朝食
―――――3年後。
そこは白い空間。デスクワーク用の機材と本棚しかないような殺風景な部屋で椅子に座り机の上にあるパソコンのキーボードを一人の青年がカタカタと素早くタイピングしていた。画面上には書類の報告書らしきもの。
「えっと、今回の任務における被害総額はおおよそ2億円となる模様であると」
エンターキーを最後にタップすると青年は大きく息を吐いて作業を終えた一息に手元にあったカップの入ったコーヒーをすする。
壁掛けの時計を確認し、時刻が午前8時になってることに気付いた。
「そろそろ朝食の時間か」
椅子から立ち上がり青年は自らの社内身分証を手に取る。
社内身分証には『異空間次元管理観察局、武装部隊特別事務担当官長、最上拓斗』の記載されていた。
青年、拓斗はデスクワークを終えて朝食のために食堂へ向かい部屋を出た。
大きな会社である拓斗が所属する『異空間次元管理監察局』。施設内の廊下も広く、食堂までの道だけでおおよそ、10分はかかった。
食堂にたどりつくと多くの人が利用していた。
その人たちも人間だけではなく獣耳のある人、トカゲのような人、角を生やした人、大柄な巨体の人、小人などと多くの人種が徘徊している。
それもそのはずである。青年、拓斗が所属する『異空間次元管理監察局』は秘匿の政府組織であり異世界間による衝突的な事件や異世界の衝突が原因のテロ問題を解決するための組織なのである。
それゆえに人種問わずの多くの社員がいて不思議はない。それぞれも役職が多くあり服装もバラバラな者たち。
数年前から所属し始め、その見慣れた光景に平然としながら食堂の配膳の列に並ぶ。
「ふぁーあ」
「また眠ってないの?」
「んぁ?」
背後からそっと声をかけられ、振り返ると絶世の美貌を兼ね備えた美女がいた。
美女の美貌はまさに一般的な顔立ちを凌駕し普通のモデルよりも負けないほどに整った造形の顔。
髪艶もよい茶髪ポニーテール。
すっと細められた目でこちらの様子を伺う美女に拓斗は眠たげな目線で投げやりな口調で了承した。
「眠らないとだめじゃない」
「仕事が忙しいんだ。そういう結衣だってここ最近忙しくってろくに睡眠とってないんじゃないか?」
「私は平気よ。これでも健康には気を使ってるから。戦闘部隊のエース隊長やってるんだもの」
「そうですか」
ふと、彼女の顔を見てれば次第に昔を思い出し始めつま先から頭頂部までを眺めてその成長に一人げにうなづいた。
「ちょっと、人を視姦してないでいいから前進んでるわよ」
「あっと」
そんなこと言いつつも彼女、最上結衣は怒った様子はなくせかした。
拓斗は言われるままに従い前に進んだ。
お盆に本日の朝食が乗せられ、ぐるりとあたりを見渡す。どこも開いておらず困惑したまま立ち止まってれば遠くで手招きする赤毛の少女の姿を目撃し拓斗は渋った表情を浮かべる。
「あー」
「なにしてるの? 行くわよ」
「お、おい結衣。またからかわれるのがオチだぞ?」
「仕方ないでしょ。いい加減慣れなさいよ」
「あのなぁ」
拓斗はあきれるように本日2度目のため息をついて配膳を持った結衣の後を追いかけた。
赤毛の少女のもとに到達する。そこは6人席ようの座席で4人が先に座って食事をしてる途中だった。
4人とも入社当時からの顔なじみであり今では親友同然だった。
「かの有名な最上夫婦のご登場でぇーす!」
「今日も仲良しですなぁー、んふふ」
「うらやましぃ」
「なのです」
左奥に座った犬耳の赤毛の美少女から隣に猫耳の青い髪の美少女、その手前に金髪エルフの美女隣に黒のボブカットの美女が配置している。
赤毛の少女、サルア・アルフィルネリアがいつもながらにいやらしい笑みを浮かべて日本語で冷やかしを言い放った。
「今日もラブラブで二人で朝食を満喫するご予定邪魔して悪かったすねぇ」
「邪魔だと思うなら呼び出しするんじゃねぇよ」
「えー、いいじゃないですかぁ」
もはや意味がわからない。
「サルアっちじゃないですけどウチはお二方のここ最近の夫婦話を聞きたいなぁ―って思ってたからいいですよね?」
追撃射撃のように言及して来たのはサルアの隣に座る青い髪の美少女であるミルフィア・メルフィーネでありいつものごとく現状を面白おかしく楽しむような感じだった。
現状を楽しむのは勝手だが拓斗たちにとってはその話の種が自分たちじゃなかったらよかったと思った。
「ふ、二人とも邪魔しちゃ悪いですよぉ」
「とかいいながらも実は一番二人の状況が気になってるミリアちゃんであったなのです」
「り、凛ちゃんッ!」
エルフ美女たるミリア・スフィリアと藍堂凛がコントのようにふるまう態度で場が和んだところで拓斗と結衣もそれぞれが向い合せに腰を下ろした。
ミリアの隣に拓斗が座り、ミルフィアの隣に結衣が座る。
ミリアは顔を真っ赤にして拓斗の顔色をうかがうように縮こまった。
「ミリアちゃんどうかした?」
「な、なんでもないです」
「ミリアちゃんは拓斗さんのことが――」
「凛ちゃんっ」
拓斗はその続きが気になったがミリアちゃんの決死の何事もないアピールからそのことはあまり追求しないで多くことにした。
「さてさて、さいきんのおふたりはどうなんすかぁー?」
「ですよー、ウチもきになるぅー」
今回の呼び出しの原因たる者たちから追及を逃れることはできないように視線が集中する。
結衣はかまわずに無視を通して食事の箸を進めた。
相も変わらない結衣のどうじなさにびっくりする。
「もう、まぁたそうやって結衣さんは無視するとかひどいっすよ」
「なぁら、ここは拓斗さんに聞くしかないねぇー」
話の矛先がこちらへ向き拓斗は焦ったように視線をそらし食事に差し掛かった。
しかし、遅くその手を掴まれる。
「飯を食べるのはあとにしてお話しましょうよぉ」
「飯を先に食わせろ。あと、一応君たちの上司だぞ俺は」
「今はプライベート時間ですよぉー」
「…………」
拓斗は何も言わずにそのまま天井を仰ぎ見るように額に手を置く。
もう、嫌だという訴えを突き付ける仕草だった。
「話すことは何もない、3年前に付き合い結婚してから変らずだ」
「えー、そうなんですかぁー?」
「結衣さんのような英雄と結婚した異例の男性が結衣さんのような美人といて変らずはないっすよね?」
「いいかげんにしろ。俺は食事をするぞ」
そうして箸を進めれば、今度は結衣に問い詰めたが結衣もいつものように冷たくあしらうだけ。
こうして偽造夫婦生活を続けて3年になった。
順調に進んでいく偽造夫婦生活はいろんなことを経験して来たのであった。
こうして何事もなく来年も続けばいいと望みながら。
だけど、その望みははかないものだったと知ることになるとはこの時は知る由もなかった。




