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7日目


まだ冬は終わりません。

なぜ人はまだ食べていけているのか不思議になってきています。

王様はあいも変わらず祈るだけで何もしません。

国のみんなは呆れています。



「おい!おまえ!」


この国にある離れた村の一番大きな家の中で誰かを呼ぶ声が響きました。


「おまえだよ!おまえ、返事をしろ。」


どうやら声をかけられたのはレイスのようでした。


「ごめんなさい兄さん…考え事をしてて。」


「おまえごときが兄なんて言うんじゃない。無礼であるぞ。」


「ごめんなさい。それでなんのようなんですか?僕も忙しいんですが。」


「最近ここらに噂が流れていてな。おまえが俺の時期村長の座を狙っているというな。」


「どうしてそんな噂が…」


「それはお前が冬の王女と話しているところが見られたからだ!それでお前の気持ちはどうなんだ。」


「そんなつもりはないよ。僕は別に村長になりたいわけじゃない。」


「そうか、父上。聞きましたね、こいつの言葉を。」


「あぁ聞いたとも我が愛する息子よ。これでお前の村長の座は確実になった。」


奥から一人の初老の男が現れました。どうやらレイスの父親のようです。


「何が良くてこいつに村長をしてほしいと思うのでしょうね、父上。」


「そうだな、こんな放浪ものの何がいいのだろうな。」


「あっ!すみません父上そもそもこいつにはそう思ってくれる人すらいませんでしたね。」


「おぉ!そうであったな。」


「「わはははは。」」


「話は終わったようなので僕は行きますね。」


レイスはそう断って家から出ました。

レイスは馬車に乗り国の中心…塔のある場所に向かいました。

この馬車はそこまで直接行くわけではなく、近くで止まるものでした。


「はぁ…全くあの二人には困ったものだ。」


二人とはおそらく兄と父上のことでしょう。


「旦那、着きましたぜ。」


「ありがとうございます。」


「またうちを利用してくれよな。」


「はい、もちろんです。こちらは安いのでまた利用させてもらいますよ。」


「ではお気をつけて。」


「はい。」


馬車の馭者との事務的な話をしてレイスはそこを離れました。


塔の前に着く前に通る道で会うたびに国のみんなから


「頑張ってくれよ。」


「冬の王女様を塔から離れるように言ってくれ。」


など言われました。

レイスは愛想よく笑ったり「わかりました。」など言ってやり過ごしました。

塔の前についた時も門番は昨日までの態度を180度変えて礼儀正しくなっていました。


「王女様!開けて下さ〜い。」


大きな声を出します。

するとその声に反応したかのように直ぐに門が開きます。

もう慣れたようです。


「全く、相変わらず大きな声だな。そんな出さなくてもすぐに開ける。」


サーシャはいつもと違い少し身だしなみに気を使っているようでした。

レイスが来るのを心待ちにして楽しみにしていたかのように、まるで好きな人に会うためにオシャレをしているようでした。


「どうしたの?サーシャ、昨日とは違ってオシャレだね。」


「そっ…そうか?お前の気のせいじゃないか?」


「それはないよ。見間違うはずないよ。」


「え!?それって…」


「さっ…はやく党の中に入ろ。」


「…そうだな。寒かったろう。温かいものをだしてやる。」


「ありがとう。」


レイスはサーシャにお礼を言いながら抱きつきました。


「お…おい!やめろ!」


嫌がりながらもどこか嬉しそうな顔でした。レイスも笑顔でした。

側から見ると恋人のようです。

門番は昨日と同じようにポカンとした顔で塔の門が閉まるのを見ていました。



「も…も…もう…もういいだろ!離れろ。」


流石に恥ずかしかったのかレイスを無理やり剥がしました。


「ごめんごめん。つい抱きついちゃった。」


「全くむやみに女性に抱かなは良くないことだぞ馬鹿者。」


顔を赤くしながら王女様は言います。

レイスもさすがに反省しているようでシュンとした顔で申し訳なさそうにしていました。

そんな顔をされるとは思ってなかったためレイスの予想外の反応にサーシャは焦りました。


「そ…そんなに落ち込むな…別にそこまで怒ってるわけじゃない。」


「ごめんなさい。」


「いや別に突然のことで驚いただけで嫌だったわけじゃないから別に…あぁぁ…何を口走ってんだ私は!」


自分の言っていることに気づき顔を真っ赤にしながらサーシャはスープ取りに行きました。


レイスはスープを取りに消えたサーシャを見ると自分の頰を二回叩き頭の中を切り替えようとしました。


(う〜ダメだ。なんか胸が痛い。)


