異空間次元管理監察局長
翌日早朝。
昨日、建前の上では義理の妹になる神楽希の助けの言葉を聞き届け、対策を打つべくまず拓斗と結衣は『異空間次元管理監察局長室』と書かれた扉を前にしていた。
その扉をノックして「どうぞ」と言う声を聞いて開ける。
大きなワンフロアの部屋。壁際に資料の棚が2つほどあり、部屋の中央に作業用の席が設けられ、そこにパソコン業務に没頭する、額の中央に星印の入れ墨をし、珍しい緑色の髪とグラマラスなスタイルをしたOL風の30代くらいのスーツ美女。彼女は人間ではない証がその額の星印である。
イリナス・フィルネア・カルミアンと言う名の彼女。彼女は拓斗の所属する組織のトップであり、その彼女は顔をあげて急なこちらの来訪に険しい目つきをする。
「何か問題事を運んで来たって感じかしらね、その顔は」
お嬢様育ちが目立った感じの言葉遣いで彼女は言う。
「はい、それが――」
結衣が簡潔に昨日、希から伝えられたことを説明した。
そのことを聞いてイリナスの顔は真剣そのものとなる。
「ストーカー被害ね……」
「私が原因で妹が巻き込まれて」
「それはどうしてかしら?」
「だ、だって、明らかに私の婚約者候補の誰かが妹をストーキングして私の情報を少しでも得ようという策略だと考えます!」
あまりにもうぬぼれすぎた疑心暗鬼な判断をする発言だった。
実際のところ拓斗もそう感じずにはいられない。ここ数年において英雄魔女の婚約者候補を気取った連中はあの手この手でけし掛けてきて周りにも被害を被らせてきたほどだった。
「拓斗特別事務官長もそう思うのかしら?」
「えっと……まぁ、今までの経験からいってもそれが普通に思いつく答えですかね」
渋ったように黙り込むイリナス。
なぜだろうか。
拓斗にはイリナスは何か知ってるような気がした。
「イリナス局長は何か御存じなのですか?」
「あら? なんでそう思うのかしら?」
「なにか、そういう風な顔をしていらっしゃいますから」
「知ってると言えば知ってるし知らないと言えば知らない感じね」
「は、はぁ?」
どう受け取ればよいのか、判断に困る言い回しだ。
「今回の件はとりあえず、アタシの方で護衛を手配しておくかしら。これで安心できるでしょ?」
「ありがとうございます」
結衣が礼を言い続けて拓斗も頭を下げた。
「それと、ちょうどよかった。あなたたちはちょうど呼ぶ予定だったから今ここで話しちゃいましょうかしら」
「呼ぶ予定?」
「どういういみですか? イリナス局長」
イリナスは虚空に手を伸ばし空間ウィンドウを表示する。そこにはずらりとした文面が映り何かの情報資料だと理解した。
「ここ最近、人間世界において不可解な連続殺人事件が怒ってるのはご存じかしら?」
「連続――」
「殺人事件ですか?」
結衣と拓斗はオウム返しに言い合い問う。
「ええ、そうよ。まず、これをみてくださるかしら」
一つの画像が映し出される。血みどろに殺された遺体の現場写真だ。ここ数年でそういった写真も見慣れたものであり拓斗はひきつった顔をするも吐き気を催すことはなかった。
一般人が見ればそのおぞましい画像に吐いてしまうだろう。その画像に映る人間は肌が焼けただれ骨が見えてしまっていた。酸で溶かされたのか、もしくは何か別の物質で溶かされたのか。
肉片が綺麗に溶けきっていないのがグロイ。
「これは被害者の現場写真よ。だけど、これはあくまで一種」
「一種? どういうことですか?」
さらにイリナス局長は指を動かすと新たな画像が数枚出てきた。
どれもが殺し方がバラバラだったがどれもが不可解な死に方をしている写真だった。
その下には詳細が書かれている。これは新聞記事だ。
雷にでも打たれたかの様な感電性の内、リゾートプールでの集団感電死亡事件。
公園での突然の人間爆発事件。辺りに肉片が飛び散ってその肉片が他の人に付着したらその人の体を溶かしたという不可解な現象。
炎天下の街中においてのあるビジネスビル内の社員が不可解な自火発熱で死亡etc。
どれもが変死としてなっていた。警察は調査中と書かれいる。
「人間世界での治安維持部隊はこの事態に手をこまねいてるらしいかしらね。犯人は一人なのかそれとも複数なのか。この事件が一見して共通した犯罪であると捜査してるみたい」
「なぜ、そのような判断をしたのですか?」
「結衣、簡単な話なのよ。この犯罪はすべてが変死。現場には奇妙な文字があるからね」
「奇妙な文字……ですか?」
「そう」
結衣の言葉からイリナスは指を鳴らす。
画面が切り替わった。そこには血文字なのか赤いペンキで書いた文字なのか映像からは判断付かないが書かれた文字はどこかの世界文字。
あきらかに地球の人間界の文字ではない。
「古代世界の文字よ」
「えっと、なんて書かれてるんすか?」
拓斗は異世界の用語にはそれなりに学んでは来ているがすべてを理解してるわけではない。
それは結衣も同様だったが結衣にはわかったように血の気が引いたように青ざめた顔でこう言った。
「ディストピア」
「あ?」
ディストピア?
拓斗はその用語の意味を考えて思い出した。
「暗黒卿だったっけか。なんで、変死の現場にそんな文字が?」
拓斗が素直な疑問を口にした時、結衣がわき腹を小突いた。
「口調」
「あ、いけね」
おもわず、敬語を忘れいつもの口調できいてしまう。しかし、イリナスは「きにしないでいいかしら」と言いながら答えた。
「結衣は知ってるかしら。ねぇ、結衣?」
「…………」
結衣の表情に陰りがさした。
拓斗は思わぬ表情に怪訝に思う。
「どういう――」
「その話は彼女からあとで詳しく聞きなさい。それよりも、今回のことで人間世界に異世界の干渉があるのは明白になってるの。だから、あなたたち二人が中心となって明日までに調査チームを作って、3日後に調査してきてちょうだい。また、追って出発の時は連絡をします」
「私たち二人で」
「調査?」
「そう。おねがいね」
急に言われた命令に二人して顔を合わせて頷くのだった。




