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正義、復活する

「オヤジッ!!」

 学校へ向かっている最中、輝樹(てるき)が走って来る父親を見つけた。どうやら逃げ遅れた家族を先導しながら一緒に逃げてきたらしい。

 父の亮太(りょうた)は何を隠そう警官で、困った人がいれば助けずにはいられない、まさしく星奈の父親らしい人物なのだ。

「輝樹か!? (よう)と星奈は!?」

「お袋はたぶん学校、んで星奈は啓吾んとこに任せた!」

 亮太はホッとした顔をしてすぐにまた大きな声を出した。

「よし、お前も早く逃げろ! 俺はこの人たちを連れていく」

「でも……」

「大丈夫だ。化け物は見えているが、何かに手間取っているらしくてなかなか来ない。心配するな」

 父親の勇気ある姿に、輝樹は出そうになる涙をぐっとこらえ、その自転車を家族の一人である少年に渡した。

「お前、これ乗れるか? よし行け!」

 戸惑う少年の顔に、けれどその父も母も必死に行くように指示した。

 少年は、それで自分しか逃げられなくても自転車を漕ぐ。そんな姿を両親は涙ながらに見つめた。

「あ、ありがとうございます。お二人は私達家族の恩人です!」

「それを言うのはまだ早いです! 早く逃げましょう!!」

 危機に陥った時、たとえ見知らぬ仲でも助け合うことができる。

 その二人は、ゆっくりと学校へと向かうが、大切な星奈が最も危険な位置にいることを知らなかった。



「おっきいねぇ……」

『……近くに来ると、これほど膨大な力だったのかと改めて感じる』

 星奈とスターは、まるであまりの強さに放心状態だ。

 そして大きさのあまりに、弱ったジャスティスと正義を見落とすほど。

『星奈、言うぞ。私の力はどうやら星形の物なら大体何でも出現させることができるようだ。板なり、盾なり、手裏剣などもできるだろう。だが空を飛ぶとか念動力のような曖昧な力は発動できない。いいな!?』

(みょ、妙に協力的……、どうしたの?)

 優しいスターを気味悪がって星奈が聞くが、それにスターは本気で怒る。

『もう君が引き下がらないから自分の身を守らせようとしただけだ!! 帰ってくれるなら頼むから帰ってくれ!!』

(ごめん、それは無理だよ)

 星奈はステッキを構えて巨人フールに向き直った。

『けっけっけ、スター、随分丁寧な説明を、赤ちゃんみたいな子にするんっすね?』

『フール? 貴様、ふざけた真似を……』

 この距離ならばカード同士の会話ができる。そしてそれは使う星奈と彼も聞き取ることができた。

『私のこの人は最強っすよ!? ただ壊して吸収して巨大になる! シンプルにして圧倒的パワー! 何より彼は()()()()が早い!! さあ行くっす!! あれもそれも壊すっす!!』

(当然っ!! 小娘、たたっ壊れろ!!)

 巨人が腕を振り上げる、同時に星奈は後ろに向かって走り出した。

『星奈!? 逃げる気になってくれたか!!』

(違うっ! けどあんなの無理無理無理ぃーっ!!)

 半泣きになって全速力で走って、ヘッドスライディングまでしてようやく躱せた。

 倒したい、とは思うが物理的にどうやって倒すのか分からないのだ。

 巨人が地面を叩く衝撃は、星奈が地面に顔を打ち付けるほど強い。

 たらり、と鼻血が垂れるものの、星奈は走力や跳躍力が格段に上昇していることに少し気付く。

 気付いたが、それでもますますフールとの力の差を感じてどうにも喜べない。

『星奈! 戦うなら何か武器を出すんだ! 星形の強い何かだ!』

(そんなの突然言われたって思いつかないよ! えーい、ヒトデ!)

 当然ヒトデは出現しない。だが巨人は再び腕を振り上げる。

『星奈っ!! 次が来る!』

(分かってるよ! さっきの板、お願い!)

 今度は星形の板が出現し、星奈はその前の突起を掴んでしかと握った。

 先ほどのように無様に転ぶこともなく、逆にフールを混乱させるようにぴゅんぴゅんと物凄い勢いで彼を中心にぐるぐる回った。

(はっ、速い!!)

 と巨人は驚愕するが、星奈も同じくらい驚いている。

(わーっ! 早すぎるよー!!)

 使用者にもコントロールできない速さ、それをフールに見切れと言う方が無理だろう。

『ちょっとあなたいつまでふらふらしてるっすか!? こんな小娘くらいとっとと叩き潰してくださいよ!!』

(言われずとも、ぬんっ!!)

 がむしゃらに腕を振り回す巨人の攻撃は決して星奈に当たらない。むしろ足元がおぼつかなくなり、隙ができていた。

『星奈、今がチャンスだ。何か攻撃の手段を』

(そんなこと言ったってー! 星形の……剣? そんなのないよ! 星形の、星形の……)

 板に振り回される形の星奈は冷静に考えるほどの余裕がない。だからこそ、まとまらない頭のおかげでとっておきの攻撃が思いついた。

「星よ降れーっ!!」

 絶叫の次の瞬間、空が光った。

 そして大きな衝撃とともに巨人の腕に小さな穴が空いていた。

『んなぁっ!?』

(いでぇっ!! 貫かれたッ!?)

