表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/165

161

 

 ――実は、原作では、今日の昼夜懇親会で事件が起こる。

 ……読んでいる分には良いんだけどね? ただ『高潔の王』の場合、一回目に関しては内容が肩透かしっていうか……。


 何が肩透かしかって?

 原作では、この諸侯会議前日の午餐会中に、エロイベントが起こるのである! 

 そうとしか言いようがない。


 恋愛ファンタジー系の創作物ではお馴染みかもしれない。媚薬を主人公やヒーローが盛られちゃう。解毒薬以外の解毒方法は関係を持つことっていうやつ。あれ。

 BL小説である『高潔の王』もその例に漏れない……! 


 シル様と兄、両方に一回ずつある。

 諸侯会議前の午餐会では、シル様が媚薬の罠に引っ掛かる。ただし、未遂。読者としても消化不良だった。


 これはシル様と、原作セリウスの友人レイヴァンが関わってくる。レイヴァンは、現実でも兄の友人ではあるんだけど、正直原作より影が薄いんだよね。現実ではデレクがいるから余計そう感じるんだと思う。現実でいうデレクのポジションに近いキャラクターなのが原作のレイヴァンだから。


 エスフィアに存在する、貴族の二大派閥。純愛貴族派と不倫貴族派。

 レイヴァンは、前者筆頭の公爵家の後継者。

 ただ……ここ数年はエスフィアにいないときのほうが多い。原作でも留学しているっていう描写はあって、現実でもこれは同じ。もう半年以上帰ってきていないんじゃないかな……? さすがに諸侯会議に合わせて帰国はする……はずだけど。今日も見ていないんだよね。


 ――ともかく、原作では、犯人は、媚薬の効果が発動したシル様がレイヴァンを誘惑し、二人が関係を持ってしまうことを狙う。

 媚薬は時限式。飲んですぐに効果が出るわけではない。シル様に媚薬を飲ませて別室へ誘導、そこにレイヴァンを向かわせるという企み。


 が、犯人の誤算は、シル様の体質だった。

 シル様には、媚薬はまったく効かなかったのです……! 

 ……これって、原作を読んだときはわからなかったけど、もしかして『従』だから、とかあり得るのかな。


 ――原作だと、シル様とレイヴァンは会うものの、お互いに呼び出されたはずなのに、そんな覚えはないと発覚。おかしいと会場に戻ったところで、呼び出しの手紙を渡してきた使用人を発見。

 問い詰めて、媚薬の件が発覚する。

 そして何と、犯人も予想していなかったことがもう一つ起こっていた。


 原作のシル様と妹ちゃん……オクタヴィアは公私ともに仲が良い。

 実行犯が用意していた媚薬入りの杯は二つ。念のため用意した予備の杯があった。ちょうどシル様と一緒にいたオクタヴィアは、一緒のものが飲みたいと、その予備の杯を所望してしまっていた。


 実行犯も、止められるはずがなく――。

 もちろん、オクタヴィアには媚薬効果がバッチリ出た。……実はこのとき、オクタヴィアとヒューのキスイベントが起こる。


 考えてみると、この出来事があったのも、妹ちゃんとヒュー、二人がくっ付くのか? と読者が予想するようになった一因かもしれない。

 原作ではシスコンのセリウスが現場を目撃してしまい、一触即発の雰囲気になるも、実行犯を捕まえ駆けつけたシル様とレイヴァンによって、オクタヴィアの様子がおかしいことと、その理由がわかる。


 セリウスは断腸の思いで決断する。一時的な緊急措置として自らオクタヴィアの首筋に手刀を加え、気絶させる。

 ……どうにかして解毒薬を手に入れられないかって流れになるんだけど、さすがの主人公たちも苦戦。


 ――そこで登場するのが、父上。国王権力もあって解毒薬を手配して、目覚めたオクタヴィアに飲ませ、事なきを得る、というのが事件の流れ。

 内容を改めて思い返してみると……つまり、私のエロイベントなのかな? これ。

 重要事件かっていうと、?マークになるものの、私も無関係じゃない点で印象が強い。


 あくまで使用人は実行犯でしかなく、もちろん、この事件には犯人がいる。

 犯人は、兄に片思いをしている貴族のご令嬢。恋心が高じて、二人の間をぶち壊してやるわ、まで突っ走ってしまった。


 媚薬を入手し、使用人は買収して、というシンプルな作戦で、証拠も残っていたので、すぐに犯人は発覚するんだよね。

 ただし、結果的に未遂に終わったのと、本人が反省していたせいか、原作で父上はセリウスの反対を押し切って甘めの処断を下している。

 ……これは、現実の父上を知っていると、少し違和感があったりする。


 この事件は、たぶん諸侯会議前の話を盛り上げるためのエピソード、前哨戦。

 なんだけど――私はこの媚薬事件自体を潰すことにした!

 だって、原作知識から、犯人は判明しているし、原作通りだと私が媚薬を飲むことになる。飲まなければ良い? いやいや、なら、事件が起こらないようにしたほうが早い! 


