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英雄魔女の旦那  作者: ryuu
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希の決断と心情/佐藤・ミューヘルム・伊莉亜

 病室を飛びだした妹を追いかけ結衣は局の裏庭にやって来た。

 裏庭は利用者が少ないガーデニング。草原が大地を埋め尽くし綺麗な花々が散りばめられた美しい環境。

 奥へ進む大きなビニールハウスという名のフラワーハウスがあり、中にはお茶などを楽しむためのカフェテリアも設けられているちょっとした娯楽施設である。

 しかし、その場所も利用者がいない。なぜならば、局員の全員が多忙ゆえに利用できないのだ。一時期は利用者がいたようであるが今では誰かが使ったなどと言う話は聞いたことはない。

 結衣は希がこの場所に入ったのを目撃したためにそんな廃れた裏庭にやって来たがなぜこのような場所に入ったのかと疑問に感じる。

 ふと、不思議に思うことが目に付いた。裏庭は誰も利用してはいないはずなのになぜか手入れが行き届いており花が枯れてはおらず満開に花弁を広げて活き活きとしていた。


「これって」


 目を奪われる花々。その裏庭の奥からその注意力をすすり泣く声の方向へ引かせる。


「希!」


 慌ててフラワーハウスの中に入って中央の大きな鳥かごのような居座るためのカフェテリアスペースに希は座って嗚咽を撒き散らしながら泣いていた。

 人一倍に感情に機敏な妹。先ほど見せられた映像がよほどショックであったのだろう。

 希はたとえ赤の他人の死でもその人のことを深く考え共感する性格である。


「希、平気?」

「お姉ちゃん……私……わたしぃ……」

「泣かなくていいのよ。辛いもの見たわね。いいの忘れなさい」

「で、でも、私……調査チームに……なるなら……慣れないといけないです……」

「あれは局長が勝手に言ってることよ。嫌なら断ればいいの。第一、希は私のせいでこの局にアルバイトとして雇われた一般市民なのよ。希が命を危険にさらすような任務に出る必要はないでしょ」


 数秒間、沈黙する希だったが何かを思ったらしく首を横に振った。


「お姉ちゃんのせいじゃないです。この局に入ったのは私の意志でした。人間界でおこった災厄の原因を目の当たりにした私はお姉ちゃんに助けられた。同時に世界の真実を知ってしまいました。世界は複数あってその複数ある世界の接触や干渉のある事件を解決するという政府の存在。局に入るのも必要にかられましたが私は私の意志で入ったんです」

「でも、希はあの時私に会いたいために追いかけてその真実を知ってしまったのよ。私のせいでしょ」

「お姉ちゃんはいっつも一人で抱え込みすぎです。あれは私の自業自得です。もし、あの場で入らなければ私はお姉ちゃんの記憶を消去されて孤独な人生を歩んでいました。だって、私にはもう家族はお姉ちゃんしかいないんです」


 結衣はそれを聞いて涙ぐんでしまう。


「そうね。あなたと私は小さい頃からそう」


 結衣と希は小さい頃、結衣が中学生2年生で希が小学生6年生であった時に両親は事故で死んでしまいそのあとはずっと二人で暮らしてきた。親戚が陰ながら支えてくれて資金面も援助してくれたおかげで中学生活を結衣は小学校生活を希は乗り越えられた。

 結衣は高校生になってすぐにバイトをして援助金を打ち切り希を支えていく生活をしてきた。

 つらい過去を超えてある時に人間界にやって来た魔道生物を従えたある少女との戦闘で自分が魔法を扱える魔女である自覚を持ち覚醒したのだ。

 その経験を得て今の結衣があった。


「高校の時にお姉ちゃんが長い間帰らない時期は本当にさびしかったからこそ私は真実を知りたくてお姉ちゃんをつけて現場に居合わせてしまったんです。ですから、自業自得なんです」


 もう一度繰り返して希はそう言った。

 結衣は希を抱きしめて感謝をした。


「でもね、希。今回の任務は来てはダメ。希は戦闘なんてできないでしょ。魔力が私みたいにあるわけでもないのよ」

「わ、わかってるけど力なりたいです! 私はずっとお姉ちゃんに支えられてきたから今こうしてお姉ちゃんの力になれることになるなら力になりたいんです! それに私がどうして狙われたのか自分でも確かめたいんです!」

