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第5話「パチモンくん」

「オラァ俺は銀行強盗だ! 今すぐカバンに金を詰めろォ!!」


 黒い覆面を被ったメアリが、鳥取の銀行にシャープペン一本で押し掛けた。

 銀行員は震える。


「ひぃぃぃ分かりましたぁぁ、今すぐ用意しますぅぅぅぅ!!」


 そうして金を盗んできたメアリは、旅館前にいるスーサン犬と合流した。


「……例の品は?」

「ここに」


 スーサン犬は、口に咥えていた封筒(短パン美少年の写真入り)をメアリに提示し、メアリも盗んだ金の詰まったカバンをスーサン犬に投げた。


「しかしあれだけ犯罪を起こすことに渋っていた貴方が、美少年写真で釣れるってどうなんでしょうか?」

「ショタの肉体は、須らく尊いのよ。それよりもそんな大金手に入れて何に使う気なの?」

「それは見てのお楽しみです」


 そしてメアリとスーサン犬は旅館に入った。

 中に入ると受付の方から仲居さんと思わしき人物が出迎えてくれた。


「ようこそお越し下さいました。ただ生憎、当旅館はペットのご入館を禁止していまして……」

「お好きな額を」


 スーサン犬は金額の書かれていない小切手を、手渡しならぬ"口渡し"した。


「ようこそお越し下さいました! どうぞごゆるりと、ご堪能下さいませ!」


 仲居さんは小切手を受け取り、交渉は成立した。

 スーサン犬は、犬なので分かりづらいがニヤリと笑ったような気がした。

 計画通り。


「なんか色々おかしいけど、まあ気にしないでおくわ」

「賢明な判断です。さてメアリ、旅館に荷物を置いたら調査開始ですよ! 張り切っていきましょう!」

「えぇ〜!? せっかく旅館に来たんだから温泉入りたいよ〜。あたしもうくたびれた」

「まだ夕暮れまでには時間があります。温泉は近辺調査が済んでからでも遅くはないでしょう。さっ、行きますよ」


 そう言われてしぶしぶ従うメアリ。報酬をもらう以上、それに見合った仕事をしなくてはならないので仕方がない。

 荷物を部屋に置いて、調査開始! ……と、いったところで二人は驚くべき人物に出くわしてしまった。


「……ん。何だお前らバーロー」


「なッ! あ、あの方はまさか!? 」

「丸い眼鏡に蝶ネクタイ、目立ち過ぎる青いブレザーを着たあのショタは……」

「まさかあの、国民的有名な名探偵だと言うのですかッ!?」


 二人は驚きで膠着してしまう。まさか鳥取でも数少ない有名人に出会えるとは思えなかったのだ。

 いや、別にコ◯ンは鳥取在住ではないのだが……。


「何だか知らねえけど怪しい奴らだなバーロー。俺の名は『江川馬郎(えがわばろう)』、西の小学生探偵さ」


 ……何だパチモンか、と。メアリとスーサンは少しだけがっかりした。


「というか鳥取って西で大丈夫なの? なんか日本の西って関西のイメージがあるんだけれど」

「西であることは間違いではないですよ。それに鳥取って若干関西弁が混じってるとも言えなくないですしね」


 しかし妙な人物と出会ってしまった。これはトラブルの臭いがする……。

 そしてスーサンという男は、そういったトラブルに自分から飛び込んでいく野次馬根性丸出しの野郎なのだ。


「これはこれは初めまして馬郎くん。私は菅原三太、私立探偵。周りからは略して、スーサンと呼ばれています」

「うわっ、犬が喋りやがった! 最近のワンリンガルはハイテクだなぁ」


 ワンリンガルとは、これまた懐かしいものを出してきたなこの小学生は……。


「こちらの金髪の女の子は目黒=カルパッチョ=蟻蜜、私の仕事をサポートしてくれる助手のような方です」

「え、ちょっと待って。もう一度名前言ってくれる?」

「目黒=カルパッチョ=蟻蜜」

「いや何処からどこまでが名前だよソレ!?」

「覚えづらいならメアリと呼んであげてください。周りからもそう呼ばれていますし」

「呼びづらいとかそういう問題じゃねえ!!」


 馬郎は吠えたが、二人は一切気にしなかった。


「よろしくね! ぼーく♪」


 それどころかメアリは馬郎に対し満面の笑みを浮かべている。馬郎の背筋に奇妙な悪寒が走った。


「な、何だか分かんねえけど。お前らあまりうろうろすんなよ! 今この辺りは危険なんだ」

「危険? それはどういう意味ですか」

「最近、この辺りで爆破事件が多発しているんだ。平和だけが取り柄みたいな所だったのに、全く難儀だよな。だからここ最近は警察が厳戒態勢でこの付近をパトロールしている。お前ら旅行か何か知らないけれど、目をつけられたくなかったらあんまり妙な真似するんじゃねえぞ!」


 それだけ言って、江川馬郎は去っていった。

 何をしに現れたかは謎だが、スーサンはその爆破事件とやらに心当たりがあった。


(あの大穴にあった千両箱……まさかあれがこの事件に関係している?)


 確証はなかった。しかしスーサンはその長年の感に応じて、事件の臭いを感じ取っていた。

 多分、犬になったことも関係している。犬は鼻が良いから。


「事件がある所に謎はある。もしかしたら鬼子の金についても関連しているかもしれませんね。よしっ行きますよメアリ! 現場は……あれ? メアリは何処に……」


 スーサンが周りを見渡してみたが、メアリの姿は見当たらなかった。

 そして、


『うわあああ何だお前!? どうして俺の部屋に居るんだよ!』

『んふふふふ、ことであったのも何かの縁。お姉さんと一緒に楽しいことしよ、ぼーく♪』


 遠くの方から誰かの叫び声が聞こえた。

 スーサンが察するに聞きなれた声がメアリで、もう一人の少年声が馬郎くんだろう。

 やれやれと肩を竦めて(竦めるような肩ではないが)、スーサンは声のした方へ走っていった。


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