婚姻
空白の意識だったが忽然と目を覚まさせた。
それは誰かの呼び声であった。
社畜人生を謳歌する最上拓斗は目覚まし時計のアラームの音だと思い飛び起きた。
「やばいっ! 遅刻する!」
焦って飛び起きた節に体中に針を突き刺されたような激痛が走った。
おもわず悶え苦しむ。
「よかった、起きて安心したわ」
「へ?」
そこに聞き覚えのない女性の声がすぐに近くから聞こえてゆっくりと顔をあげて周囲を確認した。
そこは見知らぬ部屋。あたり一色が白い壁で覆われ薬品のにおいを充満させている。いくつもの寝台が並び拓斗はその寝台の上で横になっていたのだと理解した。
そう、まるで、病室のようなところだった。
そんな病室の様な所では数人の男女が拓斗の周囲にいて何かを検査していたように医療カルテを記載してるのかレフ板を手にしていた。
「ねぇ、大丈夫?」
拓斗が茫然とするところへ三度声をかける女性。
声をかける彼女には見覚えがあった。
次第に彼女の顔を起点にして鮮明に自分に起こった悲劇が呼び起こされた。
「うぁ……ああああああああああ!」
おもわず、叫びのけ反り頭を抱えて声をかけてきた彼女を指差した。
「お、俺に近づくな! 君が何かは知らないがこれ以上俺に近づくなよ!」
そうして腕に巻かれた点滴の注射針を強引に外す。
「ここはどこだ! 俺に何をしたんだ!」
「ちょっと、落ち着きなさいよ! ただ治療を行っただけ!」
慌てふためく拓斗を見て茶髪のポニーテールが特徴的な美麗な彼女も必死になだめにかかるも逆に悪化の要因になりつつあった。それを見かねた周囲の医者の様な恰好をした白衣の男子が数人がかりで拓斗を取り押さえ首筋に鎮静薬の入った注射器を刺す。
次第に心拍が落ち着き拓斗が脱力したようになると医者たちは拓斗に手錠をかける。
「おい! なんだよこれ!」
「また暴れてもらっては困る医者としての判断だよ。最上拓斗君」
「医者だぁ? 怪しげな人体実験の間違いじゃないのか?」
「覚えていないことはないのだろう? 君のその取り乱しよう……何があったかわかってるのなら今君がこうして生きてられるのは我々のおかげだ。だから、私が医者であるのは証明できるはずだぞ」
医者を自称した男にそう説明をされて拓斗は信用し始め耳を傾ける姿勢を見せだした。
それを確認して美麗の女性はゆっくりと名乗った。
「私の名前は神楽結衣。あなたのおかげであの卑猥な男からの誘惑から救われたことを感謝するわ」
「ハッ、別に助けたくて助けたわけじゃない。それに助けがいるようなあれじゃなかったみたいだしな」
「でも、助けに入ってくれたわよね?」
「…………」
拓斗は彼女の正統性のある言葉にいら立ち始める。
それを見てか、結衣は何を思ったか医者に退出を申し出る。医者たちは目を丸くし慌ててその申し出に反対を示したが彼女の決定は医者たちよりも重いようで医者たちは素直に部屋から退出して言った。
病室の様な空間に拓斗と結衣だけとなった。
「なんだよ? 医者たちを退出させてんなんか乱暴しようってか? あいにくと俺は女性になぶられるうのは結構好きだからご褒美にしかならないぞ」
「……」
結衣の顔が引きつったのを見て拓斗は慌てて「嘘だ、冗談だ。ガチで引くな」と否定を即座にした。
「彼らを追い出したのは乱暴するためじゃないわ。あなたのことと私のことについて話をするからよ」
「あ? どういういみだ?」
「あなたは私を助けた際にあの奇妙な怪物を見たはずよ」
「ああ、あの巨人か。しっかりと覚えてる。あれはなんだ?」
「魔道生物」
「まどうせいぶつ?」
「この世界にはあなたの知らない世界はいくつも存在してるの。そう、いうなれば異世界。その異世界の怪物が魔道生物。魔法によって作り上げられた怪物よ」
「ま、待てよ。い、異世界? ま、魔法? あはは。そんなことを本気で信じろと?」
「でも、事実あなたはこの目で見たでしょ」
「ぐっ……」
拓斗の記憶に鮮明に刻み込まれた恐怖の記憶。魔道生物によって殴り飛ばされた激痛がぶり返したように胸元を抑えた。
「わかった。それを信じるよ」
「よかった。それでなんだけど、私はその異世界間による衝突的な事件や衝突が原因のテロを解決するための政府の秘匿組織に所属する役員」
「政府組織と来たか……まぁいいさ。それがあんたの素性ってわけか」
「まぁ、そういうことよ。それで、ココからはあなたのことだけどあなたにはどうやら異世界の力が効かない体質、つまりは異世界の様な力を備えてることがわかってる」
「は?」
