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明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
9日目
王様はもう祈ることは無くなりました。
明日自分が動くことに対しての覚悟を決めていました。
ここは村のはずれ
そこでレイスは一人倒木に座って昨日のことで考えていました。
(僕はどうすればいい。僕の気持ちは昨日ベットの上で整理した。僕がサーシャのことをどう思っているのかもわかった。
けど、それは伝えるべきなのかわからない。
伝えても叶わないことを伝えても期待させた後、悲しくさせるだけ。
だから自分の気持ちに嘘をついて伝えるべきなのかも知れない。)
「なにか考えごとでもしてるの?悩みがあるなら話してみたらどうかな。
年長者の意見も大切だと思うよ。」
後ろから声が聞こえました。
振り返ってみるとそこには自分よりも年上な青年が立っていました。
「お兄さん誰?」
「今、そんなことを聞くよりも君は自分のことを考えた方がいいと思うよ。話してみなさいアドバイスできるかも知れないから。」
「いや、これは相談することじゃないし、自分で解決するべきことだと思う。」
「そう…それでもさ。言葉にするだけで現状を整理することはできると思うよ。」
「あまり聞かれたくはないんですが。」
「…なら、君は今から独り言で悩みを口にするってことにしたら?」
「独り言?」
「うん、独り言。誰にも聞かれてないって思いながら今君が持っている悩みを口にする。その独り言をたまたま聞いていた目には見えない何かが、独り言に独り言で返すってことにしようよ。」
「…それならいいかな。」
青年に提案されたように独り言を言うくらいの声の大きさで言葉にしていきます。
青年はその独り言を自分はここにいないと感じさせるように存在感を消し静かに聞いていました。
「初めてなんだよ、あんな感情を向けられるのは、初めてなんだよこんな感情を抱くのは、だからわからない。どうすればいいのか…」
「独り言を返すけど、そんなに悩むことなのかな。確かに初めてだと戸惑うかも知れない悩むかも知れない。でもさそれでもさ、自分の気持ちに素直になって行動しないとさ、後々後悔することになると思うんだよ。たとえ叶わなくても、その子は相手も同じ気持ちなんだってわかって嬉しくなるんじゃないかな、ホッとするんじゃないかな?
行動しなかったらその子は君の気持ちがわからず次に会うときも不安で胸がいっぱいで楽しくないんじゃないかな。
だから安心させるって言う意味で伝えるのもありじゃないかな。
でもまぁ…一つ想いを伝える理由を僕は君にあげたけど本当に大切なのは君の想いだと思うよ。自分の思うように動くそれが大切だよ。」
「…自分の気持ち、想いのままに動く。………分かった、」
「…そう。」
「決めたよ。…有り難うお兄さん。」
「どういたしまして。決めたなら早く言ってあげなさい。その子はきっと君のことを君の言葉を待っているよ。」
言葉を伝えるとレイスは口にしなかった。けれど青年には分かっていた。想いを伝えに行くことを、何故ならレイスの目は覚悟を決めた目になっていたからだ。
「分かってる。お兄さん有り難う、本当に有り難う。」
レイスは走り去っていきます。
彼の走り去っている後ろ姿を見ている青年は本当に誰にも聞こえないように独り言を呟く。それ独り言は自虐のように聞こえる。
「僕にはこれが正解なのかわからない。僕が選択した方とは逆の選択をするように僕を誘導した。少しは動いたと思いたい。
僕は伝えないと選択したそれは間違いだった自分の気持ちに嘘をついた。それはとても苦しかった。だから過去を変えようと思った。
Time Machineを作った。」
そこまで言い終えたところで青年の体はボロボロに崩れ始めました。
「どうやら過去が変わったから、違う選択をした僕は消えてしまうようだ。
自分が消えていくというのに、恐怖がない、むしろ満足している自分がいる。
…過去の自分が…これからの自分が幸せであることを祈る。」
青年の独り言は誰かに伝わることなく行き場を失い、崩れゆく自分の体と共に風に吹かれどこかへ消えて行ってしまった。
