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5日目


まだ冬は終わらない。

この現状を打開できない王様に対しての不信感が国のみんなに募っていた。

王様もそのことに薄々感づいていた。

だがそれでも何もすることができない。

王様は動くことができない。

ただ神に祈るだけでありました。


今日もまた挑戦者など誰もきません。

国のみんなは心なしか元気がありません。

それもそのはず、みんな満足に食べていないのです。


塔の門番は大きなあくびをしました。

あくびをすると目を閉じるのは誰でも同じことです。

そのため門番は気がつきませんでした。

塔の前にまた男の子が立ったことを、


「王女様〜また来ましたよー。」


大きな声で叫びました。

眠気がすごい門番たちにとってはいい目覚ましになったことでしょう。


「おい!また来たのか小僧!いい加減にしろ!」


昨日と同じように男の子の首根っこをつかみました。


「ありゃ。やっぱりダメ?」


「当たり前だろうが!」


「そっかぁ〜。」


「おら!帰れ!!!」


「痛い。」


門番は男の子を放り投げました。

今日は悲しいことに雪が積もっておらずただ寒いだけだったので、男の子は擦りむいてしまいました。


「全く手加減しないんだからあの門番さんたち…痛い。傷薬買うお金もないし…まぁどうとでもなるか。夜にまた行こうかな…」


足を引きずりながら男の子は塔から離れていきました。


「あやつホントに通った。」


王女様は塔の中で呆れた声で呟いた。


それから何事もなく空が暗くなりました。

もうみんな王女様の説得を諦めたのでしょう。

男の子の言っていた通り門番たちは懲りずに門を離れ遊びに行きました。


それから何事もなく空が暗くなりました。

男の子の予想通り門番たちは懲りずにまた門を離れどこかに遊びに行ってしまいました。


「王女様〜。来ましたよー。門を開けてください〜。」


国のみんなに聞こえないようにけれど塔の中にはしっかりと聞こえるように男の子は叫んで王女様に自分が来たことを伝えました。

今日の王女様は昨日とは違い少しも迷わずに塔の門を開けてやりました。

男の子が寒いだろうと思い温かい飲み物を用意して。


「こんばんは〜王女様。おぉ、あったかいな〜この部屋。」


「あぁ、こんばんは。そうだな暖かいな。…そうだほら寒かっただろう、温かいスープを入れておいたぞ。」


「わぁ!?ありがとう王女様。」


男の子はにっこりと笑いました。

それを見て王女様は満足したのでしょうか?王女様はいつもと同じ椅子に座りました。

男の子は表情を変えず笑顔で昨日勧められた席に座りました。


「王女様…僕はね。わかったんだよ、昨日のことで。


座って突然そんなことを言われた。

王女様はぽかんとしてそのまま聞きかえします。


「わかったとは何がわかったのだ?」


「うん、僕たちは人と話すのに慣れてないってことにだよ。」


「うっ…確かにな。」


痛いところを突かれ答えに詰まる王女様。

それでも男の子の話は続きます。


「だから僕は対策を考えてきたよ。」


「対策?それはなんだ?」


「それはね。遊びながら話すっていう方法だよ。いい考えでしょ?」


「…は?…は?……まぁその方法もあるのかもな。だが遊ぶといってもここには遊ぶものなんてないんだがそれはどうするつもりだ。」


「それなら大丈夫。」


なぜか男の子は自信満々な顔をしていた。


「じゃーん!!!これを持ってきました〜」


「ぉお!…………これはチェスとトランプではないか。これならば私もしたことがあるし二人でも楽しめるな。」


最初に少しはしゃいだのが恥ずかしかったのか、後半になるにつれ言葉が小さくなっていきました。

男の子はそんな王女様にニヤニヤしながらチェスをするために王女様と自分の分の駒を並べてます。

そこであることに王女様は気がつきます。そう男の子の名前を知らないことです。

なので王女様は思い切って聞いてみることにしました。


「なぁ…。」


「!王女様から話しかけるなんて…」


「うるさい。いじるな!」


「あはは。ごめんなさい。それでどうしたの?チェスは嫌だった。」