「希……」


 結衣は戸惑った。ここまで頑固な妹は初めてだった。

 そして、妹がどれだけ思いつめていたのかわかってしまう。


「私と一緒ね」

「え」

「抱え込んでしまう。そうやってなんでもね」

「お姉ちゃん?」

「わかった。なら、協力して頂戴。だけどね、希。無茶はダメよ。あくまでバックアップ。希は諜報部として現場の調査情報をしっかりと局に伝達するだけ。それだけよ? 敵情視察なんていうことは絶対だめよ」

「わかりましたお姉ちゃん」

「よろしい」


 深く深く抱きしめながらたった一人の家族の温かみを感じる。

 すると、フラワーハウスに足音が響く。

 背後を振り返ると点滴スタンドを引きずって病医を着こんだ拓斗がそこにいた。

 拓斗の後ろには他にも武装部隊のメンツも笑いながら待っていたかのようにいた。



*******


「来てたの」

「来てたというよりも追いかけてきたんだ。それで、希ちゃんも調査チームに入るのか?」

「ええ。希が決めたことなら私は拒否しない」

「そうか。何かあっても二人は俺が守るから安心しろ」

「それは私の台詞よ拓斗。拓斗が魔法の効かない体質だから余計傷つくのは見たくないのよ、それに補佐のあなたは守るってよりもメインの私に守られやすい立場にあるのよ」」

「あはは。頼りにしてる。だけど、俺はやはり希ちゃんの調査チーム入りには納得はできない」


 そう言った拓斗に希が何かを言おうとするが拓斗は手を挙げて待てと言うジェスチャーを行う。


「けど、希ちゃんが決めたなら納得するよ」

「拓斗さんっ」


 希がうれしそうに拓斗のもとに飛びこんだ。

 それを見て結衣が少ししかめっ面を浮かべた。


「いててっ、希ちゃん喜ぶことじゃないぞ。君はこれから死地に赴くんだ、気をつけないといけないことも多くある」


 飛びこまれたことで傷口に響く。

 そんな痛みよりも希の暖かさが上書きされる。


「はい」


 拓斗は何気ない感じでその頭をなでると猫のように目を細めてうれしそうに希は頬を擦り寄せた。

 結衣は見かねて二人に近づいて希を引っぺがす。


「ほら、希。拓斗は怪我してるの。それに拓斗、あなたもデレデレしないの! しかも、義妹に!」

「デレデレしてるつもりはない」

「なんか言った?」

「いえ、なんでも」


 するどい目つきが拓斗を怖気づかせて背後の4人がその会話を聞きながらひそひそと会話を始めた。


「これが俗に言う」

「夫婦ぉ」

「漫才ですぅ」

「なの」

「ほら、そこの4人とも聞こえてるわよ! だれが夫婦漫才よ! 明後日のために訓練するわよ! ついてきなさい!」


 怒ったように4人を連れて去っていく結衣の後姿を拓斗を笑いながら見送った。

 希も頭を下げて後に続けて出ていく。

 最後にフラワーハウスに取り残された拓斗はしゃがみこみらしくもなく一輪の菊の花に触れる。


「希ちゃんは餌なんかにはさせない。何があろうと俺が全員を守る。力なかろうとこの身を使ってでも誰一人死なせたりしない」


 決断をしながら携帯端末を起動した。

 なぜか、局長からのメールが入っていた。


「何?」


 ふとしたメールからの疑問で辺りのフラワーハウスの花々たちを眺めた。虹色の菊の花と局長のメールの添付画像、事件詳細の画像をもう一度確認して冷や汗を流した。


「人間の世界で大掛かりな実験をするつもり? どういうことだよ」


 いくつもの場所で起こった残忍な事件の犯人は魔道生物によるものであろうことだという局長の推察がメールには事細かに書かれている。

 それらが何かの環境を形成させるために動きつつあるのだとすれば今回の英雄魔女の妹を拉致した件は、極秘事項に係る神楽希の詳細事項に起因すると言う。

 ますますそのメールの文章を読むのに恐怖を感じ始めた。

 局長は考えがあってあのような言い方をしたという謝罪の言葉も書かれていた。


「英雄魔女の妹は血縁から結局魔力保持者であることはわかってるのはごく一部の人間だけ。だったら、なんでその情報が漏れた?」


 環境形成、つまり『ディストピア』の目的になるそういう地形を作るには強大な魔力がいる。

 その魔力を手に入れるには強大な魔力保持者を狙うのがもっともである。

 そこで、目につけるのであれば真っ先に英雄魔女の神楽結衣だろう。

 だが、『ディストピア』は過去の痛手でそうはしなかった。

 ならばと考え、血縁たる魔力保有者の希を狙ったのだとすれば、情報が漏えいしている。


「でも、極秘事項のこの件を知ってるのは俺と局長、研究部、諜報部の上層員、それに管理環境などの部だけなんだがな」


 そう結衣のような元人間が後天的覚醒を得て魔女になったのは事件が起因したことによるものであった。そこから局では血族にも魔力の保有者がいると考え希を局に誘ったのは言うまでもない。

