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英雄魔女の旦那  作者: ryuu
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イール・ハークライト・フォルフィッツの逆鱗 前編

 ――慟哭した拓斗はイールめがけて突貫した。

 拓斗はすべての魔法に通じる攻撃を無へと帰す体質であるが魔道生物の物理攻撃は無に帰すことはできない。

 それでも、拓斗は突貫した。魔道生物の群れの合間を駆け抜けるようにしてイールにたどりついた。

 おもわぬ速さにイールは驚いた。

 おもわず、顔を手で覆い隠し怯えるような挙動を取った。

 拓斗の拳が迫った時、イールの口元がほころんだ。


「なぁーんちゃって」


 イールの足場からどす黒い針が飛びだした。

 それは拓斗の体を貫いた。


「がふっ」



 拓斗は自らになにが起こったのか分からぬままに地に倒れていく。

 その頭をイールは踏みつけた。


「アハハハ、なっさけないねぇー。なぁにが、魔法の効かない体質だから特別扱いされる男? 馬鹿な話だね。魔法が効かないからって強いわけでもないのにさ。神楽結衣もどうしてこのような男に執着するのだか。僕の実験生物の出現にさえ気づかない愚か者なのに」


 イールの足元からゆっくりとその針の正体が姿を現し始めた。

 黒い体毛に覆われた巨大なハリネズミのような魔道生物。しかし、ハリネズミと言えば愛らしい顔を思わせがちだがその魔道生物はあまりにも醜悪な顔をしている。血のように赤い複眼をもっているのだから。

 その複眼がぎょろりと踏みにじられる拓斗に向けられた。


「なぁんだ、おまぇえコイツ食いたいか?」

「がふがふ」

「だけど、ダメだ。コイツを食うと死ぬからなぁ。だから、食うならそこの死にぞこないを食うんだ」


 イールが指示したのは国土安全保障の車に乗り込んでる4人だった。


「まさか、生きてるとは驚いたねぇ。局長の指示でボロットスの連中が事故らせて始末したとおもったけど、あいつらまったく役立たずだ。まぁ、今はもうあいつらは僕の実験によってこんなにかわいらしい姿に変わったけどね」


 そう言って微笑ましそうにイールは自らのそばに立つ魔道生物を見つめた。

 それはつまりは『ボロットス』という組織の壊滅を意味した。

 彼らは雇われただけの存在であり、働かされただけで報酬もなく生体実験の産物にされてしまった。


「ゲス……野郎……」

「あ? んだとぉ!」


 拓斗の後頭部を陥没させるかのようになんども地団駄を踏み、次第に拓斗は意識を薄れさせて言葉すらまともにしゃべれない状態に陥る。


「君たち、周囲の散策念のために行ってねぇ。彼ら以外にも生き残りがいたら困るしぃ。もちろん、生き残りは君たちのペットの餌でおーけー」


 研究所長、イールの命令でその部下たちは一斉に散会して周囲の捜索に移った。

 あまりにも言ってることはおぞましく身の毛もよだつ台詞だというのに彼はまるで日常の会話のごとく何気なく言い捨てた。

 拓斗は意識の混濁する中でも聞こえたイールの言葉を聞いて彼が正真正銘のあくまで、潰さねばならない、この世から消さねばならない存在だと実感する。


(コイツは研究のためならどんなことだってする)


 イールは拓斗を掴みあげて顔を無理につきあわさせた。


「ねぇ、今どんな気分だい? 周りが死んで絶望してる? だったらさぁ、さらに絶望を与えてあげるから見てなよ。今君の前でぼくはねぇ結衣さんを犯してあげる。さらには、君の仲間たちをぼくのペットが捕食するところを見せてあげるよ」


 そう言うやイールは近くのちょうど、そんな光景が見える位置の電柱に拓斗を縛り付けるとゆっくりと、道端に拓斗が寝かせた結衣へイールが近づいていく。

 さらには、車の中でうめき声が聞こえる。

 拓斗は身じろぎして必死に脱出を試みた。

 拓斗はこのままで終わってしまうのかと絶望した時血が垂れて足場に血だまりがたまってるのを見た。

 その光景を見て、拓斗はある計画を思いつくと足場の血を使い文字を描き始めたのだった。



 *******


 イール・フォールフィッツ・ハークライトは長年の夢をやっと叶えられる興奮に喚起して舌なめずりをする。

 今眼前では、元婚約者の女、神楽結衣を下着姿にかえたところだった。その下着を脱がし、あとはことに及べば念願の成就がなされる。

 意気揚々とその下着に手をかけたところで首筋にチクリとした痛みを感じて後ろを振り返った。

 その時に見えたのは拓斗を縛り付けた電柱だった。拓斗が消えていた。


「何っ!? ウォルバ!」


 『ウォルバ』はイールが『ボロットス』のリーダーを供物として作った最上級の魔道生物の名前だった。現在は、命令で元職場の局長とその部下を食えと命令していたが車体のそばにウォルバの姿はない。