どうやら切り替えるのは難しいようでした。


「…何をしているんだ?」


戻ってきたサーシャは呆れたようにこちらを見ていた。

なぜかこの光景は昨日のものと似ていました。


「ほら、持ってきてやったぞ。」


「あ…ありゃがとう…」


さっきのを見られたいため恥ずかしかったのかレイスは噛んでしまった。


「…りゃ?」


「…ぁりがとう…」


「…ふ…ははははははは。」


「…笑わないでよ〜サーシャ〜。」


「すまんすまん。ふはは」


「ふん。知らない、明日からもうこない。」


「わー!すまんほんとすまん。だから明日も来てくれ。」


「…ふはは。」


「!?」


「冗談だよ、冗談。」


「!…レイス〜」


「仕返しだよ。」


「…はぁ…まぁ許してやろう。」


「ありがとう。」


「「ふははははははは。」」


互いに弄り合いおかしくなったのか二人で大笑いしました。


「あ〜…笑った。久しぶりにこんなに笑った。」


「僕も久しぶりにこんな笑ったよ。」


「そういえば腕は大丈夫か?」


ふと気になったのか昨日の腕のことをレイスに聞いた。


「うんもう大丈夫。王女様の魔法のおかげだね。」


自分のおかげだとまっすぐに言われてまたサーシャは顔を赤くしました。


「お主の父親はなんと言ってあったか?その怪我のことで。」


その言葉を聞いてレイスは少し暗い顔をしました。サーシャは何か気に触ることを言ったかと心配になりました。

しかしレイスはすぐに暗い顔から明るい顔に変えました。

どうやら杞憂に終わったと思いサーシャは安心しました…


「父上は僕のことなんてどうでもいいと思ってるから多分気づいてないと思うよ。」


この一言がなければ。


「それはどいうことだ。」


「ごめん…気にしないで。」


「気にしないでって。教えてくれ…私はお前のことが知りたい。」


自分の心の中にある本音…自分の気持ちに素直になりレイスに聞きました。

レイスは観念したように自分のことをポツリポツリと少しずつ話していきました。


「…わかったよ。

僕にはね兄がいるんだ。その兄がね次の村の村長になるんだ。多分兄さんは村を維持することはできない。他の村に吸収されその座から降ろされると思う。

兄さんは父さんや母さんから溺愛されて甘やかされてきたから。

それで母さんと父さんは兄さんに甘やかすのに忙しくて僕には何も言ってこないし、何もしてくれない。期待してもくれない。求めてもくれない。

そこにはないないものとして見られているんだ。

せめてものっていうことで食べ物だけはくれるんだ。

僕が兄さんの場所を奪うかもしれないからって勉強もさしてくれない。

それに僕を名前で呼ばないようにしているんだ。

村の人も話してくれない。

父さんが僕のことを働かないで親の脛をかじるバカ息子と広めたから村の人は僕のことを働かない次男と思って、僕のことを見てくれない、知ってくれないんだ。

いつも僕は一人だった。

僕はいるけどいないそんなあt…」


言い終わる前にサーシャはレイスに抱きついていました。


「…サーシャ!?何してるの!?」


「大丈夫…私がお前をちゃんと見ている。

名前を呼んでやる。」


「!?」


「だから…ひとりじゃない。我慢するな、全部吐き出せ。私はお前の欲しいものを願っているものをあげられないかもしれない。…けど、…けど…そばにいてやることはできる。弱音を聞いてやることはできる。今はまだ…それだけしかできないけど、…私を頼れ。」


