが編成される。
型によってはヒーラーがバッファーやデバッファー、極まるとタンクまでも兼任するので、「ヒーラーとディーラーがいればそれだけでPT」などとはよく言われる話だ。ヒーラー適正はそれだけでパーティの出来ることを増やす。
逆に、ヒーラーがいない場合はタンク・ダメージディーラーともに回復薬やライフスティール武器など別な回復手段を用意する必要がある。強敵相手ならばなおさらだ。
ヒーラーがおらず、また代理の回復手段もない場合。タンクにはある能力が求められる。
すなわち、回避力。
敵の攻撃をすべて引きつけ、そして回避し続ければ、タンクもダメージディーラーも傷を負うことはない。
テオたちの中では一人だけ、ツバキがその能力を有していた。元々高い素早さのステータスと、高性能の移動スキルは、回避型の極致だ。
ダメージディーラーとしては、アルマが候補に挙がる。彼女は数度の使用によって『火竜石の指輪』のコントロールを得ており、また持ち前の射手としての技術と複合させることにも成功していた。これにより、通常よりも低い消費で火の魔法を扱うことができている。
テオは、自身が前衛を務めたかった。タンクとは専任にせよ兼任にせよパーティの要であったし、自身の筋力と耐久力に寄ったパラメータはまさしくタンク向けで、皆の役に立つにはそれがいいと思っていた。タンクは最も危険に晒されるので、誰にもやらせるわけにはいかないと。
構成について説明した後、アルマを遠距離のダメージディーラー、セラフィノを彼女を守るサブタンクとして編成することまではすんなり決まった。しかし、タンクがどちらかはテオ以外の全員がツバキを推した。
今回の場合、耐久型よりも回避型のタンクが求められていることはテオも理解していたが、そうなるとテオはただあの浸食王が倒されるのを待つ『お荷物』だということに他ならない。だが、ここで意地を張っては全員が死ぬか、ヘリオアンが壊滅するだけだった。
よって、今回の編成はタンクとしてツバキ、サブタンクとしてセラフィノがダメージディーラーのアルマを守る構成になる。
アルマが弓を構え、セラフィノがその前に立つ。ツバキは氷を渡って浸食王へと突撃した。
*
「……いや、ちょっと待ったストーップ!」
僕はすでに遠くにいるツバキを呼び戻そうとする。よく考えたらさっきみたいに瓦礫や石の破片を飛ばされたら守りようがない。セラくんだって死に関わらない傷はそのまま受けてしまうんだ。
そしてそれが蓄積すれば今度はアルマさんが直接狙われてしまう。
やっぱりここは僕が前に出て攻撃を引きつけるべきだった。ツバキとセラくんの連携なくばアルマさんを守り切ることはできない。
何度か呼ぶように叫んでも、戦闘中の轟音でかき消され、ツバキには届かない。
「テオ」
焦ったように叫ぶ僕に、セラくんが優しい声で名を呼ぶ。
「僕は知ってるよ、君が僕らのためにできることをしようとしてくれていること。そして今、そのための力を失って焦っていること」
セラくんは、僕の図星を容赦なく突く。アルマさんはひたすら砲撃を繰り返しているけど、何かを言いかけて口をつぐんだようだった。
浸食王からの反撃は直撃こそしないが、弾かれた瓦礫がセラくんの頬の皮膚をえぐり、血を流させた。頬だけじゃない、耳や、首筋、腕。
「でも思い出して欲しい、僕と出会ってから、テオはあのツルハシを使っていないことを」
「……え」
思い返す。セラくんを追ってきた暗殺者、巨大イノシシ、ギルドで絡んできたガラの悪い冒険者、ギルド試験のヘルさん、ツバキを半分飲み込んだスライム。
確かにどの戦いでも、僕はツルハシを使っていなかった。ステータスに任せて殴り倒してきただけだ。
「でも今こそ必要なのに」
「僕には気付けないけど、テオならきっと分かるヒントがあったんじゃないかな。よく思い出して、本当にあのツルハシは消えてしまったの?」
そんなことを言われても、現に消失するところを見たし、今も手元にはない。
