交通管制センター調査 後編
わずか徒歩で行ける距離をリムジンで移動と言うあまりにも贅沢極まる行為であるが実際のところ局の人間として顔バレは控えたい上にお忍びで来てると言う都合上仕方ない移動方法であった。
道中、リムジンが移動する最中に気づいた。
車窓から見えた交通状況。車があまりにも少ない。日中の時間帯でしかも、今日は土曜日。
会社は休みなところも多くあり中には家族連れでお出かけなんて曜日だったりカップルはデートとかしたりというようなお出かけ曜日だ。
それなのに、車や外出してる人はかなり少なく、かわりに警備員や警察の車両が出回ってる数が非常に多かった。
国会議事堂の近くだからだとかそういう理由もあるのだろうがそれだけではないような雰囲気を感じる。
「あの、異様に外出してる人少なすぎませんか?」
聞かずにはいられずにおずおずと伊井熊に問いただしてみると彼は口を噤みながらしかめっ面をして答えを返した。
「先ほど交通管制センターのテロ襲撃を話したことを覚えていますか?」
「ええ」
それになにが関係するのか数秒ほど考えた。
そして、理解してわかった時には遅く彼が嘆くように愚痴をこぼした。
「管制センターが爆破され、東京全域の交通システムがシャットダウンしたんです。それにより、東京都各地で交通事故が多発。多くの死者を出しました。おかげで人々に出入りの規制をかけました。民間人にはそれなりの生活もあるので会社などには支障が出ないように配慮した規制ではありましたがほとんどの民間人がテロの脅威におびえ引きこもり、中には日本を出る人もいます」
結果はそうなることをすぐに考え付かなかったことが悔やまれた。
拓斗はただただ申し訳ないという気持ちでいっぱいになり謝罪を口にした。
だけど、伊井熊の顔色は依然として沈みきったままである。
テロの爆撃で交通の要である場所が潰されれば交通網に被害は及び信号などはストップする。
交通状況も悪化し事故が多発するのは要因になる結果だ。
ドミノ倒しのように崩れていく。民間人も外の危険性を感じるのも無理はない。
「さぁ、つきましたよ」
車でわずか数分走らせて到着。
車は地下駐車場に止めて全員して下りて交通管制センターに向かった。
*******
「だ、大臣お待ちしておりました。そちらが例の大臣の知人で今回の調査を引き受けたという方々ですね」
交通管制センター室のあるフロアに入って早々に一人の警察官が出迎えた。
細い体つきながらにしっかりと警察官らしく鍛え抜かれた肉体。優男ながらも厳格さあふれる裏の顔をにじませるような30代の男性は大臣と拓斗たちを見てから快く中に案内した。
彼に先導されるままに管制センター室の中に入ってみれば見るも無残な管制センター室だった。
交通管制センターは目の前に大きな地図の電子画面と小さな複数の地図の電子画面があったのだろう面影があるように画面が爛れ中の電子パネルをむき出しになっていた。その画面を観測するようにして通信マイク付きのデスクがいくつも正面に並ぶように配置されていた机たちも無残に血痕がこびりつき机がぼろぼろとなりマイクらしいものとしか残ってはいない。
交通管制センターは映画などで見られるNASAの官制室のようなつくりと似た感じだったのだろうという陰影は思いつくが今は無残な爆撃後の部屋でしかない。
「ひどい……っす」
「これマジィ?」
「なんか、血がべっとりついてますよぉ」
「うっわ、ひくなのです」
いつもおチャラけた4人もこの状況に対して顔をこわばらせ引き気味だった。
拓斗はさっそく辺りを捜索に入ってみる。
研究部もイールが指示を出して血痕の採取など取り行っていた。
「あのー、大臣私はここにいますので何かあれば呼んでください」
「ああ、頼むよ」
警察官は交通管制室の出入り口扉の付近に戻っていく。
部屋には局の人間と大臣だけが取り残された。調査してる騒音立つ中で空気は薄気味の悪くなり始める。
それもそのはず先ほどまで拓斗たちをさんざん貶した大臣と不始末を調査する局が事件現場に取り残される状況。
いい気分ではない。
「居心地悪いな」
ふと、愚痴をつぶやく中でイリアが「愚痴言ってないで探すんス」と促した。
拓斗は重点的に壁周りを叩いて確認する。