「…ぁ…ぁぁ…ぁあ…ぁりがとう…あり…がとう…」


言っているうちにレイスの目には涙たまっていました。

サーシャはそれをわかっていました。

レイスの頭をなでてやります。

愛おしそうに。

サーシャも泣いていました。

それでもレイスの頭を撫でる手は止まりませんでした。


それから数時間後…レイスは落ち着いたのかサーシャから離れた。


「ありがとう、サーシャ。」


「ふふ…どういたしまして。」


二人は小さく笑顔になった。


「だから僕は王女様のことを知ってるんだ。」


「……どういうことだ。」


突然のレイスの一言でサーシャは混乱しました。


「僕ね…サーシャがなんでこの国に止まってるか知ってるんだ。」


「!?…何」


「僕の考えを聞いてもらってもいい?」


「…あぁ…お前の考えを聞かせてくれ。」


「サーシャも多分僕と同じように誰かに認識されたかったじゃないかな。」


「!!!」


「冬の王女様としてサーシャは、いくつもの国を回ったと思う。向かった国の全てはサーシャを見てなかったんだと思う。

そこにいるのが当たり前。

そこにあるのが当たり前。

季節が変わるのは王女様の力ではなく自然に起こることって認識してたんだと思う。

人間が起こすことじゃなくて自然が…

つまり王女様を人間と認識していなかったんだ。

この国も他の国も。

だから王女様はその認識を変えようとしてこの国に留まり続けている

どう?…あってる?」


「あぁ…あってる。」

(私の考えてることそのままだ…全て分かってたんだレイスは…私のことを分かってたんだ…)


「それともう一つあるでしょ。」


「!!!」


「春の王女様…多分サーシャのお姉さんだよね。その人が妊娠したことも関係するんじゃないかな?」


「…どうしてそれを?」


「やっぱり。」


「なんで知っているんだ。」


「僕の村は離れてるって前に教えたよね。だから他国の村から情報が来るんだそこに春の王女様の妊娠があった。

しかもそれは次の国への移動時間と重なったんだね。

だから時間を稼いでいる。

子供が中にいるときに移動するのは酷だからね。

たぶんこっちの理由が本命だろうけどね。ついでにみんなを変えようってね。」


「…正解だ。」


「分かってるからってどうするわけでもないけどね。」


「何?分かってるから塔から離れるようにいうんじゃないのか?」


「いや言わないよ。僕に国のみんなは期待してるみたいだけど。まだ駄目でしょ。」


「あぁまだ春の妖精からお姉様の出産の報告は来ていない。」


「だから僕も何もしないよ。今まで通り二人で会って話すだけ…はいこれで難しい話は終わり。」


「あぁ…」


真剣な顔からいきなりいつもの笑顔になったレイスのギャップに驚きながらサーシャは同意しました。


「あ、一つ言い忘れてた。多分春の王女様の出産の報告は明日来ると思うよ。あと明日僕がこっちに来るのは少し遅れるからね。」


「な…な?…な?…えっ?」


意味がわからないとサーシャはうわずった声になっていました。


「ごめんひとつずつ説明するよ。

まずなんで明日報告が来るのかというと…妊娠した日を聞いて計算したんだ。御触れが出たのは冬が長引いて何十日か経ってたし何もおかしくはない。

もうひとつ僕が遅れる理由は僕もやるべきことがあるってこと。」


レイスの頭のキレにサーシャは驚きを隠せなかった。レイスは自分自身で自分は勉強さしてもらえなかったと言っていたからだ。


「さて長くなっちゃったね。遊ぶ時間がなくなっちゃった。じゃっ、僕は帰るよ。またねサーシャ。」


「…また明日。」


ぐちゃぐちゃになっている頭の中でなんとかそれだけは絞り出せた。

レイスが頭から離れたあとわからないことだらけでどうしようもないとサーシャは頭を抱えました。

けれどやはりレイスが帰る時に起こる胸の痛みは変わらことなくより一層強くなって現れました。


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