 流星、小さな隕石が巨人の腕を貫いたのだ。大気圏で擦れて高熱を帯びた弾丸のような石は、ただの石ではなくスターの能力で作られた強靭なもの、ジャスティスの鎖刃のように巨人にダメージを与えることができたのだ。

『良いぞ星奈! 今のを続ければ奴を倒すことができる!』

「やった! よーし、任せて! 降れ降れ降ーれ、スター・メテオー!」

 必殺技名まで考えてノリノリの星奈はそのまま笑顔で板に捕まりながら、同じように攻撃を続けた。

 今度の隕石は三つ、まず一つ目が巨人の左肩を貫いた。

(がああああっ!!)

『あははははー!! もうだめだ! もうだめだ! 諦めましょう! 降参しましょう!!』

 二つ目が頬を貫くように顔を沿った。

(くそっ、こんなっ!!)

『いっひぃぃぃぃいいいいいいいい!! ごめんなさい許して助けて何でもしますぅっ!!』

 ――だが三つ目の隕石、胸を狙った一撃は、当たる直前に巨人の体に穴が空いて、彼はこともなげに躱した。

『いやぁぁぁぁぁぁああああああっ!! 痛いのは……あれ?』

 フールは馬鹿である。弱肉強食の戦争派を提唱し、同じ戦争派のチャリオットやタワーに領地を奪われ国を失い放浪する立場になった王。

 その無能のために誰もが彼女をフールと呼んだ。だがタワーやチャリオットのような優秀な戦士を味方の立場に選んだことから、自分より優秀な人材を見る目はあったのだ。

 それがこの世界でも活かされた。『彼』はフールの予想以上に優秀な存在であった。

(……なるほど、これなら、もっと壊せる! もっと、もっともっと壊せるぞぉっ!!)

 星奈達にはフールが自ら体に穴を空けたなど気付かない。だがその発言と異変には気付く。

(なんかおかしくない? あれ?)

『星奈? 危ない、一旦離れるんだっ!!』

 そんなスターの忠告も残念ながら間に合わず、突然爆発したように膨らんで見えた巨人の体の一部が、星奈の体を板ごと弾き飛ばした。

 体の右側面いっぱいを打ち付けられた星奈は、なくなりそうになる意識をこらえ、その一撃の正体を見た。

(……ああ、形が……変わって……るん、だ)

 星の板の勢いのまま弾け飛んだ星奈は、そのおかげで巨人から離れることができた。

 そしてその巨人を、いやもはや巨塔と呼ぶにふさわしいそれをじっくりと見た。

 黒い巨塔の地面一メートル地点から十メートル地点までびっしりと黒い触手が生え、その塔の三百六十度全方位を守っている。

 更に巨塔はじりじりと星奈の方に近づいている。

『星奈っ!! 危険だ!! あれは自由自在に形を変えることができる!』

(わ、分かってるけど……痛い)

 かろうじて腕を避けたものの、肩と脇を強く打ち、呼吸の調子もおかしくなっている。

『……内臓に損傷があるかもしれない。私がいればただの人間より早く治ると思うが……くっ、絶体絶命か』

 スターの激しい慚愧(ざんき)の念が星奈にまで流れ込む。

 スターの、星奈をもっとちゃんと止めておけばよかったという、自らに対する殺意にも似た想いが星奈にまで影響を与えかねない。

 だが星奈はその強すぎる想いを受け止めてもなお、思う。

(……スター、そんなことない。これは私が選んだの。まだ諦めない、啓吾さん、力を、貸して)

 肩を打たれ力が入らないが、左手でステッキを持ち、それを杖のようにして星奈は立ち上がった。

『あはっ、あははははは!! 流石っす!! 完璧っす!! 平和派のにっくきスターをこの場でやっつけれるなんて! さいっこぉぉぉうっ! やるっす、ブッッコロ、そ~れブッッコロ!』

『星奈! 板だ! 早く逃げるんだ!!』

(まだっ、まだ諦めない!!)

 無数の星々が巨塔に向かい落ちる。だがそれらは小さすぎるのだ。巨塔触手はすぐに躱せるし、塔本体も体に小さな穴を空けるだけで躱すことができる。

(無駄だ無駄だ小娘! 壊されろ!!)

(だったら、これなら!?)

 ステッキに力を込めると同時に、星奈の口から血が零れる。

『それ以上は無茶だ!』

 だが今度は星奈の方から、先ほどまで出していた星奈が乗れるほどの大きさの星が無数に出現し、手裏剣のように回転して巨塔に向かった。

 巨人状態と比べはるかに機動性に劣る今の状況なら、直径一メートルほどの星の攻撃は避けれない。

『そうか、これなら!』

 だが大きさは同時に弱点にもなった。

(小娘は考えることが愚かだな。そんなもの、何も怖くないわ)

 大きくなった星は丸鋸のように回転するとはいえ側面が非常に弱い。どれも触手に横を突かれて叩き落とされてしまう。大きくなった分速度が弱いのだ、むしろ小さい方が強かったとすら思えるほどに。

『駄目だ星奈! これ以上の攻撃は君の体にも障る! もう逃げないと……』

(逃げるってどこに!? 学校に逃げたら、お父さんもお母さんも、そんなの……駄目だよ!)

