最悪の再会 フォルフィッツ卿
拓斗は急いで結衣の後を追いかけた。
結衣は一向に足を止めることなく廊下を進み、目的地である『異空間次元管理監察局 武装部隊』が主に利用する訓練施設に向かっていた。
その足取りを強引に止めるべくその手を掴み引きとめた。
「おいって」
「痛い! 離して!」
「わ、わるい」
彼女の悲しさと怒りの入り乱れた様なひきつる表情が拓斗の引きとめようとする気持ちを失わせた。
それでも、拓斗にはどうしても聞いておかねばならないことがあった。
「な、なぁ、ディストピアってなんだよ? 何か知ってるんだろう?」
「……」
「それに、今回なんで俺たちにあの任務を与えたのかよくわからない」
「それは私たちが『人間』であり地球生まれだからよ。だから、あの世界の事件は責任をもって対処しろと言うことよ」
「本当にそうなのか? 俺ら以外にもこの組織には人間はいる。なんで俺らだ? 理由を知ってるんじゃないか?」
「……知らないわ」
結衣はそう話を切って逃げるように訓練室へ行くがその道中でばったりと昨日テレビでも映っていた男と遭遇した。
男の名前はイール・ハークライト・フォルフィッツ。
貴族の家ながらも研究の一族でもあるフォルフィッツ家の子息である。
かつて、いや今現在も結衣との結婚を狙うゲスな男は結衣にわざとらしい笑顔を向けて出会えた喜びを表現した。
「いやー、これはこれはユイさん。あえて光栄だよ。昨日の僕のスピーチは見てくれたかな」
「フォルフィッツ卿、いらしてたんですね」
拓斗はごく自然に当たり前のように結衣の横に立つ。
そして、結衣に手を出したら容赦しないという睨みまで利かせ対抗をむき出しにする。
「おっと、これはいるとは気付かなかった。君と会うのは初めてだね」
「そうでもないですよ。数年前にあなたに殺されてますがね」
会ったことにより鮮明にこの男の本性と言うものが見えた。
薄ら笑む笑顔はどれもが作り物であり明らかに自分が上であるという主張を空気として出す威圧感。
相手を蔑んでる。
「おっと、それならば申し訳ない。ん? ということはそうか。君が結衣のおかげで特別事務官長になった結衣の腰ぎんちゃく君か」
「あ?」
さすがの言葉に拓斗は声を荒げた。
まるで小馬鹿にし鼻で笑うイール。
結衣がその会話と拓斗の怒りの衝動で相手を殴りつけないように二人の間に立った。
「それで、フォルフィッツ卿、ただ私に会いに来たというわけではないのですよね?」
「ええ。そうでしたそうでした。この度、あなたの任務には僕のモンスター捕縛部隊が同行することになっていますからその挨拶に来たのですよ」
「どういうことかしら?」
「今回の人間の世界の事件は実に興味深い。それに過去に君が壊滅させた凶悪なテロ組織集団『ディストピア』がかかわってるとなればなおさらだ」
拓斗はマジマジと結衣の様子を伺いみた。初めて知らされた『ディストピア』についての内容は衝撃的であり彼女が頑なにしゃべらなかった理由は過去の戦いになにかあったからだと言うのか。
「興味深い? ふざけないで。多くの人が死んでるのに興味深いってまるで遊び場を探索しに行くみたいな言い方はどうなのかしら?」
もはや、敬語すらかなぐり捨てた結衣は相手を睥睨し虫けら同然のような相手をしてる感情をむき出しにした。
イールもその敏感な気配を察知して両手を上げる。
「これは怖い怖い。英雄魔女と謳われるその殺気は実に畏怖すべきものですね。ですが、それが実によい。ますます、あなたがほしくなりましたよ。カグラユイ」
そういってその手を取ってキスをしようとしたイール。その行動を止める様に拓斗は怒りを爆発させ鼻っ柱を殴り付けた。
「ぐはぁ」
イールは後ろに吹っ飛び控えていた護衛二人が拳銃を抜いた。
同時に結衣も魔力を立ち昇らせて身体から光り輝くオーラが立ち上る。
「よさないか。くくっ、いいね。この僕にただの凡人風情が手を上げるなんて面白いよ」
イールの言葉に従い護衛二人が銃を下ろす。
鼻から出た血をぬぐい、親の仇でも見るような眼光を始めて見せた。それがイールの素顔だった。
「君、名前なんだったか」
「ハッ、凡人風情の名前を聞くのか。今の貴族ってやつは」
「アハハハッ、面白いよ。いいだろう。いずれこの借りは返させてもらうよユイの腰ぎんちゃく君。君がユイの旦那であるのも今のうちだと思えよ。あははは」
イールは護衛を連れだってもと来た道へ引き返すように戻って行った。
しばらく、茫然と突っ立つことになった。結衣は魔力を収め拓斗に振り向き張り手をくらわす。
「イッタぁ! なにすんだっ!?」
「あんた馬鹿よ! フォルフィッツ卿を怒らしてどうするのよ!」
「仕方ないだろムカついたんだ!」
「だからって……」
「第一、あんなやつにお前の手を汚させたくねェ」
「っ」
拓斗が照れたように頬を掻きながらそんなことを言うと結衣は顔を赤くし目線をそらした。
「まぁ、ありがとう」
「いや、いいよ。俺はお前の建前だけでも旦那だしな。それよか、『ディストピア』とはなにやらわけありみたいだな」
「はぁー、知ったのなら話すしかないわね。廊下で立ち話も何だからまずは訓練ルームに行きましょうか」
結衣はそういって説明する決断をしてくれたのだった。