でも、それなのに浸食王は僕のことを『採掘王』と呼んだ。採掘王の力を受け継いでいるからだと。
僕が本当にそれを失っているのなら、彼は僕を『採掘王』とは呼ばないはず。
なら、もしかして……いや、今は方法が分からない。だけど、僕は取り戻せる可能性を見た。
「それに、テオは単なる鉱夫じゃないよね。ツルハシがなくても出来ることがあるはずだよ」
「それは……」
口ごもる。後ろめたくて秘密にしていたことが、見透かされていると思ったから。
「ギルドで聞いたよ、君があのチンピラに絡まれたとき、ヒールを使ったって!」
回復魔法は確かに使える。でも僕が使えるのはランク1の、気休め程度の応急処置だ。もちろん本格的なパーティでは全く役に立たない。
魔法職……ウィザードを鉱夫に特化したスキル・ステータスに割り振ったのが僕だ。効果範囲の狭い代わりにコスト効率や効果の高いバフを取り付くし、回復と探索スキルをいくつか取った型。それが僕の隠し事だった。
ウィザードのくせに攻撃魔法はほぼ無く、自己をひたすら強化して戦うファイター型ウィザード。
ソロなら正規の近接系よりはるかに強いところまで到達したけど、パーティではせいぜいバッファーとして後ろにいることしかできなかった。回復だって効果は微弱で終盤のダンジョンでは全く役に立たない。
けど、『死の印』によって決して致命傷を負わないセラくんならそれだけでも十分に回復が間に合う。
「セラくん、ちょっと失礼」
手に魔力を纏い、セラくんの体に刻まれたいくつかの傷跡に次々触れていく。触れて待つと傷は完全にふさがった。
「ふふ、テオの手ってあったかいよね」
セラくんがくすぐったそうに笑う。
「今は無理だけど、多分取り戻せると思う。それまでは……俺は魔術師だ」
今まで使ったことがないほどの魔力を手に集中すると、まるで台風のように激しい魔力の風が巻き起こった。ごうごうと渦巻き、天に昇る風に瓦礫も何もかもが巻き上げられる。アルマさんが咄嗟にスカートを抑えたけど、一瞬だけ色の違う布が見えてしまって僕は慌てて目をそらした。
なるべく見ないようにしながらスカートがめくれていないか確認しつつアルマさんに向き直り、背中に手を伸ばしてそっと触れた。
「んっ」
アルマさんが一瞬小さく震える。僕はかまわず彼女に全力で魔力を流し込んだ。
「まずは『エンチャント・ペネトレート』『エンチャント・パワー』『エンチャント・ジャイアントキリング』『エンチャント・トゥルーダメージ』『ショック』『マーダー』『オートスペル・ファイア』『オートスペル・エナジー』『オートスペル・オーブ』『オートスペル・エナジーランス』『オートスペル・オール』……それから、えーと何があったかな。そうだ、『アクセラレーション』」
魔力切れの頭痛や吐き気を感じながらも、ありったけの強化魔法をかける。ゲームなら視界が埋まるほどのバフアイコンが並ぶはずだけど、ここじゃそれも分からないか。ずらりとならんだアイコンを見るのが好きだっただけに、少しさびしい。
バチバチとアルマさんの体が光り輝き、表情すら見えにくくなった。自分の体を見て困惑しているらしいそぶりをしているのは分かるのだけど。
「こらー! 何攻撃の手を止めてるでござるかー!」
こちらを見る余裕もないほどの素早いコンビネーションをかわしながら、ツバキが叫ぶ。たくさんのバフは強くはなるけど、かけるのに時間がかかりすぎるのが難点だな。タンクがいなかったら戦闘中に使うのは難しい。
「アルマさん、それでもう一度攻撃してみて」
彼女はこくりと頷くと、先ほどと同じように弓を構えて、射った。
全く同じように射たにもかかわらず、先の強力な砲撃はさらに強化され、同時に二つずつのさまざまな追撃魔法が尾を引いて侵食王にまっすぐ飛んでいく。
そして、侵食王の甲殻に触れた瞬間、強固だったはずのそれを砕き、大爆発を起こした。