 震えて今にも倒れそうな足、なんとか握ったステッキに全体重をかけて、巨塔を睨む。

(ほう、学校に貴様の家族が? 面白いことを聞いた。大きな建物は皆潰そうと思っていたところだ)

 思わぬ発言に星奈達は更なる恐怖を、フールはますます笑いが止まらない。

『ナハーッ! いいですねいいですね! あんたサイコーっす!! こっちの世界万々ざーい!! あ、どんどこどんどこ……』

 あまりの気分の高揚に一人祭囃子を叩き始めるフールに、星奈達だけでなく『彼』まで怒りに似た感情を持つが。

 フールの祭りはここで終わった。

 突如現れた八本の鎖が下からぐるぐると巨塔を触手ごと締め付け、完全にその動きを封じてしまった。

(むぅ!? これは……うごけん!!)

 締め付ける鎖から体を抜け出そうにも、ますます強く締め付けるために脱出よりも痛みに耐えることを彼は手間取った。

『ななななんですかこれはぁ!? この頭にちくちく刺してくるのは……あいつらっ!!』

 鎖の先の刃を突き刺して固定、鎖と刃の武器を、フールと彼は知っている。

「星奈ちゃん、だったね。ありがとう、君のおかげで、俺も目を覚ました」

 ふらつく星奈の体を支え、正義はゆっくりと座らせた。

(な、なにこの人?)

 絶対正義を体に刻む男を星奈は知らない、だがスターもそこまで近づけば彼女の存在に気付く。

『ジャスティス……、助かった、のか?』

『恩義を感じなさい、と言いたいところだけど、残念ながらおあいこ様ね』

 攻撃を受けても、絶望するような状況になっても、スターが諦めを誘っても、決して諦めず自分の意志を曲げない星奈の姿に、言葉に、近くにいた正義は感銘を受け、立ち上がったのだ。

「後は俺がやる。君は休んでいてくれ」

「あ、あの、でも……」

『星奈、好意は素直に受け取ろう。もう……戦いは終わったも同然だ』

 見れば、巨塔はますます締め付けられ、黒い液体がところどころから流れて蒸発し、縮み始めている。

(バカな!! ありえん、ありえん、この俺が、俺がっ!)

『いーやーっ!! 痛いっす! もうやめましょう!? 投降しましょう!? 命あっての物種っす! いやぁ、本当にすみませんでした。今日から心を入れ替えて誠心誠意、正しいことのために生きるっす』

 体が蒸発していきますます小さくなる巨塔を見て、星奈は安心し、変身が解けた。

「相性……か。巨人のままなら勝てなかった。彼女が来なければ……、それで塔の形に、動きが遅くならなければ……」

『ちょっと、幼女に欲情しないでよ? そういうのはすぐに分かるんだからね?』

「それはないっ!! ただ彼女の勇気と意志に敬意を表しているだけだ!!」

 ――やがてフールは力を失いカードに戻り、『彼』は応援で来た警官隊に捕えられた。変身を解いた後も残るジャスティスの『ロウ・チェーン』によりあの変身ができないように厳重に。

 そして生島正義と彼は警察から長きに渡る事情聴取を受けるが、彼は身元も不明なためにどうにもできず捕縛したままで、生島正義は全てを正直に話し、自ら警察の協力者になることを約束した。

 ただ正義はその場にいたスターの少女こと星奈については話さなかった。警察の事情聴取にも謎の協力者として話題になったが、正体は分からないの一点張りで正義はただ助けられたことしか言わなかった。

 なぜその記録を警察が知っているか、それは星に乗って飛び回る仮面の少女の姿がしっかりと中継のカメラに捕えられていたからである……。



『不思議な力を持つ者として、生島法律事務所の代表生島正義氏が、火野札市警に協力する声明を発表しました。彼は先の巨人騒動を鎮圧したとして実績もあり、また星の仮面の少女に対しても……』

 そんなニュースを数々のカード持ちが見ていた。フール、スターそしてジャスティスのことを知る者達である。

『戦争派の大馬鹿野郎は捕まっちまったか。利用しがいはある奴だったんだがなぁ』

(仕方なかろう、あれは派手に暴れすぎだ。隠者よ、他に仲間の当てはあるのか?)

 相変わらず古ぼけた屋敷の書物に塗れながら、光史郎は自分の脳内のカードと語り明かす。

『戦争派の馬鹿どもは扱いやすいが、平和派の結束は強いからな……。どちらかというと人間に拠るかもしれねえ。しかし、死神は信頼できるだろうなぁ』

(死神、デス、か。くくっ、では、誘い掛けるとするか)

『期待しているぜぇ光史郎。守ってくれる奴が一人いりゃ、新しい作戦の段階に行ける』

 現代の魔術師と隠者は互いに笑い合う。その理解されぬ果てなき野望を抱きながら。


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