走っていたレイスは何かを感じ取ったのか後ろを振り返ります。そこに青年の姿はなく倒木が一本そこにあるだけでした。
レイスは無我夢中になって走り気がつくとお城の前についていました。
「あれ?塔に向かって走っていたはずなんだけど。間違えちゃったのかな。………いや間違えてない。王様に話したいことができたんだ。」
門番に通してもらうようにレイスは言いました。門番は王様に確認し許可が下りたのですぐにレイスを城に招きました。
「来たか。レイスよ、話とはなんだ。」
王様はまるでレイスがここに来るのが分かっていたかのように聞いて来ました。
「明日のことなんだけど…王様は王様の思う通りに国のみんなにサーシャのことを話してほしいんだ。」
「冬の王女のことをか?」
「そう、みんなサーシャを人と認識してない。この国に冬をもたらすものとしてそこにいて当たり前のように扱っている。そこを変えてほしいんだ。それが王様にできることなんだ。」
「…それが冬の王女が塔から離れなかった理由か…」
「うん…他にもあるけど、王様がどうにかできるのはそれなんだ。」
「あい分かった。わたしが国の皆に訴えようではないか。」
「有り難う。」
「…して、お主に儂から聞きたいことがある。」
「何?」
「お主、褒美は何がいい。お主は冬の王女を塔から出すことができたものだ。褒美を与えると御触れにだしていただろう。」
「褒美…そうか、それがあった。」
「どうした?」
「ううん、なんでもない。ご褒美についてはまだでいいかな。」
「もちろん、いいとも。決まったら言ってくれ。」
「有り難う、王様。それじゃあまた明日。」
「うむ、また明日な。」
王様との話を切り上げレイスは今度こそサーシャのいる塔まで走ります。
「冬の王女は、見つけたのだな。大切なものを…」
王様は走り去るレイスを見ながら近くにいた王妃に向かって言いました。
「そうですね、よかったです。」
王妃は王様の方を向き笑いながら返事をしました。
レイスが塔の前に着くともうすでに門は開いていました。
「おい坊主!遅かったじゃねぇか。もうすでに門は開けてある入りな。」
今まで散々レイスに酷いことをしていた門番が後ろから大声で言います。
「有り難う。門番のおじさん。」
レイスはお礼を言うとすぐに塔の中に入って行きました。
「おじさんじゃねー!!!」
門番の叫んだ言葉は走り去ったレイスには届きませんでした。
「サーシャ!」
座っていたサーシャはまだあってあまり経っていないはずなのに聞き慣れた声を聞き立ち上がり、声の主の名前を叫びました。
「レイス!」
返事をしてくれたことが嬉しくレイスはより走る速さを上げます。
「ごめん…また今日も遅くなっちゃった。」
「ほんとだぞ、レイス…遅すぎるぞ。…だが来てくれて有り難う私は嬉しいぞ。」
強く怒ったように言っているサーシャの目には涙が溜まっていました。
「泣かないでよ、サーシャ…頑張って来たんだから笑ってよ、僕の好きなサーシャの笑顔を見せてよ。」
「すすす、好き!恥ずかしいことを言うな!だがまぁうん………これで良いか?」
少し無理をしたような、作ったような笑顔ではあったがサーシャはレイスに向かって笑顔になりました。
「まぁ…及第点かな。」
「なんだと!」
「ごめんごめん…今日来たのは、昨日の返事をしたくて来たんだ。」
「!!!そうか。それでお前の気持ちは?」
「…うん…僕は君のことが好きだ…」
「そうか…やはりだめ……え?好き?…え?もう一回言ってくれるか?」
「何動揺してるの…いいよもう一回言うよ。僕は君のことが好きだ。」
「そうか…よかった。嬉しいぞ、レイスがそう思ってくれて。お前とわたしの想いは同じだったのだな。」
「うんだから、約束してほしい。」
「約束?」
「次にここに来る時、三年後に僕たち二人の気持ちが変わらず、好きと言う一時的な想いではなく、吹けばどこかへ飛ばされるような脆い感情ではなく、永遠な、強く頑丈などんな風に吹かれても壊れないような想いであったのなら、本物であったのならーーしてください。」
「ーーー」
「ーーー」
「ーーー」
二人は互いに約束した。
この日初めてレイスは家に帰らず、塔に泊まった。