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「遅い。…送れるとは言っておったが、幾ら何でも遅すぎるのではないか?もう日が沈んで来ているのに、一向に来ない…もしやもう私のところに来るのが嫌になったのか?」
サーシャはレイスが来るのを待っている中そんなことを思っていました。
怖いのです。レイスが来なくなるのが、この日常が壊れるのが。
彼に会いたい…会って話したい。ずっと一緒にいたい。
そう心の底では思っているのです。
サーシャはそれをわかっていました。
けれどそれを表に出さないように必死に抑え込んでいるのです。
彼が来なくなると自分はどうなってしまうのかわからない。それがそれこそが今抱いている恐怖なのです。
自分が今どんな顔をしているのか。鏡を見るのも億劫でになっていて、部屋をうろうろするだばかりです。
「王女様〜!」
塔の中にいる門を開く役目を持つ兵士が叫んでいます。
「なんだ?」
「彼が着ましたよ。どうなさいます。」
「!!…そっ…そうか!門を開けてくれ。」
「かしこまりました。」
どこかその声は上ずっていて、嬉しさが声に現れていました。
兵士はその声の変わりように気づいたため笑いを堪えたような返事をしました。
「遅くなってごめん。こんなに遅くなるとは思ってなかったよ。」
「ほ…ほ、ほんとだそ!?何かあったのではないかと心配したぞ。」
「ごめんね。僕のこと心配してくれてたんだねサーシャ。」
「だ、だ、誰がお前のことを心配だと言った!?私は別にお前のことじゃなく、お前との会話の時間がなくなることに心配してたのだ。」
「それって一応、僕に会いたいってことだよね。」
「ば、ばかみょの。そんなわけあるか!」
図星を突からたためサーシャは噛んでしまい顔を真っ赤にしてしまいました。
(噛んだ…恥ずかしい…今絶対顔が赤くなってる。レイスの方を見れない。)
「サーシャ…どうしたの?」
「にゃ、にゃんでもない……またやってしまった。」
「ははは。本当にどうしたの。」
「お主のせいじゃ///…」
「何?聞こえなかったんだけど。」
「なんでもない!?」
小さな声で言ったためレイスには聞こえなかったようだ。
サーシャにとってそれは好都合でした。このまま話を晒すことにしました。
「それで!今日は何をするのだ?」
「なんか重要なこと晒された気がするんだけど…」
「気のせいだ!!?」
「なんでそんなに必死なの!?」
「なんでもだ!」
必死すぎる彼女の脅しにも取れる猛攻に負けたレイスはこの話を広げるのをやめて自分の聞きたいことを聞くことにしました。
「冬の妖精から話はあった?」
「いや…まだだぞ。」
「そっか、雑談でもして待とうか。話はサーシャが過去に回った国の話。」
「そんなのでいいのか?」
「うん!僕は他の国に行けないからサーシャの話は新鮮で楽しんだ。」
「…そうか///」
褒められたためまた顔を赤らめてしまいました。
恥ずかしいことを恥ずかしげもなくまっすぐに言うレイスの言葉に一喜一憂してしまう自分が恥ずかしくも嬉しく思いました。
「では話してやろう。ここから東にある国の話でな。
その国はこことは違いかがくというものが発達してあってな、無機質な鳥が空を飛んだりしてあるのだ。その鳥は生きておらず泣きもしないんだ。」
「うんうん!それで。」
「落ち着け。…それでな私はどうやって飛んでいるのか?と聞いたのだ。そうしたらこう返ってきた、難しいことはそれを考える専用の人がいて詳しいことはわからないとな。つまりその国のものは、それがなんなのかわからぬまま乗ってあったのだ。とても恐ろしいものだろう?」
「確かに…怖いねそれは。」
「他には遠くにいるものと話すことのできると言う硬い箱のようなものがあって、これも詳しいことはわからぬがとても便利なものだ。なんか何かを線でつなげていると言っていたな。」
「…線で繋がる。…」
