災害 中編
聞こえてくる騒音。
それは人の悲鳴や爆音だった。
意識を取り戻し始めた拓斗は重くのしかかった何かをどかしてゆっくりと起き上がった。
激しい痛みを身体の各部位から感じ顔を顰める。額を抑えてぬちゃした感触がした。手元を見れば血がべっとりと付着していた。
目元をこすり周囲を見れば地獄のような光景があった。
瓦解したビル群や家屋にマンションや商業施設などの存在。その瓦礫の山に埋もれて助けを請う人々。
歩道に飛び出し炎上した車、そして、炎にくるまれた人。母親を呼ぶ子供。
足場がないほどの町だったという様相を呈したその場所。
拓斗は後ろを振り返ると瓦礫の山があった。自分がビルの瓦礫によって押しつぶされていたのだと知った。
「結衣は……っ!? 結衣!」
彼女の名前を叫んで呼んだが返事はしない。瓦礫に埋もれたのではないかと焦りが募りビルの瓦礫に手を伸ばした時だった。手前の瓦礫の山から人のうめき声が聞こえた。
徐々に山が膨れ上がって結衣が出てきた。
自らを防衛魔法で守護して瓦礫から防いだようだった。
「結衣! 大丈夫か!」
「ごほっ、ごほっ」
ひどく青ざめた顔をして喀血する彼女を支えて瓦礫の山から救出する。
足の踏み場が少しでもある個所にまで歩いていく。
もう、そこがどこなのかは分からなかったが拓斗は車道のような場所に出て一度二人して足を休めた。
「いったい何が起こったの?」
「地震が起きたんだ。とんでもなくでかいな。こんなタイミングで起きなくてもいいのに。被害は甚大だろう。ほとんどの人たちがどこかの建物にいたわけだから……」
非を見るに明らか。生存してる者の存在が少なすぎた。ほとんどの人たちが瓦礫から這って出てきたような姿をしてる。それは子供にいたるまでだ。
「自衛隊は何してるの?」
「今連絡をして見る」
さっそく携帯を取り出して自衛隊の本部に連絡をしたが応答はしない。圏外の扱いとなった。
「災害のせいでやっぱ通信が駄目になってるな」
「そう……それよりはやく民間人を助けないと……」
「な、何を言ってるんだよ。自分のことが先だ。そんな状態で救えるわけないだろう」
ひどくやつれた体。拓斗は彼女の腹部を見て気付いていた。真っ赤に染まった服のしみ。
それが血だという証拠である。他にも足は明らかに折れてしまっている。
歩ける状態ではない。
「結衣、俺を助けるために一度俺を瓦礫の外側に吹き飛ばして助けたな?」
徐々に拓斗は地震が起きてビルが崩れてくる刹那の光景が思い出してきていた。
あの瞬間に拓斗と結衣は瓦礫に埋もれかけたが結衣が機転を利かせて拓斗を突き飛ばし自らを魔法で守護して守ったのだ。
「ん……なんのことよ……ごほっごほっ」
「身体を動かすな!」
拓斗は彼女を抑えつけて傷口を見て叱責する。
周囲を見て木の棒を拾って足を固定する道具にして自らの袖を破って固定した。
さらに袖を破って腹部の傷口の抑え布に使用する。
「応急手当程度だけど今はこれくらいしかできない。魔法が今は使えないだろうからな」
「……さすがは私の旦那……お見通しってわけ?」
「軽口叩けるくらいには落ち着いてるか。安心した」
と表面上は拓斗は呟いてみたはいいけれど実際に結衣の状態は芳しくはない。上空からヘリの音が聞こえて空を見上げる。
自衛隊のヘリだ。
「良かった。これで救助が……」
その時だった。上空のヘリに向かって何かが襲いかかった。ヘリはそのまま旋回しながらどこか遠くへ墜落して爆音が聞こえてきた。
人の絶望の声が聞こえる。
襲撃した何かが空で羽ばたいている。
(なんだあれは?)
明らかに鳥ではない何か。大型の翼を生やした鳥類にも似てるしトカゲにも似た姿をした生き物。
「うぁあああああああああ!」
近場で人の悲鳴を聞いて振り返ると数十人規模の人がこちらに逃げてくる。
「なんだ?」
遠くの瓦礫の山を踏みつけながら二足歩行した全長5メートルくらいの生き物がカンガルーのごとく跳躍しながら人を長い舌を使って貫いていく姿を見た。
時にはその舌以外にも鋭い牙や爪を使い殺していく。
「魔道生物か」
やっと事の状況に気づいた。上空の生き物もおおよそそれだということに。
地上で撥ねて人を襲う生き物は身体はカンガルーに酷似してるが顔はカメレオンのような姿をしていて気色悪い造形の生き物だった。
「結衣はここにいろ。奴らは俺が食い止める」
「タクト! 無茶よ! いくら魔法が効かない体質でも物理的攻撃は――」
結衣の言葉を無視して駆けだして子供に襲いかかる魔道生物に向けて魔術を行使した。
地面に素早く書いた魔法式から延びた黒い触手がカンガルー系魔道生物を拘束する。
その光景を遠巻きに見ていた民間人が唖然としていた。
「みなさん、逃げてください! ここは俺が食い止めますから!」
すばやく、拓斗は子供に近づき抱きかかえて近くにいた大人に子供を任せる。
「さぁて、カンガルーもどきの化け物ども俺とダンスでもしようじゃねぇか」
足場に書き綴っていく魔術式。次から次へと黒い触手を生み魔道生物を捕縛していく。
しかし、その順調さが長くは続くことはなかった。上空から例のヘリを撃ち落とした魔道生物が奇襲を仕掛けた。
「やばっ!」
するどい鉤爪が拓斗の顔面を捕える。目をつぶった刹那に爆発音が耳に届いた。目をゆっくりとあけると奇襲した魔道生物は黒煙を上げながら死んでいた。
「無茶しないで……」
「結衣!」
結衣が援護に魔法によって火炎玉を射ち出したのだ。
それが魔道生物を殺した。
「魔法が欠乏気味なのに無茶しやがって……」
「旦那を救うのは妻の務めよ」
「だったら、その妻の希望を聞きとどめるのも旦那の務めだ」
「……ここまでかしらね……」
周囲には魔道生物が集まりだしていた。
その時――
「お二人さん! こちらです!」
交差点の瓦礫の陰から一人の男性が声をかけてきた。
その男性は先ほど拓斗が子供を預けた人だ。
拓斗は結衣を掲げてそのまま男性のもとへと走って行った。




