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第21話 悪漢


 二日前、あの『赤髪』が連れていた弱そうな仲間を脅してやろうとした。たったそれだけで、男のギルドでの立場は大きく変わってしまった。


 男の名はボリコ。格闘に恵まれた体格と才能、加えてそれと相性のいい魔法が習得できたために、打撃戦においてはギルドで一目置かれるほどの実力者であった。たまに大型の依頼を受けては、食堂や酒場も兼ねたギルドのロビーで酒を飲み、格下に大きな顔をする日々が送れるほどに。しかし、それも二日前までの話。


 魔法を使って肉体を増強しておきながら、ただの蹴り一発……それも体格で劣る相手によるもので悶絶。さらに言えばその相手は真っ向からボリコの打撃を受け止めていた。


 あっさりと倒されてしまった上に普段の横柄な人格もあいまって、ボリコを見る目は軽蔑を多く含むものとなってしまっている。反面、あのテオと呼ばれていた男は期待の新人などと噂され始めた。


「知ってるか? あいつ、昨日登録してその日のうちにCランクだってよ」


 今日も昼からギルドのロビーで酒を食らっていると、冒険者仲間のウンガが向かいに座った。彼もBランクというそこそこの位置にいる。横暴な性格のボリコと付き合いがあるのは、彼もまた同類だからだ。今はいないが、もう一人フンギという名前の男とあわせていつもの三人組と扱われていた。


 苦労してランクを上げようと日々努力している冒険者たちが分からぬはずもない。テオと呼ばれる『赤髪』の連れは明らかにギルドに特別扱いされている。


「ちくしょう、面白くねぇな」


「それなんだがよ、あと二人連れがいたんだよな」


 昨日は依頼をこなしていたので知らなかったが、ウンガによると『赤髪』にはさらに二人の仲間がいたらしい。一人は弓手の女、もう一人は見た目の良いガキだと言う。


「時期的に考えて、テオって奴の連れが合流した形か」


「違いねぇな。んで、女はともかくガキのほうだ、なかなか身形と育ちが良さそうだったってことはだ」


 ウンガがむさくるしい面を寄せ、声を潜めて言う。悪事を考えている面構えだ。


「ははん、そのガキはどこぞの金持ちおぼっちゃんで、さしずめ護衛を請け負ったってことか」


 ボリコは察して、笑えて仕方が無いというように悪意で顔をゆがめた。『赤髪』やテオに敵わずとも、何か嫌がらせができそうだと思ったからだ。金持ちそうな子供が護衛を雇うということは、つまるところ本人が無力であるという表明だ。二日前に会ったときにそいつを連れていなかったということは、つけいる隙がありそうなのも分かる。


「問題は弓手の女か。こいつがどれだけやるかだな」


 やるかやらないかの相談などするまでもなく、テオに嫌がらせをすることが決まっていた。すでにボリコは顔を見られないように変装していくらか危害を加えてやろうと考えていた。


「しっ、おい……来たぜ」


 ギルドにテオたちが入ってきた。今日は4人全員そろっているようだ。


 見ていると、Cランクの証明である銀プレートを受け取っていた。その白い輝きはボリコをますます苛立たせ、暴力への欲求へと駆り立てた。


 また、彼らが入ってきてからの冒険者たちのざわめきも耳障りに感じていた。期待や羨望に満ちた声、自分には向けられないもの。当然である。横暴な行いをされて誉めそやす人間などいないのだから。


 テオたちはギルドの受付でいくらか話した後、依頼を受けることもなく出て行った。彼らがドアの向こうに消えた瞬間、ギルドのざわめきが一層大きくなる。


「あいつら、昨日2メートルもあるスライムを倒したんだってよ」


「さすがに盛りすぎじゃねぇか、どうせ『赤髪』が一人でやったんだろ」


「それがよ、あいつらと同じ宿に泊まってる奴に聞いたんだが、あのテオって男は『赤髪』をスライムの粘液漬けにしてからぶっ倒して、宿屋に持ち帰って楽しんだって話だぜ」


 ボリコにとって聞き捨てならないことが聞こえてくる。なまじ実力のあった彼は『赤髪』を負かし、自分の言いなりにすることを時折妄想していた。愛情ある想像ではなく、ただモノとして欲のはけ口にしたいという欲求。