 かわりにあるのは黒い血液だけだった。


「ウォルバ! どこだ!」


 首をめぐらしてウォルバを探し呼びかけた。


「イタッ」


 さらに激痛が足先に走った。

 何だと感じて足場を見てみると恐怖に喉を引きつらせた。

 血液のようなものでできた小さなコサック人形の軍団が槍をもってイールの足の周りで蠢いていた。


「なんだコイツらはぁああ!」


 イールは新たな魔道生物を召喚するために懐に手を伸ばした。

 しかし、召喚カプセルはない。


「あれ?」

「お前が探してるのはコイツだろ?」


 憎たらしいまでの殺したい相手の声がイールの真横から聞こえた。



 *******


 拓斗はイールが持っていたカプセルを自らが魔術によって召喚した『血の人形』に奪わせていた。

 あの電柱で縛り付けにされながら考えた作戦は足場にたまった血で魔術を描き出す。

 しかし、描き出せたとしても『血の人形』の膨大に生み出す数はその血の量では足りずわざと頭を出血させてその血で膨大に増やしたのだった。

 車内からも人形であの魔道生物に食われるよりも前に4人の仲間を救い出して、現在は『血の人形』の護衛のもとで背後で寝かせていた。

 疲労と意識の混濁で足元をふらつかせつつ、拓斗は虚勢をはりイールに立ち向かう。

 そのまま、倒れた結衣を目覚めさせるように言葉をかけた。



「結衣! 起きてくれ!」

「黙れ! 英雄魔女の腰ぎんちゃく! そうやって彼女に頼ることしか能がないか!」



 至って正論であった。

 しかし、拓斗は冷静に言葉を返す。


「ああ、そうだ。俺はどうしようもなく結衣に頼ることしかできない馬鹿野郎だ。だからこそ、俺は結衣をサポートして戦う。今の結衣を目覚めさせるのはお前と言う下劣な野郎から結衣を救い出すためでもあるんだ」

「ハッ! てめぇのような野郎が英雄魔女の旦那など誰が認めるものかぁあ!」



 イールが懐から何かの毒液が入ってると思われる注射器を取り出しそれを手にして駆けだしてくる。

 拓斗はコサック人形たちに指示を送りだし彼の身体に群がらせた。


「じゃまだぁ!」


 イールが身体をぶん回して人形たちを振るい払う。

 さらに、懐から何かの試験ビンを取り出し地面に叩きつけた。黙々と煙が立ち込めると人形たちがもがき苦しみだして人形と言う原形は崩れ血液へと姿を変える。

 立ち込める煙の中でイールには害はない様子で拓斗へイールは腕を伸ばした。

 しかし、直前でイールの足は止まった。


「なっ! うごかない」

「ごめんなさい、拓斗。回復に手間取ったわ」

「助かったよ、結衣」


 イールの後ろには目を覚ました結衣がいた。

 結衣は魔法『影の呪縛』という影を伝う拘束術でイールの動きを食い止めている。


「イール・ハークライト・フォルフィッツ。おまえは局長の暗殺未遂およびテロ行為により意義もなく抹殺だ」


 拓斗は取り出した拳銃をイールの額に打ちつけながらそう宣言する。

 イールは狂ったように笑い声をあげた。


「俺を殺せると思うなよ! てめぇもだ英雄魔女ぉ! 俺と言う男を旦那に向かえなかったことを後悔させてやる! 絶対だ絶対なぁ!」

「うるせぇしね」


 容赦なく、引き金は引きしぼられた。

 一発の弾丸はイールの額を貫き、血を飛び散らせた。

 イールが力なくくずおれたのをみて結衣も魔法を解除した。

 壊れた人形のように「ドサッ」とイールは音を立て地面に突っ伏す。

 哀れな男の亡きがらを一蹴して拓斗は結衣に近寄った。


「結衣! 大丈夫か!」

「あなたこそ、ひどい傷じゃない。人の心配よりまずは自分の心配しなさい」

「俺は全然大丈夫……」


 強がり言ったすぐ後で足元をふらつかせて拓斗は結衣に睨まれながら肩に担がれる。


「馬鹿!ふらついてなに言ってるのよ」

「わるい。結衣こそ、魔力は回復は完全じゃないだろ? 俺の血液を与えたりもしたけれども」


 結衣が魔力を回復する要因は二つあった。

 それはまず睡眠をとること。大抵の魔力回復には過剰な睡眠をとることで回復する。これはある意味では人間が体力を回復するのと同じ理屈である。

 では、二つ目はなにかというと、他者からの液体摂取。

 基本的に、この二つ目はあまり行わない行為であり特に『愛情』というものが関係してくる行為もかかわるので広くは使われない。

 だが、拓斗は応急的処置として早急に結衣を回復させ目覚めさせるべく、コサック人形一体を結衣の耳の中から体内へ流しいれて(対菜に入った時に血へ返還する)行った。さらに、そこにもう一つの回復方法、睡眠も重なったために早期の回復ができたのだ。

 されど、それでも十分ではないようすが彼女の表情から窺えた。


「まぁ、そうね。寝たり、液体摂取で体力回復するのが魔力だけど現状、大した回復をしていないのも事実よ。だけど、今はそう長い睡眠なんてとってはいられないしね」

「そうだな。結衣、毒は?」

「毒? ああ、例の細菌? それが不思議と今は大丈夫」

「……そうか」


 拓斗は毒素が消えたことをなんとなくわかっていた。

 それは自らに細菌の毒が効いていないことが意味する。


(やはり、俺の血液を摂取したことで体内の毒が撃退されたのか。俺の血液は抗生物質になる。早いとこ、これを日本政府に知らせないと)


 拓斗は結衣に日本政府への訪問を促そうとした。

 ――唐突に背筋に怖気がはしった。

 それはイールが倒れた位置からだ。


「な、なんでだよ……」

「うそ……あなたは普通の人間のはずでしょ! フォルフィッツ卿!」


 肌を黒色化させて立ち上がり赤黒い瞳をしたイールが立ちあがってその生きてる姿を象徴していた。


「僕は言いましたよ、簡単には死にませんよとねぇ!」


 イールが腕を振りあげたように垣間見えた。


「結衣!」



 拓斗は結衣を突き飛ばす。

 拓斗の腹を何かが貫いた。

 それはイールの右手。その右手に拓斗の臓物が握られており拓斗は一瞬で意識を絶たれ倒れ伏した。

 英雄魔女、結衣の悲しみの声がこだました。

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