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第4話「ハプニングとか言ってる場合じゃねえ!」

 千両箱。

 それは、世界三大宝箱に分類されても可笑しくない伝説の箱。

 知名度で言えば、かの"ひとくいばこ"や"ミミック"、"パンドラボックス"にも引けを取らない、言ってみれば熟練者なら誰もが注目して無視できない一品。そんな神秘のお宝箱。

 とはいえ実際に千両箱について何なのかと聞かれれば、もちろん何も答えられないし。また千両が現代でいう幾らくらいなのかと誰かに聞かれれば、皆目検討もつきませんと、答えるしかないというのは実際のところだ。

 それでも何となく凄いものなんだろうな〜ということは何と無く理解できる。そんな超凄い宝箱、それが"千両箱"である。


「まあ結局私が何を言いたいかと言いますとねメアリ。……ロマンって、大事なんだな〜っていうことですよ」

「はぁ……」


 意味が分からないことを無精髭のおっさん、スーサンがほざく。

 おそらく彼自身、何を言っているのか分かっていないと思われる。


「そんなわけで早速この箱を開けてみます。きっと財宝がザクザク入っていますよ〜」


 長年放置されていたか、はたまた作った時からこんな感じだったのか。千両箱の全体はすっかり古びた、それでいて頑丈そうな硬い木で出来ていた。

 鍵となっている金具の部分だけ、くすんだ真っ黒い金属でひんやりと冷たい。

 そんな歴史を感じるような趣のある木箱、その蓋を、スーサンは躊躇無く手をかけた。

 一切の迷いはない。ただそこにお宝があると信じて、そう"ロマン"を求めて、スーサンはそんな見るからに怪しく置かれている千両箱の蓋を開こうとするのだ。

 RPGならこれで死んでいる。ガブガブやられてゲームオーバーだろう。

 そして、そうして、遂にスーサンは千両箱の蓋を静かに開いたのだ。


 パカッ。


 直後だった。

 瞬間、世界の全てが壊れ『スーサンガードッ!!』……………………!?


 …………………………………………………………………………。


 端的に言おう。千両箱が眩い閃光と共に大爆発を起こした。

 地を揺らす轟音、破壊される皆々。

 咄嗟に近くにいたおっさんを盾にしたメアリは、その全てを灰燼に帰す圧倒的な爆風をやり過ごそうと、一心不乱粉骨砕身して、自分よりふた回りは大きいスーサンを盾にした。


 盾にした。


「おおおおおおっ、ああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 まさに阿鼻叫喚、悪戦苦闘。

 至近距離から喰らう押し付けるかような強風に、メアリはその幼さを残す少女の体躯で必死に衝撃を耐え凌ごうとした。

 まあ、一番被害を受けのは間違いなく盾にされたスーサンなのだろうが、そんな事少女にとっては知った事ではない。

 実際現状、人の心配をしている暇はないのだ。どうにか自分の身だけでも護ろうとするのが精一杯。そんな状況である彼女を、いったい誰が責められると言うのであろうか。

 ……何だか盾の方から男の叫び声というか悲鳴というか、そんなようなものが聞こえるような気するが、懸命な少女はそれらの声をを完全に無視していた。

 そうしてようやく暴風が去り、やっとの事で永遠とも感じた命の危機を脱する事ができた少女は、一瞬で疲労困憊となった四肢を投げ出すように、ぺたりと剥き出しの大地にへたり込んだ。


「はあ……はあ……。や、やった。何だか分かんないけど耐え切ったよあたし」

「………………………………」


 息も絶え絶えの少女と、その他一匹がそこにいた。

 メアリはひと息ついてから、ゆっくりと周りの景色を見渡してみた。

 世界そのものを破壊するのではないかと思っていた爆発は、実はそこまで威力はなかったようだ。現にこの大穴から外れた町並みにはほとんど被害を受けていない様子だ。倒れる金網の柵、落ちた植木鉢、騒めく民衆、それくらいか。

 とにかく多くの人が怪我をしなかっただけでも良かったと、メアリはそっと胸を撫で下ろした。


「ほらスーサン。爆発は止んだんだからさっさと立って。後、さっきは盾にしてごめん」


 一応悪いとは思っていたらしい。それでも人を爆風の盾にした罪が拭えるかは定かではないが。

 そして危機は去ったとばかりに倒れるスーサンの方を振り向いたメアリは、驚愕で脚を震わした。


「な、…………! 犬! こんな所に犬がいるわ!」


 そう。スーサンがいたと思われし場所には、何故か一匹の"セントバーナード"が行儀良くおすわりしていた。

 セント・バーナード。元々は2世紀頃にローマ帝国軍が軍用犬として飼育されていたモロシア犬が独自の発達を遂げたもので、今では救助犬や番犬として活躍されている。体高は大きいもので1メートル弱、体重は成人男性にも及ぶ超大型犬である。

 そんな大柄な犬がメアリの目の前にいた。ずんぐりとしたおじいさんみたいだなと彼女は込み上がる笑みを抑えながらその犬を眺めていた。


「……何か失礼なことを思ってますねメアリ」

「いやいやそんなことは…………!」


 メアリは目を疑った。というか、耳を疑った。行儀良くおすわりしている赤地に白の毛を生やしたずんぐりむっくりなセントバーナードが、突然彼女の目の前で喋りだしたのだ。


「それにこの声と喋り方、もしかしてスーサン!?」

「そうです。どうやら呪いの影響で犬にされてしまったようです」


 そんな馬鹿な、と思うところだがメアリは納得した。

 何故ならここは鳥取。何が起こるかは分からない未開の地だ。

 取り敢えず穴の中から這い出てみる一人と一匹。もう車の件は後回しにしようということになり、必要なものだけ持って爆発跡地をあとにした。


「でもどうしよっかスーサン。あたしたち旅館に泊まるのに犬連れだってことになったら泊めてもらえないかもしれないよ?」

「折角国から宿泊代を請求できたのに勿体無いですねー。国民の血税を使えるなんて滅多にないことなのに……。よし、こうなったら」

「よし、こうなったら。……なんか嫌な予感がするわねその言い方」


 スーサンは考えた。それは犬でも問題なく旅館に泊まれる、革命的な方法だった。


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