~第2話:声~
ふわふわしてる。私は浮かんでいるのかな?いや、それとも周りが浮かんでいるだけなのかな?わからない。でも、すごく居心地のいい感覚が私の体を包み込んでいた。
「……ちゃーん」
誰かを呼ぶ声響いてが聞こえてくる。
「……いちゃーん」
それは次第にちかくなり、はっきりと聞こえてきた。
「れいちゃーん」
それは、ネットで使っている私の名前だ。
透美 六花の「透」をとって、「透明」そこから連想すると、実態のないあやふやな存在の幽霊が浮かんできた。
だから「霊」なのだ。
個人的には気に入っている。自分自身、あやふやで、何ものにもなれないと思って生きてきたから似合っていると思う。
でもなぜ、こんなよくわからないところで、その名前を誰が呼ぶのだ。
私は、上を向いているのか下を向いているのかもわからず、声のする方に向きようがなかった。
「ごめんね」
謝られた?なぜ?声の主は私になにかしたのか?
そして、姿がだんだんみえてきた。
「ごめんね」
この一つの言葉がこだまする。
なんで謝るの?なんでなんでなんでなんで__……。謝らないでよ。
私の目から涙が溢れてくるようだった。しかし、心のなかで叫ぶだけで声がどうしてもだせなかった。
優しい声。愛おしい声。知っている。私は、この声をしっている。
「でもね、君は生きてるんだ。現実という世界で生きてるんだよ。だから__……。」
何を言っているんだ。君だって生きてるじゃないか。
私はその人に触れてみようとするが体が動かない。
「僕はこっちの世界生きてるから。だから、無理なんだよ。」
こっちの世界で生きてる?なにそれ。
あなたも現実で生きていて、それで、ネットアプリをしてて、私と出会った。だから顔が見えないけど私は好きになって…。
そうだよ。この人は私の恋した人。ネットで知り合った人。そして私の愛した人。ネットネームは『キル』で、本名は麻宮 時也って名前で、それで……それで……。
「もう、サヨナラの時間だよ。」
「いや!そんな悲しいこと言わないでよ!まるで……まるで!『ときやが消えちゃうみたいじゃない!!』」
私の最後の声はかすれていき、朦朧とする中私は再び目を覚ました。
「なんだ…ゆめか……。」
夢であったという安心感と、もし本当に別れが訪れるのかという不安が私の頭の中をぐちゃぐちゃにかいていた。
また同じ白い天井を前に目覚めるが、横には誰もいない。知らぬ間に朝になっていて、彼は学校に言っているのだろう。
私は隣の引出しの台に置かれた自分の携帯を見つけ、すかさず時也からメッセージが来ていないかをみてみると、1件だけあった。
『別れよ』
私の脳裏には弱い電気のようなものが走った。
現実になっている。私は怖くなった。
『いきなりどうしたの?別れるなんて、いやだよ…。』そう返信をするが、すぐには返ってこない。
何時間かたっても何も返ってこず、何がなんだかわからないがどうすることも出来ない私は、またベッドに身をゆだねて泣いた。いっぱい泣いた。もう涙も枯れるほどに泣くと、私はボーッと窓の静かな外をみた。
「いなくなんないでよ…」
やっぱり私には受け止められない。だって、苦しくても寂しくても好きだったから。大事な存在だから。
『だったら、この世界からいなくなればいいんだよ』
ふと、頭の中に響く声。あの時と同じだ。旧校舎で飛び降りる前に聞いた声。でも、その時の声とは違ったような男の子の声。でも、あの時と同じで、なんだか頭がボワッとして何も考えられなくなると、その言葉のとおり動いてしまう。
「あぶない!」
後ろの方に引っ張られ、僕は後ろの方に倒れた。
「あ…れ……?」
「なにやってんのさ!」
天音くんだった。学校帰りだったのだろうか、制服を着た天音くんが私の病室に入ってきて、窓からまた落ちようとしていた私を引っ張り、後ろに倒れ込む私を抱きしめた。
「君は…死にたいのかい?」
泣きそうな彼なの声を背に、私は何が起きたのか頭で理解出来ていなかったが、しばらくしてやっと頭が追いついた。
私は、またあの声につられここから落ちようとしていた。
「ごめん…声が……声が聞こえたの。」
「声?」
私は天音くんの方に向きなおり、声の存在を訴えた。
そうだ、私が旧校舎から飛び降りた時もこの声が聞こえて、頭がぼーっとした時に体がその声に誘われるように…。
『また失敗か。』
私が思い出している時に、また頭に声が響く。
「え、男の子の声?」
「もしかして、今の声天音くんも聞こえたの?」
さっきの声は、天音くんにも聞こえているみたいだった。
その声とともにノイズのようなものが響き渡り、そして、自分たちのいる地面が崩れだした。
「天音くん!」
「六花ちゃん!」
手を必死に伸ばすが、届かない。
二人とも崩れたガレキとどこにつながっているかわからない暗闇に落ちていった。
「うっ…」
気がついたら、そこは真っ暗闇の知らない場所にいた。
起き上がると足元がふらついてうまく立てない。ふと足になにかあたってつまづいてしまい、前にこける。
(パチッ)
ん?
スイッチのようなものが手にあたり、少し暗めの明かりが目の前についた。そこは広い部屋のようで、私はそのドアの入口につまづいたショックでドアの壁あたりに座り込んでいた。