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第25話 災いをもたらす者

 そーこちゃんと箱を探して何の手がかりもないまま、何日かが過ぎた。その間にどうやら夏に突入したらしく、日に日に気温が上がり、昼間に町をうろつく人間など皆無だ。


 一応ビーチは無いものの、入り江になっている部分に遊泳エリアが設けられていて、そこで泳ぐことが出来るらしいが、水深がとんでもない深さらしく山育ちのアルマさんには厳しいということで宿屋でぐだぐだ過ごすことになった。


 4人で卓を囲んでカードゲームなどする。セラくんが10回連続の一人勝ち決めると、同じく10回連続のビリを達成したツバキが椅子ごとひっくりかえった。


「うがー! 勝てんでござるぅーっ!」


 バラバラとカードを舞い上げて頭を抱える。ツバキは時々こういう漫画みたいなことをするんだよね。


「あはは、ツバキさんこの間はあんなに強かったのに、カードゲームはダメなんだね」


 あうー、などと呻きながらひっくり返ったままじたばたしている。


「控えおろー、拙者はかの王武器に選ばれた勇士なるぞー」


「王武器?」


 手をぐーにしてぶんぶん振り回していたツバキだが、聞き返されて動きがピタりと止まる。ギギギと油の切れた歯車みたいに首を動かして僕を見る。いや、見られると困る、僕もそれについて知っているとバレてしまうじゃないか。


「テオもツバキさんも、ひょっとして『王武器』について詳しいのかな」


 セラくんがカードゲームをしていたときより読めない表情に変わっていく。もしかしたら怒っているのかもしれない。当然か、セラくんは王武器の一つである『不死王の永遠なる焼き鏝』について思うところがあるだろうし、探していて何かしらの手がかりが欲しいって時に僕が知っていることを隠していたなんて分かったら不機嫌にもなる。


 とはいえ、莫大な能力を持ちながら各種一本しか存在しない武器だ。たかがゲームであったころからその所有者たちは嫉妬の陰口を叩かれていた。誰に話すというのもためらわれる。


「今、選ばれたと言っていましたがツバキさんもその王武器とやらを持っているのですか?」


 アルマさんが痛いところを突く、僕のツルハシまで話が飛び火しませんように。


「あー、まあ、持ってるでござるな。テオ殿の持ってるツルハシもそうでござる」


 さっそく飛び火した。むしろ説明を押し付けられたとも言う。


「テオ殿、ここはもう説明の難しいところをふんわりさせて正直に話すべきでござる。この二人は何としてでも奪おうとする悪人ではなかろう? っていうか内緒で使い続けられると思ってるでござるか?」


 ぐ、そう言われると反論できないな。しょうがない。


「わかったよ……えー、こほん。『王』と呼ばれる災害の化身が存在します。彼らは強大な力を持っていて、普通の人間では手も足も出ません。でもヘルヴェリカさんくらい強い人たちをたくさん集めて力を合わせれば倒すことが出来ます。彼らを倒したとき、その討伐者の中から一人が『王』の力の結晶である『王武器』に選ばれ、それを手にします。以降その武器に対応した『王』は出現しなくなるので、『王武器』は一種類につき一個しかありません。以上」


「すごい武器なんだね……」


 ダイスでの奪い合いを曖昧に表現しつつ説明してから、しまったと気付く。これじゃ僕が自分で自分を強い人だって言ってるみたいじゃないか。嫌味に思われないといいなぁ。


 実際にはレベル850以上が5~30人ほどで討伐される。人数のブレはそれぞれの王の強さがまちまちだからだ。確率でドロップし、落としたときだけ『王』が消滅することなどは説明から省いた。


「二人ともよく選ばれたね……運命ってことかな」


「あー、拙者は単なる運でござるが、テオ殿は違うな。自分で無理やり選ばせたってところでござろうか」


 ツバキが余計なことを言う。その思わせぶりな言葉選びにセラくんが興味を持ってしまった。


「何のことはない。倒した人間の中から一人が選ばれるなら、一人で倒してしまえば確実に自分に来るって寸法でござる。いやはや無茶をする」


 二人からおぉー、という感嘆の声が上がる。


「一人で倒したって言っても、何度も死にかけたし長い時間かけて戦ったからね。倒せたのはほとんど運が良かったからかも」


 箔がつくと思って張り切った結果だけど、散々苦労した挙句に周囲に生暖かい目でおめでとうと言われるような武器を手にして終わってしまったので僕にとってはあまりいい思い出ではない。


 いや、いいんだ。今ではお気に入りの武器だしね!