壁を叩くのも例の局長からのメールの「環境」という文字がひっかかりを感じていたからだった。
「拓斗! ちょっとこっち来て」
急に呼ばれた声で拓斗は慌てて角のデスクを調査していた結衣のもとに駆け付ける。
「どうした?」
「これを見て頂戴」
結衣がデスクの裏にブルーライトを照らした。
そこには『ディストピア』と古代文字で書かれていた。
いわゆるライトで照らして浮き出る文字。なぜ、このような凝ったような書き方をしたのか謎だ。
ただ、からかいたいのか。それとも、拓斗らのような異世界の関連の役職の人物にだけわかるようにして書き残しているのか。
「ああ、その文字ですね」
後ろから大臣が拓斗らの様子を気にして声をかけた。
大臣はそのあと衝撃的なことに他のデスクにも同様の文字が記されていると言う。
最初はただの汚れだとか鑑識はしたらしい。
なんでも、成分が花の蜜だったからだとか。
「花の蜜ねぇーハハッ、僕にはわかっちゃいましたよ」
イールが突然に喜々とした声をあげてくるくると体を回らせる。
そのまま部屋を出て行った。
拓斗が呼びとめるように声をかけたが聞こうともしない。
自由極まる行動にさすがに一同唖然だった。
「大臣、申し訳ありません。ウチの研究チームの横暴な振る舞いお許しください」
「はぁー、彼のような人材がいるような局は今後安全な対策チームと言えるのか心配だよ」
もっともな文句を言われる。
結衣にすくさず現場の調査を任せ、拓斗は慌ててイールの後を追いかけた。
イールはなぜか出入り口付近の壁に電極版を張り付けて何かを探ってる様子だった。
「何をしてるんだ?」
「壁の調査さ。あの部屋にはもう用はないからね」
「さっき、何かわかったみたいな言い方をしていたみたいだが何をわかったか教えろ」
「はぁー、めんどくさいねー。君には教えないけど結衣になら教えるかなぁ」
「て、てめぇ」
腹立たしいほどにニヤけるその面を無性に殴りつけたくなる。
彼は何かを知って部屋に用はないと断言をした。
なんでだろうか。
「あった」
「あ?」
「ここはもうダメだね。出来上がってる。さぁ、帰るよ君たち」
「なっ! おい! まだ調査中だぞ! 研究員だけ出てくのが許されるのかよ!」
「僕たちのここでの現場の仕事は終わったからね。次の現場に先に向かってるよ」
「あ、おい!」
彼を引きとめようとその手を伸ばすも彼のボディーガードマンである一人の長身痩躯の赤髪の猫耳イケメン男が立ちはだかった。
「たしか、あんたイールのお付きの人だったか。これは仕事なんだよ、邪魔するな」
「申し訳ございませんがイール様の行動を阻害するものを排除するのが今の私の仕事ですので」
彼の目を睨みながら彼の背後を伺う。エレベーターにもう乗り込み下に降りていってしまった研究チーム。
拓斗は毒を吐きつきながらあきらめてもどっていく。
ふと、イールが調査していた壁に目が行く。
「何を調べていた? 魔力地場がどうのって言ってたな」
壁に触れる。武装部隊のように魔力をもたない拓斗には魔力を感知するような能力は持ち合わせてはいないがこの時ばかりは妙な感覚が冴えわたるように感知した。
「なんだ、この入口の壁」
エネルギーのようなものを感じた。
触ると、何か熱くたぎるものが手の平に伝わる。
「そういえば、局長は事件を引き起こすのは環境を作るためなんじゃないかと言ってたな。だとしたら、ここもそれに該当していた? だったら、この壁に魔力的要素があるのか。でも、結衣は――」
管制室にいた結衣になにか気づいたような様子は見受けられない。壁の存在は一切気にも留めていないようだ。
管制室に戻って研究部隊が勝手に撤退したことを結衣に伝えると結衣は眉間にしわを寄せて崩れかけた机を殴り止めを刺すようにして机を粉みじんにしてしまった。
貴重な現場の証拠を破壊するなよと拓斗は半目で彼女を見て溜息をつく。
「なにかあったか?」
「あったといえばあったわ」
彼女が手にしたのは虹色の花弁。
「これは……」
「何か知ってるの?」
「ああ。あらゆる事件現場に落ちてる虹菊の花弁だ」
「え」
拓斗は簡単に菊についてを伝える。
すると、結衣はどうして言わなかったのかというように怒鳴るも拓斗も話すタイミングを失っていたのも事実なのでそれを伝えて口論をしそうになるがそこへ――