「どうしたの?何か気になることがあったか?」
「ううん気にしないで話して。」
「そうか。では続きを話すとしよう。」
話を続けようとしたその時何もないところから蝶の羽を持つ小さなものが突然現れました。
「わぁ!びっくりした。…これが妖精?」
「そうだ。…それでどうした妖精…何!?産まれた…それで姉様は…無事か!よかったぁ〜。」
「報告が来たみたいだね。」
「あぁ!来た!」
レイスの手を取ってブンブンと振って嬉しさを全開にして喜んでいました。
「………よかったね。」
手を振られながらなんとかその言葉を発しました。
辛そうにしているレイスに気がついて落ち着きサーシャは手を離しました。
「すまぬ…」
「いいよいいよ。余程嬉しかったんだね。」
「あぁ嬉しいとも。」
これはまぎれもない本音でした。
しかし、サーシャは気づいてしまいました。
自分がここにとどまっているのは姉の出産して移動できるようになるまでの時間稼ぎであること…それが終わったのだからこの国から離れなければならないことに。
レイスとわからなければ行けないことに。
だからサーシャは自分の気持ちを最後に言うことにしました。覚悟を決めたのでした。
「レイ「サーシャ。」…なんだ?」
「多分だけどサーシャのお姉さんは春の妖精の力で子供と自分の体調を安定させて2日後に移動できるようにすると思う。」
「…なんでそう言い切れる。」
「これは予想だけど、そうすると切りがいいんだ。暦上3日後でこの月が終わるんだ。だからそれに合わせて移動すると思うんだ。いつもそんな感じだったし。」
「…確かに。」
サーシャにはわかりませんでした。
なぜこんな話をするのかを…理解することができませんでした。
「もうすぐお別れだ。」
「…!そうだな。」
「だからお別れする時君に何か贈りたいんだ。何か欲しいものはあるかい?」
別れ…そうレイスに言われた時サーシャはとてつもなく悲しくなりました。
もう会うことができないと…
でもそれでも、それだからこそ、この気持ちを伝えよう…より思いました。
「お主がいいと思ったものが欲しい。」
「そっか!期待しててね。…それでサーシャは何を言いかけたの?」
(ー来た!)
心を落ち着かせるように胸に手を当てて深呼吸をしました。
「レイス…私は…私は……お前のことが…」
「うん…どうしたの僕が。」
「お前のことが…わ…私は…わたしは……す…す、好きだ…」
「え?」
「だから好きなんだ!」
「本当に?」
「なんだと言わせるな!」
「そっか…そうなんだ…」
「それで…お…お、お前はどうなんだ。」
「…?」
「だからお前の気持ちだ!」
「ぼくの?ぼくの気持ち?…ごめん…分からないんだ。今抱いてる気持ちが…よく分からないんだ…そんなこと思われたのは初めてだから…今まで考えたことなんてなかったから…だから考えさせてくれない?」
「…わかった。」
重苦しい空気が二人にのしかかる。
今までこんなことは起こらなかったのに…そう二人は思っていた。
「…じゃあね。」
突拍子もなくレイスは言った。
「そうか。またな…」
次なんてあるのか分からないのにサーシャはそう返事をした。
その声は後悔や悲しみを帯びていた。
レイスはそのことに気づくことなく等から去っていった。
「…辛い。…気持ちを伝えるのは難しくドキドキして…答えをもらえないと…胸が痛く…苦しく…なって怖くなる。私はどうすればいいのだ。」
サーシャはベットにうつ伏せになった。
「サーシャがまさかぼくのことをそう思ってくれてるなんて思わなかった。」
馬車の中で独り言を呟く。
「僕は彼女のことをどう思ってるんだ?わからない…初めてだから…こんなこと…どうすればいい…どう返せばいい…自分の気持ちもわからないのに。」
「着きましたぜ旦那。」
どうやら村に着いたようです。
「ありがとう。」
「どうも。ではまたのご利用お待ちしています。」
「うん。」
馬車が離れるのを見守った後家の中に入って行きました。