「セラくんの話に出てきた『不死王の永遠なる焼き鏝』とやらは、人を実質的な不死にする能力を有していましたか、他の物もそのような力を持っているのですか?」


 アルマさんも興味を持ってしまったのか食いついてきた。ツバキが椅子を起こして座りなおす。


「そうさな、あれはいわゆるアタリの部類で、テオ殿のは……うん、食うには困らない……」


「失礼な。石を割ると石化金属や魔力結晶が生成されるなんてすばらしい能力じゃないか」


「なるほど、だからあの時テオさんは石化銅を持っていたんですね」


 名前のダサさもさることながら、採掘以外にほぼほぼ使い道がないために唯一僻まれることが無かったのが僕の持つ『採掘王のダイヤモンドツルハシ』だ。


 金属や石に反応してとんでもない破壊力を持つ以外に戦闘に特化した能力はないので、たった一本で一大ギルドを作り上げた『不死王の永遠なる焼き鏝』と比べられると少し恥ずかしいというか敗北感があるというか。


「そうだ、セラくんが言っていた『王武器』の持ち主だけど、覚えている人物像と違うんだよね」


「それは、どういうふうに?」


 いろいろと口を割ってしまったことだし、ついでに気になっていたことを聞いておこう。


「俺の知っている『不死王の永遠なる焼き鏝』の持ち主は、なんというかこう、手下に囲まれてわがまま放題していたんだよね。町からも出ないで貢ぎ物をもらってちやほやされてさ」


 別に彼女に対してどうとも思っていないけど、首都で見かけた時などはぞろぞろと大名行列が通るのでそればかりはちょっと気持ち悪いと思ったことをよく覚えている。『死の印』の効果を思えば当然か、誰だってあやかりたいはずだ。


「確かに、僕の見た人はそういう感じじゃなかったね。一人で旅をしているみたいだったし」


 僕もツバキもこの世界に来たときに外見がいくらか変わったとはいえ、性格まで変わるとは思えない。それなら別人と考えるのが自然だけど、そうなると今度はいくつかの懸念が出てくる。


 一つ、『王武器』は奪うことができる可能性。

 二つ、『王武器』がなんらかの方法で二つ存在できる可能性。


 奪うことが出来る、というのは裏を返せば仲間内で使いまわしが出来るということでもあり、利点もあるかもしれない。二つ以上存在できる場合は……あまり考えたくないな、僕にとっての特別なアドバンテージが一気にありふれたものになってしまう。


「他に能力は無いんですか?」


「いや、僕の王武器の場合、持ってるだけで力持ちになったりするよ」


「そうですか、だから素手でもあんな威力……あの、私がちょっと持ってみてもいいでしょうか?」


 アルマさんがおずおずと申し出る。火竜石の指輪を渡されたことで、強い装備というものに興味がわいてるんだろうか。


 なるほど、ここで二人に僕が『王武器』を持っていることを明かしたのはいいことかもしれない。ちょっとした実験に付き合ってもらおう。


「いいよ、はい」


 アルマさんならば手にしたところで滅多なことはしないだろう。短い旅の期間ではあったけど、信頼できる人だと思っている。


 ゲーム的なことを言うなら、『王武器』は全てトレード不可能な帰属アイテムだ。そのためどんなことをしても奪うことは出来ない。しかし現実になってしまっているこの世界で、果たして帰属というシステムが動いているのか。


 どちらにせよ『王武器』はどういう挙動をするのか気になる。本来の所有者の下へ戻るのか、あるいはそのまま保持できるのか。


 アルマさんは差し出されたツルハシを手に取り、持ち上げる。そして瞬きの間にツルハシが“消えた”


「え?」


「ん?」


 消えた。アルマさんの手の中には何もなく、というか部屋のどこにもツルハシが見当たらない。


「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」


「どどど、どうしましょう!? 私は何をしてしまったんですか!?」


「いやいやそれより早く探して!」



 素に戻って叫んだツバキの声にはっとして、部屋中を4人でひっくり返して探したけど、日が暮れても見つかることは無かった。


「どうしよう……無い、テオさん。ごめ、ごめんなさい……」


 探しているうちにみるみるアルマさんの顔色が青くなっていき、見かねたツバキが捜索を中断して女子部屋へと連れ帰った。残った僕らも狭い部屋をすぐに探しつくし、夕暮れに染まる中で呆然とするしかなかった。


 仮説その一、『王武器』が奪われる可能性は否定されたけど、反証として『王武器』は奪われると消失するという事実を身を持って体感してしまうなんて。


 いや、そんなことよりも、アルマさんがあんなに青い顔で目に涙を浮かべていたのが気になった。


 アルマさんのせいじゃないと声をかけても、うつむいて首を振るばかりで、僕らの誰もこの唐突な消失現象を理解できていなかったために、彼女の「自分のせいではないか」という思いを払拭することが出来ない。


 ツルハシを失ったこともあるけど、ツバキに連れられていくあの震える肩に何も出来なかった僕は、今までにない大きな無力感を味わっていた。

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