「拓斗事務担当官長」
イリアの焦る声に呼ばれて正面のパネルに立ち、小刻みに肩を震わせるイリアに近づいた。
「どうした?」
「これを」
彼女が手にしていたのは環境を形成したり、魔力を自動生成するのに必要なものだった。
「オーブっ」
「その欠片ッス」
赤い丸い宝玉は一種の魔力製造の機械。
たとえば、あの転生装置にもこのオーブというものは使われている。
このオーブがあればその場所で魔力をもたない者が魔法を扱えることもできるし魔力地場にその場所を一時的に変えることもできる。
「なんだってこんなものがあるのかしら」
「想像はつく」
「え? どういうことよ拓斗」
「局長からメールをもらっていたんだが奴ら「ディストピア」の今回の狙いは環境の形成にあると踏んでいるらしい。自分らの世界を構築するための環境作りにこの交通管制センター室を一時的な魔力環境状態に置いたのかもしれない」
「はい? でも、こわしてるのよここを」
「そうだな。一度壊すことが狙いなのかもしれない」
「ますますいってることがわからないのだけど」
イリアは何かを理解したのか納得の言葉をつぶやいた。
「つまり、オーブを使ってこの場所をまず一つの柱にしようってことっすか」
「柱?」
みんなが悩み続けてく中で拓斗が続けて答えた。
「そう、イリアの言うとおりだよ。この場所はただの一つの目的の場所に過ぎない。他の場所もそうだ。彼らは今後もどんどん壊していくぞ。これは日本を包囲する大掛かりな罠の一種」
「罠?」
「ああ。方陣さ」
拓斗はさっそく日本の地図を空間ウィンドウに投影してみせた。
そして、事件があった個所を赤いマークをつけて見せた。
「包囲されてるっすよぉ!」
「え、ええー!」
「これがそうならすぐにオーブを回収しないといけないですぅ」
「なのです」
国会議事堂があるのは東京の下。そこから上に向かい事件の個所に赤い点をつけ結び付けていくと東京都区域がまるで赤い扇形に組み込まれる。
それがわかったところでイリアに調査の詳細な結果記入を任せた。
「さっそくオーブの回収だ。たぶん他にもある。それから、大臣。聞くのを後にしていたのですがここの爆破の犯人って捕まったんですよね?」
「いや、未だに捕まっておりませんよ。なにせ、どういう経緯で爆破されたのかさえ不明なのですよ」
おもわず硬直した。
「事件の犯人の容疑者とかは?」
「いないですね。第一ここは警察署の中であってそんな場所に爆弾を仕掛けられるなんて内部の犯行です。だが、内部に警察は容疑者はいないと考えて目星をつけていないのですよ、嘆かわしい話ですがね」
「……そうか。だったら、この事件で生き残った人はいますか?」
「いや、いません」
そうだろうか。
そんなことを考えながら出入り口窓に立つ警察官を伺った。
なぜか、こちらを見ていた。
「大臣、あとですがこの後に爆撃される個所はまだあります。今現在練馬区、足立区、世田谷区と事件が起こっています。次はおおよそ杉並区近辺で起こります。もしこれが阻止できなければ次は神奈川に彼らは足を延ばすでしょう」
「なっ! なぜ、そのようなことが分かるんです?」
「これがある種のこちらの要因が絡んだ罠だからです。地図上で法則性がそうなっています。ですから――」
出入り口の警察官が携帯を取り出し職務中だと言うのにどこかと話を始めていたことを気にして言葉をやめてしまう。
「あの、拓斗さん?」
「ちょっと、失礼します」
交通管制センターをでてすぐさまに警察官の肩に触れる。
「あの、ちょっと話を聞いていいですか」
次の時、拓斗は異変に気付いた。
含んだような笑みを浮かべて「もう手遅れさ」と言った時、拓斗は自らの間違いに気付いた。
この場所は魔力環境場になったという偽りの見せかけだ。
そう、これ自体は拓斗たち局の人間を引き込むための罠であり交通管制センターという場所をわざと爆破させ事件性に仕立て上げ、囮にした罠だった。
「結衣っ! 全員を連れて今すぐ逃げ――」
「もう遅いよ」
次の瞬間、そう彼が絶望するかのような宣告を伝えた後に、続けて何かを唱えると壁と言うあらゆる壁が爆破し吹き飛んだ。




