結衣の語る心の内
やって来た訓練ルームは一種の大きなトレーニングジム施設のような部屋である。
各種あるトレーニング器具に各自が自由に使い筋力トレーニング体力や魔力を高めるトレーニングを行う。
特にあと、もう一つあるトレーニング方法としてはボクシングや格闘技のように対人戦闘をできる部屋が設けられてることだ。
隣接されたその部屋は何もない白い空間の部屋に一件見えるが周りは防壁と言うクッションで張り巡らされ、人の受けた攻撃の威力を吸収すると言う画期的な装置が搭載されている。つまりは人同士が争い傷つけあったとしても痛みはない。
怪我も負うことはない安全面を考慮した部屋。
なので、武器携帯で戦闘行為ももちろん可能であるが殺傷性が極めて高い武器は控えるのが常だ。
特に殺傷性の高い武器を使用するための部屋も別に設けられ、それはこの訓練ルームとは真向いの部屋になっている。
訓練ルームには今日も多くのメンツが鍛えに来ていた。
特にいるのは武装部隊と言われる異世界のテロ行為などの暴動鎮圧部隊のメンバーたちだ。
「あ、最上夫婦じゃないっすかぁ~」
「どうしたんですかぁ~? もしや、二人してエッチな対人訓練とか?」
「うぅ、ミルちゃん破廉恥だよぉ」
「そういって考えるミリアもなのです」
「り、凛ちゃん!?」
相変わらずの4人組。
仲睦まじく今日も訓練をしていた。
「みんな、重要な話をするから集まって頂戴」
そういって4人に結衣は呼びかけを行い目の前に立たせた。
4人は疑問に満ちた眼差しを向けながら結衣の次の言葉を待つ。
「4人ともよく聞きなさい。私と拓斗は先ほどある任務を受けてきました。それは人間界、地球における惨殺的な連続殺人事件が起きておりそれが異世界との因果があるかどうか調査するものです。その事件は惨殺なものばかりです」
そう言いながらさきほどイリナスに見せられたさまざまな事件現場の画像データを空間ディスプレイに投影し提示していく。4人とも青ざめた顔で気分を悪そうにするが誰一人として目をそらさないのはプロだからだ。
彼女たちはいくつもの戦場を駆け抜けた兵士だ。死人を目の当たりにするのは何度もありなれというものを体感してるのである。
「私は今回、その調査チームにあなたたち4人をまず推薦いたしたいの。どうかしら?」
拓斗ももちろん、文句はなくただ黙認をしていた。ここに来る道中に『ディストピア』の件を教えてもらう前に彼女たちがいるのをわかっていたので訓練ルームにて彼女たちを調査チームに勧誘しようと言う話をしていたのだ。
彼女たちは戦闘部隊でもそれなりの実力者たち。
信頼のおける結衣の部下でもある。
「その任務、ワンダフル界の人間であるっすけどこの僕、サルア・アルフィネリアは受けさせてもらうっす」
「ウチも依頼受けますよぉー隊長」
「あ、あたしもですよぉ」
「私もミリアちゃんが行くなら行かざるえないなのです」
「凛ちゃん、どういういみですかぁ?」
「ミリアちゃんはとろいから心配なのです」
「り、凛ちゃん!」
あいもかわらない二人のやり取りが笑いを生み緊張がほぐれるような空気がたちこめる。
4人の意気込みを聞いて拓斗と結衣は頬笑みを浮かべた。
結衣は感謝を述べてさっそく事件の本題に入っていく。
「今回、事件はさまざまな不可解な形で死者が変死してるわ。たとえば、公園で人間が突如爆発、肉片は酸をもっていたかのように飛び散った肉片が辺りの人々に付着した途端に第3者を溶かし始めたとあるわ。わかるとおり、これにより多くの死者が出たのよ。このようなケースは異世界の技術しかありえない。人間の技術にはこのように人間を変えてしまうことは絶対ないの」
「そうなのですよね、人間である私も知らないなのです。そんな化学薬品もなかったはずなのです」
「ええ、そうね。凛の言う通りよ。私も人間だからわかるわ」
拓斗も傍らで頷きながら話の続きに耳を傾ける。
「で、これが重要なことよ。この変死者、つまりは被害者のそばには必ず血文字でこのような文字が記されてるわ」
出てきたのは地球ではない異世界言語。
「地球の言語じゃないじゃないっすか!」