「だからこそ、緊急的な処置として私たち組織の医療ラボに搬送して治療を施したの。そして、あなたのその力はどこで手にしたものなのかと事情を聞こうと思ってね」
「いったい何の話だよ? 異世界の力が聞かないってなんだ?」
「そのままの意味よ。私の治癒による魔法が効果なかったの」
魔法というのがある程度のどういうようなのかは知識は拓斗にもある。
古代から書籍にもオカルト的な逸話があるほど。
漫画やアニメにもあるとおりに効果が傷を治すこともできるのは周知の事実。
つまりは魔法は根源的な力によって超状的な現象を引き起こすものだったはず。
ここで、よくわからないのは非現実的なことに魔法というのはリアルに存在し、自分はその効果が効かない体質であることだ。
「急にそんなこと言われてわかるわけねぇだろ。魔法の存在や異世界の存在とか物語の話だけだと思ってたくらいだぞ。それがリアルにあってしかも魔法が効かない体質だぁあ? こっちが聞きたいくらいだ。自分になんでそんなのが備わってるのか。言っておくが俺は一般的な家庭に生まれたごく平凡な社畜野郎だ」
「みたいね。素性を調べてわかったわ。だからこそなのよ。いろいろとおかしいの。私はこれでも相当な魔女よ。『英雄魔女』なんていわれてるのだけど私の魔法はたとえどんな防壁さえも砕くことができる。その私の放つ治癒魔法であればあなたのその腹部の傷は治せた。けど、効果が出なかったからこそいろいろと問題が起きた。あなたは死ぬところだった」
「っ!」
拓斗は知らされた事実に血の気が引いた。
「そ、そうか。だったら、さっきの無礼は謝る。助けてくれたのならな」
ここで正直に拓斗は謝罪した。自らの身体を今更ながらに見ればあちこち包帯だらけだった。
「しかしな、悪いがその要因は俺自身にもわからない。ただ、一つ思いつくとしたら過去に起因するのかもだけどあいにくと俺は幼少期1歳から10歳までの記憶がないからな」
「どういうこと?」
「そのままの意味さ。俺は11歳のころに記憶のない迷子の子供として警察のもと施設送りにされてそのあとは里親を転々としながら今は一人身の独身社畜生活さ。そんなところにこんな状況になってるんだ」
「そういうこと……。なら、やはりあなたにはしばらくウチにいてもらうしかなくなりそうね」
「は?」
「あなたのその力は異世界のテロ組織の餌食にされそうだから原因がわかるまで私たちの組織であなたをかくまわせていただくわ」
「は、はぁ? なにいってんだよ! かくまうってそれって監禁じゃないか! ここに監禁する気ってことだよな!」
「人聞き悪いわね。だいたいあなたは動ける状態じゃないからあと3週間以上はここで入院生活よ」
「なっ……」
「その治療も無料でしてあげるのだから感謝しなさい」
「ふざけるんじゃないぞ! 元はと言えばお前のせいで」
「わかってるわよ。だから、私もそれなりの報酬も用意するわ」
「報酬?」
「ええ、なんでも私ができることなら望みをかなえてあげるわよ」
「だったら、今すぐ俺を家に――」
「家に帰らせろって要求以外よ」
「うぐぐっ」
さんざんと勝手なことを告げられまくり拓斗の頭はもはやパンクしていた。
なぜにこういう風になってしまったのか。
あの時こいつを助けなければ変っていたのか。
そんなことを繰り返し考えてしまっていた。
次第に人生の悔いの残ることを羅列していきぼそりと口に出した。
「だったら、恋人になってほしい」
「はい?」
数秒間の沈黙が入り、彼女は笑う。
「じょ、冗談でしょ?」
「いいや、冗談じゃないさ。こんなところで永遠に孤独でくたばるのなら恋人の一人や二人でも作ってそいつと一緒にいるっていう幸せを体験するのもありじゃないか。もう、それしか考えられねェよ! 一生独身ではいたくないっ!」
「…………」
彼女は眉間に指を押し当て真剣に悩んでいた。数回こちらを見ては顔を赤くして返ってきた答えは――
「私のこと好きなの?」
「んー、いや、好きとかそういうのはわからないけどあんたは俺の好みのタイプであるのは正直な感想だな。ルックスやスタイルも抜群にいいし」
「っ! そ、そう」
結衣は顔を真っ赤に染め沈黙する。
「そうね。いいわよ。私もほとほとあきれて困ってた所もあるし恋人いえ、夫がいれば言いよってくる婚約者もいなくなるか」
「あ? 夫? まて俺は恋人がほしいと……そこまで求めてはいな……」
しかし、彼女は聞いてはおらず宣言した。
「私は今日からあなたの妻になるわ、最上拓斗」
それが二人の夫婦生活の始まりだった。。