 何より、犯人は脇役。

 兄とシル様に出会う前、私はシル様に対してどうすべきか迷っていた。兄とシル様が恋人同士にならなければ? いっそ主役の二人が出会わないように仕向けたら――って。これは、結局、やらなかったわけだけど。


 それと比べれば、悩む必要はなかった。迷うことなく私も動くことができたから。媚薬事件が起きなければ、犯人にとっても良い結果になるってことも大きかった。

 ――犯人となる令嬢の名前は、クラリッサ・ヴァンクラフト。……名前はうろ覚えだったものの、特定できた。合致するのは彼女しかいなかった。


 原作では、兄に片思いをしていたクラリッサは、現実では――簡単にまとめると、「尊敬する人は?」と尋ねたら「エレオヴィラ」と答える感じ? ローザ様にも憧れてたような……。原作の限られた描写だと、そんな素振りは全然なかったんだけどね……。


 クラリッサは兄に恋心を抱かなかった。どうしてそうなったかは不明。原作でオクタヴィアとクラリッサの交流はたぶんなかったのに、現実では早々に私が接触してしまった影響? 


 接触したのかなり前だし……。当然、兄とシル様は出会ってもいない頃の話。下手をしたら、クラリッサに会ったのって、兄より私のほうが先かも。

 とりあえず、クラリッサが兄に片思いしていないことは、断言できる。

 当然、犯行動機も消滅! 現実のクラリッサは爵位を狙って兄弟とバチバチしているし、結婚相手は貴族ではなくて、平民を視野に入れている。「だって、そのほうが主導権が握れるではありませんか」って。


 ただ、シシィみたいに、頻繁にやり取りをする友達――という感じではない。

 クラリッサは私の王女権力を必要としている節がある。堂々と言うから、別にそれは嫌じゃない。便りも年単位で一回あれば良いぐらい。でも不思議と、会えば話が弾むんだよね。

 そんなクラリッサとは、「これだけはお願い」と交換条件で数年以上前から頼んでいたことがある。


 今日の午餐会の欠席と、媚薬駄目絶対! の二点! 

 クラリッサも了承した。本人からの「忘れてないから安心してね」的な手紙も届いている! ……その手紙を読んだおかげで、私もこのことを思い出した模様。言い訳するなら、だって、フラグを折ったの随分前だったし……。


 でも、午餐会前に思い出したのでセーフ!

 とにかく、よって、シル様の媚薬事件は起こらないのである!


「殿下がおっしゃるなら、そうなんでしょうね」


 私の、事件は起こらない宣言に対して、納得したようにヒューイが深く首肯している。

 良いんだけど、それで良いのか、ヒューイ! と思わないでもない。私のことを信用しすぎても危険だよ?


「あ、殿下、伯爵もいかがですか?」


 会場では、参加者用に飲み物が配られている。夜ではないので、お酒はなし。どっちにしろ私は飲めないけど。そしてエスフィアで飲み物といえば、当然炭酸水。通りかがった給仕から炭酸水を受け取ったヒューイが、私とローザ様にもすすめてきた。


「ありがとう、いただくわ」

「私も有り難くいただこうかしら」


 ヒューイから受け取った硝子製の杯の中の、無色透明の液体をちょっと私は見つめた。炭酸水だから、泡が杯の内側に付着している。

 ――原作のオクタヴィアが、媚薬入りの飲み物を飲みたがったのは、可愛らしい淡いピンク色の炭酸水だったからなんだよね。


 媚薬のせいでそのカラーになったのか、実行犯が見分けをつけやすいようにそうなったのかは不明。エスフィアでこの方いろんな炭酸水を飲んだものの、色つき炭酸水は、割と珍しい。着色ができないわけではない。でもだいたい無色透明なのが普通。


 ――というわけで、この炭酸水も、安心して飲める。喉を潤してから、空の杯を近くの給仕に渡す。

 ピンク色の炭酸水か……。自分で飲むのは勘弁でも――読者としては嫌いじゃないのが、媚薬なんだよなあ……。


 だって大抵、主人公たちの関係の進展に一役買うし! 盛られた場合は、犯人の思惑通りにならないのが大前提で!

 むしろ、創作内での媚薬はアリだと思います!


 ――そう、あり、なんだけど……ふと、改めて考えてしまった。BL小説における媚薬について、麻紀として昔から疑問に思っていたこと。

 BL小説ではお馴染みの「攻め」と「受け」。


「受け」が媚薬を飲んだときって、なんで襲う……もとい、抱く側にならないんだろう? って。男性で、まだ片思い状態で、「攻め」への気持ちも自覚していないときに媚薬を飲んじゃったら、肉体的には必然的に「攻め」になっちゃわない? 

 この時点ではたぶん抱かれる側じゃないよね? そうすると、女性を襲ってもおかしくないような……?


 いや、BLで、「攻め」や「受け」が女性と関係を持ったらそんな展開ショックだから、なくて正解なんだけどね? でも身体の機能的には……? 「受け」には「受け」として作用する万能媚薬って解釈すればいいのかな……。もしくは媚薬によって、本人も気づいていなかった嗜好を自覚するから、お約束の展開に進む……?

 そんな考えをつい巡らせていると、


「あら、ウィンフェル子爵は、ナイトフェロー次期公爵のことも気になるようね?」


 ゆっくりと炭酸水を飲んでいたローザ様が小さく笑い、ヒューイをからかった。

 媚薬考から意識を会場内に戻す。アレクが場所を移動したのに合わせて、姿を見せたデレクにも、私の周囲の参加者の注目が集まっていた。


「それは……アレクシス殿下の護衛の騎士として参加されているようですので。今日は、驚くことばかりですよ」


 デレクも、午餐会に出席している。ただし、ヒューイの言ったとおり。

 いるのは兄でも、シル様の側でもなく、アレクの側。そして着用しているのは護衛の騎士の制服。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます♡ え? 原作ストーリーでのシル様&オクタヴィア様の危機一髪、媚薬イベントですって!? ちゃんと早くから回避してて良かったと思ったけど、なんか怪しい雰囲気、その炭酸水大丈夫!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