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第2話「そうだ、鳥取、行こう。」

 行き先は決定した。場所は鳥取、日本で随一の未開の地である。

 しかし折角のお宝調査とはいえ、おっさんがたった1人で赴くにはやや心細い。スーサンは協力者が欲しかった。


「というわけでメアリさんも来てください。報酬はサイダー3本でいいですか?」

「何がというわけだおっさん。あたしを雇いたかったらサイダー30ダース持ってきな」


 メアリはそんな要求をしてきた。取り敢えず金額を計算してみる。


「えーつきましては〜サイダー130円が30ダース、1ダースが12本として360本。130円×360本で、合計46800円なり〜。……航空費より高いですね。私お金持ってないんですが、安月給ですし……」

「じゃあツケとくは。いつか返して欲しい時に請求するからよろしく」

「何だか大変なことになってしまいましたね……。まあなんだかんだ言って付いて来てくれるのは嬉しいですけれどね」


 そんなわけで早速出発だ。女子中学生を連れ回す怪しいおっさんはハタから見たらかなり危険だが、そんなことはいつも通りなので2人は大して気にしない。


「じゃあ早速空港に行きましょう。早くしないと乗り遅れてしまいます。何せ日本一田舎ですから、空港の便も少ないんです」

「あたしの分の旅費も出してね」

「計画を変えましょう。歩いていきます」

「出来るわけねえだろ何百キロ離れてると思ってるんだ」


 しかし安月給おっさんのスーサンには、中学生連れ回すだけのお金は持ち合わせていなかった。当然、中学生のメアリも飛行機に乗るだけのお金など持ち合わせてはいない。

 どうしたものか、とスーサンは考え込む。


「やはり無銭運賃ですかね。新幹線にタダ乗りして一気に鳥取まで駆け抜けましょう」

「警察に捕まるのはスーサンだけにしてね。そもそも鳥取は鉄道が無いから」

「マジですか。ならばタクシーを使いましょう。鳥取の人里離れた山に停めて運転手を口封じすれば……」

「ねえ、それよりもお金貸してくれる当ては無いわけ? スーサンその手のツテたくさん持ってそうじゃん」


 スーサンの職業は探偵である。これまで受けてきた案件の中には、様々な立場の人間がいた。彼らのコネを使うことができればあるいは……。

 しかしスーサンはフッと笑った。


「金の切れ目は縁の切れ目。というか私にお金を貸してくれる人なんていませんよ。……これまで借りたお金もありますしね」

「ああ、既に借りてる身分なのね」

「探偵なんて、やりたくてやるような仕事ではありませんよ。加えて私は自営業ですからね、フリーターの方がまだ儲かります」


 ……何だか悲しい話になってきた。気を取り直して移動手段を考えよう。


「うん? おやおやこれは良いものを見つけましたよ」


 ベンチに腰掛け、スーサンが辺りをキョロキョロ見渡して見つけたのは自転車だった。


「ちょうど2人分、都合の良いことにサイクリング用のバイクが落ちていました」

「スーサン、落ちてるんじゃなくて置いてあるんだよきっと。何にせよ人の物を勝手に取るのは犯罪だって」


 そもそも鳥取までサイクリングなど無謀もいいところである。どう考えても1日2日で行けるような距離では無い。


「私の故郷にはこんな格言があります。"バレなきゃ罪じゃ無い"っと。持ち主が戻ってくる前に頂いちゃいましょう少しは移動に役立てるかもしれません」


 スーサンは自転車の鍵穴に針金を差し込んだ。ガチャガチャと穴の中を探り、的確な解除位置を調べていく。


「というかスーサン、ピッキングとか出来たんだ。それって探偵の必須スキル?」

「いや、出来ません。初めて試していますから、成功する確率は非常に低い……」


 ボキッ!!

 ……針金が折れてしまった。

 しかも針金の一部が鍵穴に入ってしまい、取り出せなくなった!?


「ああマズイ! これでは針金が邪魔でピッキングが出来ません!」

「……これ、持ち主の人も使えなくなるよね。どうすんの?」


 こうなってはお手上げだ。入り込んでしまった針金は完全に中で引っかかっているようで取り出せない。


「ならばもう1つの自転車に手を掛けます。大丈夫、最悪2人乗りしますから」

「おっさんと2人乗りとかどんな罰ゲームだっての。あたしは嫌だからね、そんな恥ずかしいことするくらいなら歩いて鳥取に行くし」

「まあそう言わずに。それにどうせ私の体力じゃ鳥取まで漕げないと思うので大半はメアリ任せになると思いますし」

「もっと最悪じゃねえか!! 女子中学生なんだと思ってるんだこのおっさん!」


 今度は趣向を変えて鍵そのものを破壊するようだ。手近にあった拳サイズの石を振りかざし、何度も何度も鍵の破壊を試みる。


「…………ダメです。手が痛くなってきました。メアリ変わってください」

「本当に鬱陶しいなこの人。何が悲しくておっさんの犯罪の片棒担がなきゃならないのよ」

「しかし他に頼れる人が……」

「だから大前提がおかしいんだつーの!! 人の物盗む前に他の手段考えろよ!! 大体あんた自転車の1つくらい持ってねえのかよ車も無いくせに移動手段歩きかよそれでもいい歳した大人か嘆かわしい!!」


 女子中学生に正論で叱られるおっさんの図。確かにメアリの言うことは至極真っ当だった。しかし間違っていることもある。


「いえいえメアリ、勘違いしてるようですが私、自転車は無いですが車くらいは持ってますよ。免許もあります。探偵事務所には徒歩で通ってるのでメアリは知らなかったかも知れませんが、私の家には遠出用の車が用意してあるんですよ。探偵稼業は外泊も多いですからね」


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。



 その刹那、

 メアリの拳が光りだし、黄金色となった彼女の鉄拳がスーサンの顎を思い切り"スカイアッパー"した。

 大空を舞うスーサン。


「じゃあ最初からそれ使えやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「すいません忘れてましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 スーサンの痛烈な謝罪は、この街の遥か彼方まで轟いたという。

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