「え? この言語ってこれ、確実に異世界のテロと関係ありまくりッて感じじゃないですかぁー?」
「調査の必要あるんでしょうか?」
「ミリアちゃん、おバカさん」
「凛ちゃんはそういうけど、わかるの?」
「それは――」
「それは?」
「わからないなのです」
全員して一斉にずっこけた。
最後にいつものようにミリアの「凛ちゃん!」という怒鳴り声が訓練ルームを反響する。
「もう、あいかわらずね、凛」
「ほめてもらえてうれしいなのです」
「ほめてないわよ!」
ペースが狂わされ、結衣も頭を抱える。
代わりに拓斗が続きをしゃべることにする。
「えっと、これは『ディストピア』ってかかれてるんだが、この『ディストピア』はおまえたちの中にはわかってっる奴はいるんじゃないか? どういう意味か」
すると、サルア、ミリアの2名が過剰な反応を示した。
「いやぁー、見間違いだと思いたかったっすけど、やっぱりすか」
「ディストピア……」
憎しみや悲しみがないまぜになったような暗い表情を浮かべる二人。
その二人の心情を吐露するかのように結衣がついに拓斗の知りたかったディストピアについて語りだした。
「『ディストピア』は欲望に満ちた理想郷を作り出そうと言う理念を掲げた暴力的なテロ組織。構成員は人種はバラバラで出身世界もバラバラの一種の異世界海賊のようなテロ組織よ」
『異世界海賊』、それは世界渡航のできる特殊な船、次元移動要塞船を使いありとあらゆる世界を行き交いし多くの世界で金目の物を時には狙い他の世界に売りさばいたりするし、特定の世界を自分らの領土にするべくして戦争を起こしてそこを拠点に活動をするなどという一種のギャング集団だ。
「『ディストピア』は特に狙うのは領土といわれてるけど、実際彼らの目的は欲望を満たすだけの殺戮をしてるだけ。彼らは戦争を主とした世界を築き上げてありとあらゆる世界に戦争を撒き散らす災厄の存在よ。それにより、ワンダフル界、エストラントが破壊されたわね」
結衣の最後に口にした二つの世界はサルアとミリアの出身世界だった。
ワンダフル界は犬人といわれる種族たちが住む自然豊かな原始的な世界。特に戦争もない平和な世界という文献には詳細が記されていた。そう、文献だ。拓斗が異空間次元管理監察局に入社したころにはワンダフル界は消滅しており文献でしかその存在を知り得ていない。
サルアの出身であるということで調べたことがある程度である。
対して、拓斗にとってエストラントは拓斗が局に入社して間もない頃に結衣がかかわった大きな事件で破壊された世界ということくらいの認識しかない。
(確か、エストラントって結衣の失態した原因ともなる事件に類する世界だったような……。それ以降か、結衣がずいぶんと大きな任務に出向くことはなくなったのは。まぁ、今回は本当に引き受けたのは意外だったな)
「二人には厳しい任務になると思うわよ。どうする? 今からでも取りやめてもらって構わないわよ」
「やらせてほしいっす! 家族や同胞の仇とるッス!」
「わ、わたしもです! エストラントのみんなが『ディストピア』のせいでおかしくなって戦争をして亡んだ、だからこそ、彼らにはエストラントのみんなの仇打ちがしたいんです!」
ふと、拓斗は二人の素性を改めて思い出した。二人とも故郷を亡くした孤児であり、この局に引き取られていた。
局には彼女たちのようにそういう子たちは数多く存在している。
拓斗のように特殊な体質を見染められて入局したものもいるがそんなのはごくわずか。
局の割合からしてみると故郷を失った者たちの方が多かった。
「そう、私も彼らには一矢報いたいわ。なぜなら、私はエストラントを救えなかった。私は事前に彼らが来ることを知っていながら失敗した。それに、彼らが生きていたのは私が初めて彼らに会った時にちゃんと仕留め切れていなかったからよ」
「それはちがいます! あれはしょうがなかった! エストラントの多くの民が催眠状態にかかって集団的戦闘行為をはじめて――」
エストラントの悲惨な事件を物語る彼女は唐突に胸を抑えた。
それを傍らにいた凛がすぐに介抱するようにして抱きしめた。