この男の子は意外と意地悪なやつなのではないか?そう疑ってしまいました。


「そうではない。今更気がついたのだが。私はそなたの名前を知らないと思ったのだ。…それで……よかったらでいいが名前を教えてはくれぬか?」


「名前?…そうだね…」


男の子は準備に集中しているのか問いに対する返事は素っ気ないものでした。

王女様はそんな男の子の返事に内心、少しいやかなり不安でした。

名前を教えてくれないかもしれないと思ってしまいました。

自分には教えたくはないのかと…それとも他に言えない理由でもあるのかと。

そんなことを考えていたので王女様の表情は良くありませんでした。

そんな王女様の思いをしってか知らずか男の子は


「…レイス・ラナトス…だったと思う。」


「…………え?」


「だから僕の名前。」


「え?…あ…あぁ…そうか…レイス…そうか…なら今度からそなたのことをレイスと言わせてもらうぞ。」


「…うん!いいよ。それで?王女様の名前は?」


「私?私か?…私は、サーシャ・ラピスラズリという。」


「そうなんだ。いい名前だね。さてとちょうど準備も終わったしサーシャ様チェスしましょう。」


「…」


「サーシャ様?」


王女様は突然黙ってしまいました。

一体どうしたのだろうとレイスはサーシャの顔を伺います。


「…じゃない…」


「え?」


「サーシャ様じゃない!サーシャ呼べ様をつけるな!!!」


どうやらサーシャは様付けされているのに不満があったようだ。

レイスは困った顔をした。

けれどサーシャの要望を聞きこれからはサーシャと呼び捨てにすることにした。


「わかりました、サーシャ。」


「そのかしこまったような喋り方もやめろ。」


またレイスに向かって文句を言います。

それでもレイスは嫌な顔せずそれを受け入れました。


「なら、サーシャ。そろそろチェスを始めるよ。いいか?」


「うむ良いぞ、私は強いぞ。」


「ははは…お手柔らかに。」


そこで会話は終わり互いにゲームに集中した互いに相手の打つ手の先読みをし駒を動かしていく。

一手一手慎重に時間をかけて…その間の沈黙は重苦しいものではなくどこか心地よいものでありました。



「チェックメイト。」


それなりの時間が経ち、ようやくゲームは終わりました。


「ぬ!?…まいったな。負ける気は無かったのだがな。私の負けだよ。強いなレイスは。」


「まぁね。負けるわけにはいかなかったからね。」


「ん?それはどういうことじゃ?」


「いやなんでもないよ。」


「そうか…」


ーズズッー


レイスはサーシャに用意してもらったスープをすする。

そのスープはとても暖かかった。


「おいしい。」


「そうか!そうかそうか、それは良かった。それは私が作ったからな。他の人に飲ませるのは初めてだったから気になっていたな。」


「おいしい。ちょうどこんなふうに頭を使った時にとてもいいね。」


「そうであろう!そうであろう!わかってくれるか。」


二人はスープのことで意気投合しました。


それから二人はたわいもない話をしました。


他の季節の時の国の様子のことなどの話をしていました。


楽しい時間はすぐに過ぎてしまいます。

もう空は少し明るくなっていました。


「もうこんな時間か。じゃあねサーシャ。」


「もう行ってしまうのかレイス…」


「うん…さすがに帰らないとね。」


「また明日きてくれるか。」


「もちろん行くよ。サーシャと話すのは楽しいからね。」


「……ありがとう。」


「?どういたしまして。」


レイスは塔からこっそりと離れていきました。

レイスはサーシャが見えなくなるまで後ろ向きに歩き手を振りました。

サーシャはレイスが見えなくなってもしばらくの間控えめに手を振っていました。


「こんなに楽しいものなのか。こんなに心躍るものなのか。」


綺麗に空っぽになっていたスープの入っていた器を片付けながらそう呟いた。


サーシャは明日何を作って待っていようか、明日はどんな話をしようか、

どんなふうに遊ぼうか、そのことで頭がいっぱいになっていました。



サーシャは自分が、自分自身が冬の王女様であることを忘れて。

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