 案の定、希は魔力保有者であった。彼女自身は誘われた理由が情報漏えいの防ぎによるものと思ってるが実際は違う。

 結衣自身もこの件を知り得ずにいて生活をしてるのだ。

 文章の最後にはある人物が疑わしいと書いてある。

 まさかと思っていた人物だ他ので別に驚きはしない。

 監視を怠るなと書かれしめられている。 



「拓斗官長、お話と聞いてきたんですけどこのような場所になに用で?」

「やっと来たな」


 拓斗は振り返る。フラワーハウスにやって来たのは小柄な体に豊満な胸と言ういわゆるロリ巨乳体系の長い黒髪のウサ耳美女で異世界の混合結婚で生まれた唯一の人――佐藤・ミューヘルム・伊莉亜いりあは知的な印象をみせるような美貌で眉間にしわを寄せて怪訝な顔を見せた。

 


「イリアに話とはこれだよ」

「えっと――え?」


 拓斗は端末を操作してイリアの端末に調査チーム依頼のデータを送信した。イリアはおくられたデータを確認して目を丸くする。

 事件概要をチェックしたあたりで顔を顰めて気持ち悪くなったように口元を押さえて青ざめる。


「大丈夫か?」

「官長、これって……そういう意味ですか? 何度か話をされていましたっすけどわたしでいいんですっすか」

「ああ、君には調査チームの一員になってもらいたい」

「はい?」


 イリアは困惑して狼狽してころころと表情を変えて、叫び声をあげるとどうにか落ち着きを取り戻したようだ。


「あのー、いろいろ待ってくださいっすよ。大変うれしいお話ですっすよ。でも、私新入りですっす」

「イリア、そう硬くなるな」

「硬くなるなってかたくなってないですっすよ! 拓斗さん」


 突然と荒ぶるような感じで拓斗を『官長』とは呼ばず『さん』づけで呼称を変えた彼女に拓斗はほっと胸をなでおろした。

 いつもの彼女の感じに戻りこちらの緊張がほどけた。


「あのー、さっきからこっちの話も聞かないで勧めすぎですっすよね!」

「わるいわるい。だけど、今は一刻を争う事態なんだ。人間の世界――君の故郷でもあり俺の故郷でもある場所がテロ組織『ディストピア』に狙われてるんだ。これがどういうことかわかるだろ」

「どういうことかって……人間の世界が滅ぶってことっすよね……別に滅んでいいっすよ。あんなクソな世界」

「おいおい。イリア。それでもお前は局の人間か? 局の人間ならそういうことを口にするな」

「だって、私は人間の世界で確かに生活してきた経歴が長いっす。だけど、小さい頃から魔力でこの耳を隠して生活しなくてはいけなかった! ばれたとき人間がどういう反応かわかるッスか! 化け物呼ばわりっすよ! 私は半分異世界人だったばかりに!」

「落ち着け」

 

 彼女の辛い過去を拓斗もよく知っていた。

 佐藤・ミューヘルム・伊莉亜はハーフ。父親が地球人で母親はウサ耳が特徴的な種族の住む世界ラビルドの住民。ラビルドと地球の混血。地球にはめずらしくも彼女のような存在はいて姿を隠して生活していた。

 2年ほど前にこの局に拓斗が勧誘したのも今でも記憶に新しく覚えていた。

 局に勧誘しなければ彼女は今はここにいなかったと言える。

 彼女は人間の世界にすべてを呆れてテロ行為に3年ほど前にいそしんでいた。だが、局がその情報を彼女がテロにいそしんだ1年後につきとめて彼女を捕縛し死刑まで考えていたが拓斗が彼女の監視と自分の部下に入れることで局長を言いくるめた。