「ミリア、無理に話さなくていいわ。いいのよ。あなたの意志は尊重する。ディストピアは何度も私と戦いあった因縁ある組織。だから、今回で仕留めるわ。みんな協力して頂戴」
『はい!』
4人は良き返事をして――そのあとは解散となった。
みんなが訓練ルームからいなくなり、拓斗は結衣のそばに立ち優しく囁きかける。
「ディストピアの関係ってそんなことがあったんだな。なんか、わるかった。無理に問い詰めようとして。でも、お前は悪くなかったと思う。だって、結衣は精一杯努力して来たってのはわかるから」
「拓斗……」
でも、あくまでそのことは2度目に他ならない。
では、1度目はいつだ。彼女はいつかかわりをもった。
「なぁ、話を蒸し返すようで悪いんだがディストピアと最初に出会ったときはいつなんだ?」
「私が15歳の時よ。魔法力の高さが認められて人間だった私を局が引き取りに来たすぐあとの事件でであったわ。東京で出会った」
「なに!? 東京だぁあ!?」
東京と言うことはつまりは地球。
「東日本大震災は知ってるでしょ」
「ああ、あの大きな災害は多くの死者を出したな。それがどうかしたのか?」
「あの影響を作ったのはディストピアよ。彼らは地盤に大きな魔力爆弾を投げ込み地球の日本の領土を奪おうとしたの。だけど、私がどうにか爆弾の威力を抑え込んだ。だけど、すべては抑えきれなかった」
あの大きな震災の裏にそんな事件があったなんて露ほども知らなかった拓斗は驚きで思考が停止した。
あれでは死者が数万と出て多くの人が親せきや身近なひと、愛する者をなくし悲しんだ。
だが、もし、爆弾の威力を抑えきれていなければと考えてしまうとぞっとする。
そもそも、魔力と言うのは魔法の根源の力。
その魔力を蓄積させた爆弾とは一つ爆破すれば街を半壊させるのなんて容易だ。
「言った通り『ディストピア』はシリアルキラーのギャング集団なのよ。絶対に止めなきゃいけない。当時の私はしっかりと親玉を倒したと思ったわ。だけど、甘かった。親玉だけじゃなく組織の構成員全員を殺すべきだった」
「だけど、親玉ってやつもかなりやっかいだったんだろ。なら、十分じゃないか」
「十分じゃない! そのせいで後にエストラントは……」
「ッ! わるい。不謹慎な発言だった」
「いえ、私の方こそカッとなったわ」
拓斗は言葉を模索した。
だが、何も出てこない。これ以上彼女になにかを言えばさらに傷つけてしまうと思ったからだった。
「私はね、その事件を極力抑えたことで局に認められたの。そして、英雄だと言われたわ。でも、死人を出しておいて何が英雄よって思ったわ。いくら地球を滅ぼしかねない魔導爆弾の威力を抑え込んでも結局多くの死人を後にも出してしまった。それなのに英雄魔女。笑える話よ」
そういうことだったのか。
拓斗は常々思っていたことがある。彼女は自分は英雄という呼ばれ方を嫌っていたのだ。
だからこそ、その肩書きを聞いて言いよる元婚約者候補を気取った男にもつんけんした態度をとる。
「英雄魔女なんて言われてからは多くの任務にだされて複数の世界をすくったわ。そして、死人を一つも出さなかった。最初の失敗をしないためにもね。でも、全部たまたまよ。ディストピアなんかより弱かっただけ相手がね」
「…………」
それほどまでにディストピアと言う組織の強大さがひしひしと伝わって来た。
結衣はそれ以上何も語ることはなかった。
代わりに拓斗は思ったことを口にする。
「俺はそれでも結衣は偉いと思う。たしかに多くの死者を出したことは悔やむべきことかもしれないがそれでも、誇るべきことだ。本来だったら地球は壊されてたし俺もここにいなかったかもしれないんだ。だったら、俺は結衣の救われた一つの命ってことになる」
「…………」
「結衣、ありがとう。おまえは十分誇っていいんだ。そして、ディストピアを一緒に倒そう」
そう言いながら優しく頭をなでた。結衣は顔を隠すようにして拓斗に抱きつく。
「しばらく、このままにさせて」
拓斗はうなづく。結衣の静かな鳴き声が拓斗の耳にだけ聞こえたのだった。




