再会1
誤字脱字など何かありましたら、教えて頂けるとうれしいです。
「お久しぶりです、るり。」
男の登場にルリ・カミーユこと三上るり子は驚いていた。この国1番の魔術師であるこの男は、私の住んでいる小さな小さな村にわざわざやって来るような性格でもなければ彼を此処まで派遣する力を持つ人間は国内にいない存在だ。一体何の目的があってこのようなところまで。
目の前の男は驚きで固まるルリを気にすることなくルリとの距離をつめる。
「お元気そうでなによりです。」
「おかげさまで元気に暮らせています。」
動揺を抑えきれないままもルリは状況を認識しようとこころみた。
「あの日から心配していたんですよ、アヤ様もユリーカもマルコも。どうして何も言ってくださらなかったのですか」
心底そう思っているというような表情で語る男のことを私は心の底から信用できなかった。それまで彼の私に対する態度を思うと不気味としか捉えようがない態度なのだ。といっても彼と最後に会ったのは10年以上も前のことなのだが。
「はぁ。それは、申し訳ありません。皆さんに連絡をしようと思った時にはすでに、私なんかが訪ねられない存在になっていらしたものですから、タイミングを逃してしまったのです。」
「事情は大体ハルトから聞いています。記憶をなくしていたなら仕様がない事態ですから、皆納得していますよ。」
息子のハルトが情報源だったのかと納得する。
「ハルトから直接聞いたのですか」
「はい、マルコと2人で聞かせていただきました。」
「そうですかアヤも知ってるんですか」
「ええ、今あなたがイエント村に住んでいること、記憶をなくしていた時期があること、ハルトを立派に育て上げたということは伝えてあります。」
過去の仲間と親友の名前に内心で懐かしさをかみしめながら、ルリは今こそ過去の清算をするべき時かもしれないと感じた。
ついに10年以上の間逃げていた事実に向き合うべき時が来たのだと。
「アルーシャ様、お願いがあります。」
「なんでしょう。」
「私をアヤの元へ、いや王太子妃様の元へ連れて行ってくださらないでしょうか。」
「あなたはご自分で何を言っているのかわかっていらっしゃるのですか」
先ほどまでの私の身を案じるような彼の声が冷ややかなものへと変化する。
「私のようなものが望んではいけないことだということは十分に理解しているつもりです。しかし、私はアヤに自身の言葉で伝えなければならないことが沢山あるのです。もしそれが出来ないのなら、アルーシャ様のお話は聞かずに帰っていただくことになります。」
私はなけなしの勇気を振り絞って彼に対峙する。
「それは、脅しですか」
彼の凍てつくような視線が向けられる。
「いえ、私はただ事実を述べただけです。」
負けじと彼を見上げるが、きっと彼は私の願いなんて聞き届ける気など起きないだろう。
「わかりました、あなたとアヤ様の面会が出来るよう手配します。ですが、私の話は聞く必要はありません。」
「えっ、」
「今すぐに、王都へ向かいます。」
「あっ、あの、今すぐにですか」
「はい、用意する時間は設けますよ。しかし、今日中にはあって頂きます。何か問題はありますか」
「店をしばらく空けることになるので、その用意を
「それは必要ありません。明日には帰ってこられますから。」………、魔術ですか」
「そうです。」
「そうですか。」
そうだった、この男には不可能なことは何1つないのだった。そしてそれは今もそうなのだろう。
「少し時間を下さい、用意をしますから。」
「それでは、外で待っています。用意ができたら声をかけて下さい。」
そう言って彼は私の家から出て行った。
彼はもしかしたら、私を迎えに来てくれたのかもしれない、ずっと心配してくれていたのかもしれない、という根拠のない感情が胸に広がる。
10年以上あっていなかったはずなのに、ほんの少しの時間会うだけで甘酸っぱい思いが蘇るなんてことはないが、全く蘇らないというわけでもないのだ。
30を越えたおばさんが甘酸っぱい思いなんて言えば笑われるだろうなと思いつつ、着替えて荷造りをする。王宮に行くのだろうし、ましてや会うのは王太子妃なのだ。共にこの世界に喚ばれてからも、その前からずっと一緒に成長してきたあの子はきっと立派な大人の女性なのだろう。
会いたいとずっと思っていたはずなのに。
もう、逃げられない、
あの日に向き合う時が来たんだから。