 彼女が過去に耳のせいで悲惨な仕打ちを受けたのはさぞつらいだろう。

 だけど――


「それでも人間の世界にいてよいこともあっただろう。なによりもイリアの父の世界だぞ。少しは考えてみるんだ」


「うぐっ、そうやって言いくるめるつもりっすか、拓斗特別事務担当官長さま」

「はぁー、あそこには高校時代、イリアを助けてくれた恩師や友人もいるだろう」


 拓斗は切り札を提示する手段に講じた。彼女の過去情報から情報を集めて探した二人の人物の今の写真を提示。


「イリアの恩師は結婚し子供がいる。友人は大学生みたいだな」

「……モモちゃん先生……ゆーちゃん」

「2年前のテロ事件は表立っては君の犯行とはされていない。別の者に罪はなすりつけられ解決したようになってる。きみが今回の調査チームにいったとしても問題ないだろう」

「なんで、私なんすか?」


 諦めたのか、それともただの迷いで質問したのか。

 どちらにしても拓斗はほくそ笑みながら理由を言う。


「今回はメンバーがほとんどが女性だ。身体チェックなどのサポートでは女性がいいだろう。何よりも君の腕を俺は見込んでるんだ」

「そう言われるとうれしいっすけど……はぁー、わかったっす。世話になった人のためならやるッス」

「そうか! よかった!」



 うれしそうにしながら拓斗はさっそく調査員の決まったという報告を結衣にメールした。

 

「調査チームはいいっすけどどうしてこの場所に呼んだんスか? なんか、別の意図を感じるんスけど」

「別の意図はないさ。さっき、たまたま希ちゃんがココに来ていたから追いかけたにすぎないんだ」

「そうッスか。あの、だけど、一つ質問いいっすか」

「なんだ?」


 イリアはおもむろに花を一輪手にとって画像を空間投影させながら悲惨な事件の画像の隅っこを指差した。


「っ!」

「これってここの花っすよね」


 画像で見つけたある花。それは局のフラワーハウスだけで栽培されていた特殊な虹色の菊だったのだ。

 イリアの観察眼はやはりすごかった。


「あはは、局長に言われて気付いたのに、イリアはやはりすごい。君を選んで正解だ」

「馬鹿にしてるッすか?」

「いや、わるいな。そうだな。そうみたいだ」

「そうみたいだって……虹の菊なんてこの場所でしか見かけないっすよね。この事件詳細の記事にも菊に関して論争されてるっすよ」

「なに?」


 拓斗は記事の文面をよく読みこんだ。たしかに菊に関しては何処から来たのか、製造方法は? などと書かれていた。しかも、わずかな枠組みでしか書かれていないのによく見つけられるものだった。


「拓斗さん気づいてなかったんスか?」

「あははは」

「まったく。まぁ、同一ならばこれは局内にテロ組織のメンバーがいるって考えになるっすよね、でも、なんで菊の花なんて持ち込んだッスかね? べつにここの菊なにか特殊な花ってわけじゃないはずッスけど」

「…………」


 まったく、思いもよらない観察眼がそこまでの考察を導き出す。

 イリアと言う彼女の目と腕は確かなものだった。

 彼女の言うように内部に犯人がいる可能性がある。そして、非公式で本人も知らない情報であり特別事務と研究部そして、局長しか知りえない情報を誰かが外部に漏らし「ディストピア」がそれを聞いたと思われるのも確かだ。

 このことはイリアは知らないから語りはしないがイリアの推測は当たりには違いない。


「局にこのこと報告したほうがいいっすよね?」

「あー、それなら平気だ。調査後にでも纏めて報告でいいだろう」

「え? いいんスか?」


 目をぱちくりしながらイリアは茫然と上司の横顔を見続けた。


「ああ、いい。それよりも、通常業務に戻ろう。やることは多い」

「そんな身体で業務に戻るんスかッ! 拓斗さんは療養してろって命令じゃないんスか?」

「知るかよ、仕事は大事だ」

「相変わらずの社畜精神ッスね」

「いいから、仕事に戻るぞ。明日の調査材料を準備して今日の財務情勢のシートを――」


 フラワーハウスをイリアとともに拓斗は出て行った。

 しんと静まり返ったフラワーハウス。その花束の中から人影が出る。

 その人影はほくそ笑みながら菊の花を一輪手に取り握りつぶすのだった。




改稿しました。

内容に誤りが見られたので訂正いたします。

すみませんでした!!


次回は明後日か4日後の掲載になると思います。

早ければ明日にでも書きたいです

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