 しかし、それが先を越されていたという噂話は、ボリコのさらなる怒りに繋がった。


「うげぇ、そんなことする顔にゃあ見えねぇのにな」


「マジだよマジ、一晩中聞いたこともないような『赤髪』の声が聞こえたって言ってたぜ」


「はー、あの綺麗なキツい顔に惚れてファンになってたのによ、残念だぜ」


 しかも一晩中ときた。実際には違うのだが、誤解はどんどん積み重なっていく。ボリコは席を立ち、その噂話をしている二人組みの冒険者の肩にどっかりとのしかかった。


「よお! 今の話、俺にも聞かせてくれよ」


 二人は首に銅のプレートを下げている。プレートには一つ銀のパーツがはめ込まれており、それはDクラス冒険者をあらわしていた。ランク差をお互い理解した瞬間、ボリコはにやりと笑い二人はしまったという顔をした。


*


 ヘリオアンの町並みはこの世界に来る前より少し変わっていて、広場にあったと思われる倉庫NPCの箱を見つけることは出来なかった。そもそも、その広場すら以前と違っていくらか狭く、どのあたりに箱があったのか見当もつかない。


 僕らがCクラスのプレートを受け取りにギルドへ寄ったついでに聞いても分からないという答えしかなかった。これは腰をすえて捜す必要があるみたいだ。


 ちなみにツバキは1年前からこの世界に来ているらしいけど、倉庫NPCの箱も、そーこちゃんも見たことが無いという。カルメヤ村のあの箱が特別だったんだろうか。でもカルメヤ村で会った彼女は、確かにヘリオアンとワノキラに箱があると答えていた。


 なら、出来る限り探すしかない。今までこの世界でさほどの脅威に遭遇しなかったけど、この先絶対に無いとも限らないのだから、戦闘用の装備を引き出すのは絶対に必要なことだ。


 ギルドを出て、どうしたものかと町を歩く。


「テオ、僕も手伝うよ。手分けして探そう」


 僕がとある箱を探していることを伝えると、ありがたいことにセラくんから協力の申し出があった。


「じゃあ、どうやって分けようか」


「僕は一応護衛になる人が一人ついてきてくれると嬉しいな。さすがに昼間の街中ではないだろうけど、一応は警戒しておきたいから」


 セラくんは暗殺者に狙われている。さすがに一人で出歩かせるのはまずい、事実ウユラの町では路地裏に連れ込まれて殺されかけていたのだから。


「なるほど、ではアルマ殿が護衛で、拙者はテオ殿と一緒に」


「ツバキさんが護衛したほうがいいでしょう。私がテオさんと行きます」


「こうなると思ったよね。間を取って僕がテオに護衛してもらうのはどう?」


 見事に意見が割れる。みんな僕と仲良くしたがってくれて嬉しい、友情を感じてくれているんだなと思うと仲間でよかったと思う。でも、みんなもお互い仲良くしてほしいな。


「えーっと、じゃあ間を取って俺、ツバキ、アルマさんとセラくんで組んで3チームで探そう」


 この組み分けは理由がある。セラくんは箱の外見を知らないけど、僕とツバキは箱に慣れ親しんでいるから見ればすぐわかるし、アルマさんもカルメヤ村にあったのを見ている。そしてツバキは時々青少年の教育に悪そうな発言をするので二人きりにはできない。僕と組むのもアルマさんとツバキが反対するので、必然的にアルマさんとのペアになる。


 みんな納得してくれたらしい。それにしても、みんな少し付き合いが長いからって僕と組みたがるなんて意外とシャイなんだな、今度懇親会も兼ねてぱーっと4人で宴会でもしようか。


「じゃあ日が暮れる前には宿屋に戻ってね」


 こうして、僕らはそれぞれ白い壁の港町を歩き始めた。

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